いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
313 / 505
第五章~花の行方~

三百十二話

 ぼく達は、ソファに隣り合って座った。居間で向き合うより、手を繋いでいたかった。
 お部屋を見渡して、ぼくはほうと息を吐く。いつものお部屋やって、安心したん。まだ、宏ちゃんのお家に来て、それほど経っていないのに――
  
「ぼく……お家に戻ってこれて、嬉しい」
「俺もだよ」 
  
 宏ちゃんはちょっと目を瞠り、嬉しそうに笑う。その顔に、胸がきゅっと痛んだ。
 
 ――こんなに大切なおうちを、陽平が壊したんや。
 
 だから、ぼくは知らないといけないんだ。陽平のことを、宏ちゃんの口から聞きたかった。
 そう心に決めて、口を開く。
 
「宏ちゃん。お家のこと……陽平のこと、どうなるか聞いても良い?」
「ああ」
 
 宏ちゃんは、ぼくの手を握って話し始めた。
 
「家を襲ったのは、城山くんだった。それは、お前も聞いてるんだよな」
「……うん」
 
 申し訳なくて、目を伏せる。
 
「気にするな。映像を観るまでもなく、俺はなんとなく解ってたんだ」
「えっ……!」
「あれだけの薔薇の香り、気付かないはずない。それに……彼はアルファだ。オメガを奪われて、いつか正気を無くすとわかってた」
 
 宏ちゃんの言葉に、目を見開く。
 
「ど、どういうこと? いつかこういう事するって、思ってたん?」
「うん」
 
 ぼくは、ちょっと愕然としてしまう。
 宏ちゃんは納得してるみたいやけど、動機が全く分からへんかったんよ。だって、ぼくを捨てたのは陽平やし……と考えてハッとする。
 
 ――『晶は椹木が好きだったんだ!』
 
 いつか、陽平がそんな風に言っていた。つまり、
 
「それって、蓑崎さんと上手く行かんくて、八つ当たりにきたってこと……?!」
「はは!」
 
 怪訝に思いつつ問うと、宏ちゃんは思わずと言った風に笑った。
 
「ひどい。どうして笑うのっ」
「悪い、悪い。自業自得とは言え、哀れだなと思って……」
「え?」
「いや、こっちの話だ。そうだな……城山くんは、大切なオメガを失ったんだ。自分の手の届かないものだと、漸く知った。その痛みに耐えかねて、お前に助けを求めに来たってとこだろう」
 
 宏ちゃんは笑いをおさめ、真剣な顔になる。
 ぼくもつられて、唇をきゅっと結ぶ。
 
「ぼくに、助けを……?」
「ああ。けど、お前が関わる必要は無いんだ。その痛みは……彼のアルファとしての、責任そのものだからな」
「……そうなん」
 
 ぼくは、半ば呆然と聞いていた。かたかたと、膝の上に乗せた手が震えだす。
 
 ――陽平……どうしてなん?
 
 蓑崎さんに「裏切られた」って言ってたよね。あの人が、椹木さんのことを好きやったから、って。
 それってつまり……蓑崎さんのこと、友達やと思ってなかったってことやん。本当は、好きで。付き合いたかったってことになるやんか。
 
 ――嘘つき。晶と俺は友達だって、言ってたくせに。
 
 そのくせ、ぼくに八つ当たりするなんて。
 自分の恋愛がうまく行かへんかったから、宏ちゃんのお家を壊したん? そんな風に、ぼくの大切な人を傷つけて、何がしたいの。
 ぼくは、唇を噛み締めた。
 
「ひどすぎるよ……!」
 
 胸が絞られるようやった。
 悔しかった。陽平にとって、ぼくは……恋人どころか、友人にも値しなかったんやって、思い知らされる。
 
 ――『お前となら、上手くやってけるんじゃないかって……』
 
 陽平のあほ、ばか。――大嘘つき。
 もう、一緒に居た四年間のどこにも、真実がない気がしてしまう。
 
 ――もう、あいつの為に、傷つきたくなんかなかったのに……!
 
 でも、悲しくて、やりきれへんよ。
  
「……成」
 
 歯を食いしばっていると、宏ちゃんがそっと抱きしめてくれた。
 そんな風にされたら――堪えていた涙が、とろとろとこぼれ出てしまう。
 
「ごめんね、宏ちゃん……ぼくのせいで……お家がっ」
 
 涙につっかえながら、何とか口にする。
 ぼくと陽平のいざこざのせいで、大切なお家を壊してしまった。ぼくが、陽平と婚約していたばっかりに……宏ちゃんに、嫌な思いをさせている。
 
「ごめんなさい、宏ちゃん」
「馬鹿だなぁ。成は悪くない。辛い思いをしたな……」
「宏ちゃん……」
 
 涙を拭われて、濡れた頬に口づけられる。
 ちゅ、ちゅって慰めるようなキスが降ってきて、ずきずきする胸が甘く潤んでいく。がっしりした首に縋りついていると……宏ちゃんが、唇のなかに囁く。
 
「何も心配いらないから。城山くんのことは、俺にまかせておけ」
「……でも」
「アルファとしての俺の問題だ。成は、何も気にしなくていい」
 
 静かだけれど、断固とした響きやった。
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。