いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
314 / 485
第五章~花の行方~

三百十三話

しおりを挟む
「お前のことは俺が守る。だから、泣かないでくれ」 
「あっ……」
 
 とさり、とソファに優しく押し倒された。覆いかぶさって来た宏ちゃんに、唇を塞がれる。
 
「ん……、ひろちゃ……」
「成、好きだよ」
 
 甘いキスに酔わされながら、ぼくは広い肩にしがみついた。頭がぽうっとして、もう何も考えたくないような気持ちになる。
 言葉も、思考も全てさらうように絡む舌に、なすがまま……全部投げ出してしまいたい。
 
 ――『あなたは、宏章じゃなくても良かったんだろう?』
 
 不意に、お兄さんの怒りに満ちた低い声が脳裏を過る。
 
「――!」
 
 ぼくは、咄嗟に広い胸を押していた。
 
「ま、待って」
「……どうした?」
 
 宏ちゃんは、不思議そうに言う。
 ぼくは大きな手をとって、胸の上に導く。驚きに見張られる瞳を見つめ、おずおずと伝える。
 
「ぼく、宏ちゃんのことが、本当に大好きなんっ……!」
 
 この胸の下に、ずっと息づいている想いに触れてもらえるよう、そっと手のひらを押し付けた。
 誰でもよくなんかない。
 宏ちゃんと一緒に居ると、いちばん安心するん。

 
――『成。今日は何の話をする?』
 
 学校がひけると、いつもセンターに会いに来てくれたよね。
 お互いの夢を語り合った。好きなものも、苦手なものも……たくさん、わけあってくれた。
 宏ちゃんがいてくれるから、なんでも頑張れるって思えたん。――ずっと、ずっと……ぼくの大好きな人。
 
――『あまり、仲良くなっちゃいけないよ。だってね……』
 
 優しい人の忠告は、ぼくが大切なものを失わないように、導いてくれたよ。そのことが、良かったかどうかは、もうわからない。
 でもね。
 
「ぼく、いまが一番しあわせなん。宏ちゃんと、こんなに近くにいられるから」
 
 ぼくは、ありったけの思いを込めて、にっこりほほ笑んだ。――お兄ちゃんとしてだけじゃなくて、パートナーとしても。
 
「宏ちゃんが大好きです。……ちゃんと、伝わってますか?」
「っ、ああ……!」
 
 宏ちゃんは、ぱっと破顔する。勢いよく覆いかぶさられる。
 
「嬉しいよ。本当に……」
「宏ちゃんっ……」
 
 子犬を可愛がるように、顔中にキスを降らされて、からだ中が喜びにくすぐったくなる。宏ちゃんの愛情がたっぷり伝わってきて、胸がドキドキした。
 
 ――でも、まだ……ぼくも。ぼくだって、宏ちゃんにもっと、伝えたい。
 
 大きな手を掴んで、手のひらにキスをする。ぴくりと震えた長い指にも、大きな骨の浮いた手首にも、唇を押し当てた。
 宏ちゃんは、小さく息を詰める。
 
「あのね……宏ちゃんのこと、お兄さんから聞いたん、ちょっぴり悲しかった」
「……あ」
 
 宏ちゃんの瞳に、後悔が揺れる。ぼくは笑って、指をきゅっと握りしめた。
 
「ぼくの為やって、わかってるよ。やから……宏ちゃんのこと、もっとぼくに教えて?」
 
 宏ちゃんの話してくれたことは、ぜんぶ信じられるもの。それで……次こそは、お兄さんにわかって貰うんよ。
 宏ちゃんは、本当に優しくて……優しすぎて、気づかれないんだぞって。
 
 ――いつも、何も言わないで、守ってくれてる。こんなに尊い人、ぼくは知らない。
 
 両腕を伸ばし、宏ちゃんを抱きよせる。思いきり引っ張ったから、ぼくの上に大きな体がずしんと乗っかった。
 身体全部に宏ちゃんの重みを感じて、くらくらする。
 
「成っ? 平気か」
 
 宏ちゃんが、上からどこうと慌てている。……優しいなあ。つい、笑ってしまった。
 ぼくは、ぎゅうと首にかじりつく。
 
「大丈夫。ぼく……宏ちゃんの奥さんやものっ。何も苦しくないよ」 
「!」
 
 間近にある綺麗な目が、瞠られる。
 ぼくは、想いを込めて見つめた。
 
 ――宏ちゃんが、何より大切なん。
 
 ぼくね。お義母さんの話を聞いたとき、思ったんよ。
 大嫌いなはずのパイナップルケーキを、自分から選ぶのは……ご両親と、ご兄姉の仲を取り持つためなんでしょう。自分が我慢しても、皆に喜んで欲しいからなんだよね。
 そうやって、当たり前に優しいあなたを……ぼくが、大切にしたいから。
 
「宏ちゃん……」
 
 頬を寄せて、ぼくから唇を重ねる。
 ぴく、と宏ちゃんが固まった。それでも――愛情が伝わるようにって願いながら、たくさん……宏ちゃんにキスをした。
 
「成……!」
 
 宏ちゃんの切ない声が、ぼくを呼んだ。
 突然に、形勢が逆転する。ソファに押し付けられるように、宏ちゃんが覆いかぶさってきて、激しく唇を奪われた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 261

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

失恋までが初恋です。

あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。 そんなマルティーナのお話。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

処理中です...