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第五章~花の行方~
三百二十六話【SIDE:陽平】
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……それから。
実家に連行され、親父に無茶苦茶に叱責された。思いきり頬を殴られ、倒れ伏した床は、氷のように冷えていた。
『お前は本当に、何を考えている……何がしたいんだ?』
長い説教の後、父さんは疲れ切った声で呟き、額に手を当てて項垂れた。
苦労を掛けて申し訳ないとは思った。だが、本当を言うと、父さんの説教も、心に響いては来なかった。
――成己……俺を裏切るなんて許さねえ……
鎮静剤を打たれていたのが、幸いした。
動けず、黙したままの俺を反省したと思ったのだろう。父は「家に帰り、謹慎しろ」と言い置いて、部屋を出て行った。……仕事か、事後処理か。いずれにせよ、厳めしい背は振り返らなかった。
そして、俺は使用人に連行され、この家に戻って来たのだ。
――……どうにも出来なかった。
マンションのロビーには、城山のSPが見張っていた。ちょっとでも外に出ようとすれば、止められてしまった。
『どけ! こんなことしてる場合じゃねえんだ!』
『旦那さまのお言いつけです。通すわけにはまいりません!』
使用人たちは頑なで、俺を縛り上げまでした。多少手荒になっても構わないと、父に命じられているのだろう。
『離せ……!』
阻まれているうちに、一夜が明けた。
上っていく朝日に照らされ、次第に明るくなる部屋の中――俺は、乾いた笑いを零すしかなかった。
「はは……」
成己は、俺を裏切ってしまった。
夜が明けるほどの時が経ったんだ。どうあがいても、あの男に食われてしまったに違いない。
あの、純粋だった成己が……
――『陽平と、一緒に居たいよ』
成己が、泣きながら腕を伸ばしてきたことを思い出す。俺でなければだめだと泣いた。――その誓いを、今はあの男に捧げたのか。
「……うあああ!」
俺は拳を振り上げ、床を殴りつけた。
ガツンガツン、鈍い音が響く。すぐに皮膚が赤くなり、骨が軋み始めた。
それでも、心の痛みよりはマシだ。
――成己……あの、裏切り者……!
俺は、それから酒を飲むようになった。
でないと、胸にはびこる激情を、どう処理できるのかわからなかった。
「……っはあ……」
酒の最後の一本に口をつけ、思い切り呷った。喉が焼け、脚からふーと力が抜けていく気がした。
「ちくしょう……」
すでに、終わりが見えかけてる酒瓶を、ごとんと床に置く。
――ピリリリリ!
ずっと鳴り続けていたスマホの着信音が、耳をつんざいた。
「ちっ……うるせえな。何だよ、さっきから……」
酒で酩酊した頭では、ろくに考えが纏まらない。
俺は鋭く舌打ちした。のろのろとナメクジが這うように床を移動すると、スマホを拾い上げる。
――……どいつも、こいつも。放っておけよ!
スマホ一つ、思い通りにならないのか。
吐きそうなほど苛立ちながら、受話器を上げる。
「うるせえな! 何なんだよッ!」
そう思いきり怒鳴りつけてやった。
そのときだった。
――ガチャリ。
急に、リビングのドアがひとりでに開く。
「……!?」
俺ひとりの部屋だと言うのに、何故――酔眼を瞠る。
すると、城山のSPをぞろぞろと引き連れ、男が部屋に踏み入ってきた。
「……お前!」
「うるさいとは、ご挨拶じゃないか。城山くん」
聳えるような長身の男――野江は俺を見下ろし、穏やかに笑った。
実家に連行され、親父に無茶苦茶に叱責された。思いきり頬を殴られ、倒れ伏した床は、氷のように冷えていた。
『お前は本当に、何を考えている……何がしたいんだ?』
長い説教の後、父さんは疲れ切った声で呟き、額に手を当てて項垂れた。
苦労を掛けて申し訳ないとは思った。だが、本当を言うと、父さんの説教も、心に響いては来なかった。
――成己……俺を裏切るなんて許さねえ……
鎮静剤を打たれていたのが、幸いした。
動けず、黙したままの俺を反省したと思ったのだろう。父は「家に帰り、謹慎しろ」と言い置いて、部屋を出て行った。……仕事か、事後処理か。いずれにせよ、厳めしい背は振り返らなかった。
そして、俺は使用人に連行され、この家に戻って来たのだ。
――……どうにも出来なかった。
マンションのロビーには、城山のSPが見張っていた。ちょっとでも外に出ようとすれば、止められてしまった。
『どけ! こんなことしてる場合じゃねえんだ!』
『旦那さまのお言いつけです。通すわけにはまいりません!』
使用人たちは頑なで、俺を縛り上げまでした。多少手荒になっても構わないと、父に命じられているのだろう。
『離せ……!』
阻まれているうちに、一夜が明けた。
上っていく朝日に照らされ、次第に明るくなる部屋の中――俺は、乾いた笑いを零すしかなかった。
「はは……」
成己は、俺を裏切ってしまった。
夜が明けるほどの時が経ったんだ。どうあがいても、あの男に食われてしまったに違いない。
あの、純粋だった成己が……
――『陽平と、一緒に居たいよ』
成己が、泣きながら腕を伸ばしてきたことを思い出す。俺でなければだめだと泣いた。――その誓いを、今はあの男に捧げたのか。
「……うあああ!」
俺は拳を振り上げ、床を殴りつけた。
ガツンガツン、鈍い音が響く。すぐに皮膚が赤くなり、骨が軋み始めた。
それでも、心の痛みよりはマシだ。
――成己……あの、裏切り者……!
俺は、それから酒を飲むようになった。
でないと、胸にはびこる激情を、どう処理できるのかわからなかった。
「……っはあ……」
酒の最後の一本に口をつけ、思い切り呷った。喉が焼け、脚からふーと力が抜けていく気がした。
「ちくしょう……」
すでに、終わりが見えかけてる酒瓶を、ごとんと床に置く。
――ピリリリリ!
ずっと鳴り続けていたスマホの着信音が、耳をつんざいた。
「ちっ……うるせえな。何だよ、さっきから……」
酒で酩酊した頭では、ろくに考えが纏まらない。
俺は鋭く舌打ちした。のろのろとナメクジが這うように床を移動すると、スマホを拾い上げる。
――……どいつも、こいつも。放っておけよ!
スマホ一つ、思い通りにならないのか。
吐きそうなほど苛立ちながら、受話器を上げる。
「うるせえな! 何なんだよッ!」
そう思いきり怒鳴りつけてやった。
そのときだった。
――ガチャリ。
急に、リビングのドアがひとりでに開く。
「……!?」
俺ひとりの部屋だと言うのに、何故――酔眼を瞠る。
すると、城山のSPをぞろぞろと引き連れ、男が部屋に踏み入ってきた。
「……お前!」
「うるさいとは、ご挨拶じゃないか。城山くん」
聳えるような長身の男――野江は俺を見下ろし、穏やかに笑った。
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