いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
333 / 505
第六章~鳥籠の愛~

三百三十二話

「いらっしゃいませ!」

 お客様に、笑顔でご挨拶する。

「やあ、成ちゃん」
「杉田さん、こんにちはっ。いつものお席、空いてます」
「おお、ありがとねえ」

 常連の杉田さんは、カウンターの隅っこにいそいそと向かわはる。行きがけに、仲良しのお客様の肩を叩いてくのも忘れへん。

「成、あがったよ」
「はい、店長。ただいま!」

 宏ちゃんの声に、ぼくは笑顔で振り返る。 
 シャッターの修理も済んで、お店が再開してからというもの、うさぎやは連日繁盛しています。

「お待たせしました、いちじくのパンケーキです」
「わっ、ありがとう!」

 ご注文のパンケーキをサーブすると、友菜さんが明るい声を上げはった。
 ほかほかのケーキにクリームをたっぷりつけて頬張ったとたん、満面の笑みが浮かぶ。

「やば。美味しすぎ!」
「ありがとうございますっ」

 ぼくもお盆を抱え、にこにこする。――友菜さんと芽実さんは、すっかりお店の常連さんになってくれはったんよ。
 今日は、岩瀬さん・渡辺さんと一緒に、来てくれはったん。ありがたいよね!

「はあ……ここに来ると落ち着くなあ。ごはんも甘いものも美味しいし」
「嬉しいです。……友菜さん、すごくお忙しそうですもんね」

 相槌を打つと、友菜さんはグッとフォークを握り、頷いた。

「そうなの! 卒論のテーマも決まんないし、就活はあるし……ねっ、芽実」
「まあね。私はもう、卒論のサマリー通ったけど」

 そう話すお二人は、忙しそうやけれど、どこか活気づいたお顔をしてはる。

――すごいなあ。卒論とか……博士みたいっ。

 友菜さん達は、ぼくに色々と話して聞かせてくれはるん。自分の知らない世界のお話は、とても楽しい。

「岩瀬くんは、院に行くんだっけ?」
「そうそう、もうちょっと勉強したくて。親泣かせだけどね」
「いいじゃん、羨ましい」
「君ら、大学生? いいねえ」

 楽しげな皆さんの会話に、他のお客様が混じりだす。

「いや、若いうちはなんでも勉強だね。そういや店長は、卒論書いたろ? アドバイスあげなよ」
「俺、中退なんで。想像で良いですか?」

 どっと笑い声が起きて、お店が賑やかになった。
 ニコニコと聴いていたぼくやけど、ふと岩瀬さんのお冷が空なのに気づく。

「岩瀬さん、どうぞ」
「あ……ありがとう!」

 お水を注ぎ足すと、岩瀬さんはギクリとあとずさった。隣の渡辺さんを突き飛ばす勢いに、ぼくはびっくりする。
 
「ど、どうしたんですか?」
「あっいえ……奥さん、なんだか雰囲気変わりましたか」

 そう言ったきり……真っ赤な顔で、俯いてしまうお二人に、きょとんとする。 
 と、友菜さんが声を上げて笑った。

「この人たち、照れてるんだ。成己くん、すごく綺麗なんだもん」
「えっ!」

 からかう様に肘でつかれ、目が丸くなる。――ぼくが綺麗? 言われ慣れなくて、ふきだしてしまう。

「もう、からかわんといてください~」
「いや、本当に……」

 岩瀬さんは、ふと何かに気づいたように言葉を止めた。――急に青ざめて、パスタを猛然と巻き始める彼に驚いてしまう。
 視線の先を追うと、宏ちゃんがいた。

「?」

 くすぐったいほど優しい眼差しに、頬が赤らむ。

――いつもの宏ちゃんやんね。どうしたんやろ……?

 ぼくは、不思議に思いつつ、にっこりと笑い返した。
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。