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第五章~花の行方~
三百十二話
ぼく達は、ソファに隣り合って座った。居間で向き合うより、手を繋いでいたかった。
お部屋を見渡して、ぼくはほうと息を吐く。いつものお部屋やって、安心したん。まだ、宏ちゃんのお家に来て、それほど経っていないのに――
「ぼく……お家に戻ってこれて、嬉しい」
「俺もだよ」
宏ちゃんはちょっと目を瞠り、嬉しそうに笑う。その顔に、胸がきゅっと痛んだ。
――こんなに大切なおうちを、陽平が壊したんや。
だから、ぼくは知らないといけないんだ。陽平のことを、宏ちゃんの口から聞きたかった。
そう心に決めて、口を開く。
「宏ちゃん。お家のこと……陽平のこと、どうなるか聞いても良い?」
「ああ」
宏ちゃんは、ぼくの手を握って話し始めた。
「家を襲ったのは、城山くんだった。それは、お前も聞いてるんだよな」
「……うん」
申し訳なくて、目を伏せる。
「気にするな。映像を観るまでもなく、俺はなんとなく解ってたんだ」
「えっ……!」
「あれだけの薔薇の香り、気付かないはずない。それに……彼はアルファだ。オメガを奪われて、いつか正気を無くすとわかってた」
宏ちゃんの言葉に、目を見開く。
「ど、どういうこと? いつかこういう事するって、思ってたん?」
「うん」
ぼくは、ちょっと愕然としてしまう。
宏ちゃんは納得してるみたいやけど、動機が全く分からへんかったんよ。だって、ぼくを捨てたのは陽平やし……と考えてハッとする。
――『晶は椹木が好きだったんだ!』
いつか、陽平がそんな風に言っていた。つまり、
「それって、蓑崎さんと上手く行かんくて、八つ当たりにきたってこと……?!」
「はは!」
怪訝に思いつつ問うと、宏ちゃんは思わずと言った風に笑った。
「ひどい。どうして笑うのっ」
「悪い、悪い。自業自得とは言え、哀れだなと思って……」
「え?」
「いや、こっちの話だ。そうだな……城山くんは、大切なオメガを失ったんだ。自分の手の届かないものだと、漸く知った。その痛みに耐えかねて、お前に助けを求めに来たってとこだろう」
宏ちゃんは笑いをおさめ、真剣な顔になる。
ぼくもつられて、唇をきゅっと結ぶ。
「ぼくに、助けを……?」
「ああ。けど、お前が関わる必要は無いんだ。その痛みは……彼のアルファとしての、責任そのものだからな」
「……そうなん」
ぼくは、半ば呆然と聞いていた。かたかたと、膝の上に乗せた手が震えだす。
――陽平……どうしてなん?
蓑崎さんに「裏切られた」って言ってたよね。あの人が、椹木さんのことを好きやったから、って。
それってつまり……蓑崎さんのこと、友達やと思ってなかったってことやん。本当は、好きで。付き合いたかったってことになるやんか。
――嘘つき。晶と俺は友達だって、言ってたくせに。
そのくせ、ぼくに八つ当たりするなんて。
自分の恋愛がうまく行かへんかったから、宏ちゃんのお家を壊したん? そんな風に、ぼくの大切な人を傷つけて、何がしたいの。
ぼくは、唇を噛み締めた。
「ひどすぎるよ……!」
胸が絞られるようやった。
悔しかった。陽平にとって、ぼくは……恋人どころか、友人にも値しなかったんやって、思い知らされる。
――『お前となら、上手くやってけるんじゃないかって……』
陽平のあほ、ばか。――大嘘つき。
もう、一緒に居た四年間のどこにも、真実がない気がしてしまう。
――もう、あいつの為に、傷つきたくなんかなかったのに……!
