325 / 505
第五章~花の行方~
三百二十四話【SIDE:陽平】
気が付けば、会場を飛び出していた。
じわじわと照り付けるアスファルトに躍り出て、成己の姿を探す。
――どこに行きやがった!
まだ出てから、少しもたっていないはずだ。苛々とあたりを見回すと、遠目にある駐車場に、その姿を発見する。しょぼいワゴン車に、成己が乗り込んでいた。
「……成己!」
すぐに発進した車を、全力疾走で追う。
――逃がすか……!
歩道を突っ切っていく俺を、通行人たちが驚愕の顔で振り返る。自転車にベルを鳴らされたが、無視して走る。風が汗を飛ばし、シャツが背ではためいた。
成己のことしか、頭になかった。
「あの野郎……! ふざけやがって」
野江の腕に、安心しきったように身を預けていた姿に、はらわたが煮えくり返る。やわらかな頬は桃色に染まり、華奢な手は野江のシャツを掴んでいた。
あんなに、甘い香りをさせて……あの男のために。
――ふざけるなよ……お前は、お前は……!
怒りをガソリンに、遮二無二走った。
しかし、所詮は人の脚と車。ワゴンが交差点を右折したところで、千切られてしまう。
「……っ、くそぉ……!」
膝に手を突き、荒い息を吐く。……走り続けた負荷が一気に襲い、ぜいぜいと胸が上下した。滝のような汗が伝い、コンクリートに点を打つ。
寄り添っていた二人が浮かび、拳を握りしめた。
「クソッ!」
がん、と腿を拳で打つ。――鈍い痛みに、頭に上っていた血が引く。
「……落ち着け。あいつら、家に帰るはずだ。なら、車で追いかければいい」
てか、最初からそうすれば良かったんじゃないか。馬鹿正直に走って追いかけて――ドラマじゃあるまいし。
いったい、どれほど我を失っていたのか。気恥ずかしくなる思いで、俺は運転手に連絡を入れた。
城山お抱えの運転手、小川さんは有能さを発揮し、すぐに車を回してくれた。
「うさぎやって、喫茶店があるんだけど。そこまで頼む」
「かしこまりました、坊ちゃん」
野江の家と言えば、反対されるのはわかっていた。
あえてぼかして伝えた行き先に、小川さんは穏やかに頷く。長く使えてくれているこの人を、騙すことに罪悪感はあったが……駆けつけないという選択肢は無かった。
シートに凭れ、思い出すのは成己の様子だ。
――……あんなのは、おかしいじゃねえか。
瑞々しいけれど、甘みを増した花の香り。まるで、光が滲みだすかのように透明度を増し、輝いていた肌。
一緒に居た四年間に、見たことがない成己だった。
この前、野江叶夫の誕生会で、あの男の腕に抱かれていた時でさえ――あんな風じゃ、なかった。
――『宏ちゃん……』
あんな……触れなばおちん、ような。
「……ッ」
ギリ、と唇を噛み締めた。
伸びた牙が口の内部を傷つけ、血なまぐさい味が広がる。苛立ちが余計に本能を駆り立てて、視界が狭くなっていく。
――……成己は、ヒートを迎えるのか。あいつの為に……
俺のもとでは、咲かなかったくせに。
「許さねえ」
今日……あいつらを引き離さなければ、ならない。
でなければ、成己はあの男に全てを捧げるんだ。あいつが、俺に与えなかったものを……与えるはずだったものを、あの男が攫って行く。
――ぽっと出のクソ野郎が……あいつに手を出してみろ。殺してやる……!
暴力的な衝動に、喉の奥が鳴る。――獣の唸る声に似ていた。
じわじわと照り付けるアスファルトに躍り出て、成己の姿を探す。
――どこに行きやがった!
まだ出てから、少しもたっていないはずだ。苛々とあたりを見回すと、遠目にある駐車場に、その姿を発見する。しょぼいワゴン車に、成己が乗り込んでいた。
「……成己!」
すぐに発進した車を、全力疾走で追う。
――逃がすか……!
歩道を突っ切っていく俺を、通行人たちが驚愕の顔で振り返る。自転車にベルを鳴らされたが、無視して走る。風が汗を飛ばし、シャツが背ではためいた。
成己のことしか、頭になかった。
「あの野郎……! ふざけやがって」
野江の腕に、安心しきったように身を預けていた姿に、はらわたが煮えくり返る。やわらかな頬は桃色に染まり、華奢な手は野江のシャツを掴んでいた。
あんなに、甘い香りをさせて……あの男のために。
――ふざけるなよ……お前は、お前は……!
怒りをガソリンに、遮二無二走った。
しかし、所詮は人の脚と車。ワゴンが交差点を右折したところで、千切られてしまう。
「……っ、くそぉ……!」
膝に手を突き、荒い息を吐く。……走り続けた負荷が一気に襲い、ぜいぜいと胸が上下した。滝のような汗が伝い、コンクリートに点を打つ。
寄り添っていた二人が浮かび、拳を握りしめた。
「クソッ!」
がん、と腿を拳で打つ。――鈍い痛みに、頭に上っていた血が引く。
「……落ち着け。あいつら、家に帰るはずだ。なら、車で追いかければいい」
てか、最初からそうすれば良かったんじゃないか。馬鹿正直に走って追いかけて――ドラマじゃあるまいし。
いったい、どれほど我を失っていたのか。気恥ずかしくなる思いで、俺は運転手に連絡を入れた。
城山お抱えの運転手、小川さんは有能さを発揮し、すぐに車を回してくれた。
「うさぎやって、喫茶店があるんだけど。そこまで頼む」
「かしこまりました、坊ちゃん」
野江の家と言えば、反対されるのはわかっていた。
あえてぼかして伝えた行き先に、小川さんは穏やかに頷く。長く使えてくれているこの人を、騙すことに罪悪感はあったが……駆けつけないという選択肢は無かった。
シートに凭れ、思い出すのは成己の様子だ。
――……あんなのは、おかしいじゃねえか。
瑞々しいけれど、甘みを増した花の香り。まるで、光が滲みだすかのように透明度を増し、輝いていた肌。
一緒に居た四年間に、見たことがない成己だった。
この前、野江叶夫の誕生会で、あの男の腕に抱かれていた時でさえ――あんな風じゃ、なかった。
――『宏ちゃん……』
あんな……触れなばおちん、ような。
「……ッ」
ギリ、と唇を噛み締めた。
伸びた牙が口の内部を傷つけ、血なまぐさい味が広がる。苛立ちが余計に本能を駆り立てて、視界が狭くなっていく。
――……成己は、ヒートを迎えるのか。あいつの為に……
俺のもとでは、咲かなかったくせに。
「許さねえ」
今日……あいつらを引き離さなければ、ならない。
でなければ、成己はあの男に全てを捧げるんだ。あいつが、俺に与えなかったものを……与えるはずだったものを、あの男が攫って行く。
――ぽっと出のクソ野郎が……あいつに手を出してみろ。殺してやる……!
暴力的な衝動に、喉の奥が鳴る。――獣の唸る声に似ていた。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。