でも、悲しくて、やりきれへんよ。
「……成」
歯を食いしばっていると、宏ちゃんがそっと抱きしめてくれた。
そんな風にされたら――堪えていた涙が、とろとろとこぼれ出てしまう。
「ごめんね、宏ちゃん……ぼくのせいで……お家がっ」
涙につっかえながら、何とか口にする。
ぼくと陽平のいざこざのせいで、大切なお家を壊してしまった。ぼくが、陽平と婚約していたばっかりに……宏ちゃんに、嫌な思いをさせている。
「ごめんなさい、宏ちゃん」
「馬鹿だなぁ。成は悪くない。辛い思いをしたな……」
「宏ちゃん……」
涙を拭われて、濡れた頬に口づけられる。
ちゅ、ちゅって慰めるようなキスが降ってきて、ずきずきする胸が甘く潤んでいく。がっしりした首に縋りついていると……宏ちゃんが、唇のなかに囁く。
「何も心配いらないから。城山くんのことは、俺にまかせておけ」
「……でも」
「アルファとしての俺の問題だ。成は、何も気にしなくていい」
静かだけれど、断固とした響きやった。
お部屋を見渡して、ぼくはほうと息を吐く。いつものお部屋やって、安心したん。まだ、宏ちゃんのお家に来て、それほど経っていないのに――
「ぼく……お家に戻ってこれて、嬉しい」
「俺もだよ」
宏ちゃんはちょっと目を瞠り、嬉しそうに笑う。その顔に、胸がきゅっと痛んだ。
――こんなに大切なおうちを、陽平が壊したんや。
だから、ぼくは知らないといけないんだ。陽平のことを、宏ちゃんの口から聞きたかった。
そう心に決めて、口を開く。
「宏ちゃん。お家のこと……陽平のこと、どうなるか聞いても良い?」
「ああ」
宏ちゃんは、ぼくの手を握って話し始めた。
「家を襲ったのは、城山くんだった。それは、お前も聞いてるんだよな」
「……うん」
申し訳なくて、目を伏せる。
「気にするな。映像を観るまでもなく、俺はなんとなく解ってたんだ」
「えっ……!」
「あれだけの薔薇の香り、気付かないはずない。それに……彼はアルファだ。オメガを奪われて、いつか正気を無くすとわかってた」
宏ちゃんの言葉に、目を見開く。
「ど、どういうこと? いつかこういう事するって、思ってたん?」
「うん」
ぼくは、ちょっと愕然としてしまう。
宏ちゃんは納得してるみたいやけど、動機が全く分からへんかったんよ。だって、ぼくを捨てたのは陽平やし……と考えてハッとする。
――『晶は椹木が好きだったんだ!』
いつか、陽平がそんな風に言っていた。つまり、
「それって、蓑崎さんと上手く行かんくて、八つ当たりにきたってこと……?!」
「はは!」
怪訝に思いつつ問うと、宏ちゃんは思わずと言った風に笑った。
「ひどい。どうして笑うのっ」
「悪い、悪い。自業自得とは言え、哀れだなと思って……」
「え?」
「いや、こっちの話だ。そうだな……城山くんは、大切なオメガを失ったんだ。自分の手の届かないものだと、漸く知った。その痛みに耐えかねて、お前に助けを求めに来たってとこだろう」
宏ちゃんは笑いをおさめ、真剣な顔になる。
ぼくもつられて、唇をきゅっと結ぶ。
「ぼくに、助けを……?」
「ああ。けど、お前が関わる必要は無いんだ。その痛みは……彼のアルファとしての、責任そのものだからな」
「……そうなん」
ぼくは、半ば呆然と聞いていた。かたかたと、膝の上に乗せた手が震えだす。
――陽平……どうしてなん?
蓑崎さんに「裏切られた」って言ってたよね。あの人が、椹木さんのことを好きやったから、って。
それってつまり……蓑崎さんのこと、友達やと思ってなかったってことやん。本当は、好きで。付き合いたかったってことになるやんか。
――嘘つき。晶と俺は友達だって、言ってたくせに。
そのくせ、ぼくに八つ当たりするなんて。
自分の恋愛がうまく行かへんかったから、宏ちゃんのお家を壊したん? そんな風に、ぼくの大切な人を傷つけて、何がしたいの。
ぼくは、唇を噛み締めた。
「ひどすぎるよ……!」
胸が絞られるようやった。
悔しかった。陽平にとって、ぼくは……恋人どころか、友人にも値しなかったんやって、思い知らされる。
――『お前となら、上手くやってけるんじゃないかって……』
陽平のあほ、ばか。――大嘘つき。
もう、一緒に居た四年間のどこにも、真実がない気がしてしまう。
――もう、あいつの為に、傷つきたくなんかなかったのに……!
でも、悲しくて、やりきれへんよ。
「……成」
歯を食いしばっていると、宏ちゃんがそっと抱きしめてくれた。
そんな風にされたら――堪えていた涙が、とろとろとこぼれ出てしまう。
「ごめんね、宏ちゃん……ぼくのせいで……お家がっ」
涙につっかえながら、何とか口にする。
ぼくと陽平のいざこざのせいで、大切なお家を壊してしまった。ぼくが、陽平と婚約していたばっかりに……宏ちゃんに、嫌な思いをさせている。
「ごめんなさい、宏ちゃん」
「馬鹿だなぁ。成は悪くない。辛い思いをしたな……」
「宏ちゃん……」
涙を拭われて、濡れた頬に口づけられる。
ちゅ、ちゅって慰めるようなキスが降ってきて、ずきずきする胸が甘く潤んでいく。がっしりした首に縋りついていると……宏ちゃんが、唇のなかに囁く。
「何も心配いらないから。城山くんのことは、俺にまかせておけ」
「……でも」
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静かだけれど、断固とした響きやった。
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