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第六章~鳥籠の愛~
三百三十八話【SIDE:朝匡】
「なんだ。何を慌ててる?」
俺の帰宅早々、テーブルを慌てて片している綾人を怪訝に思い、言う。いつもは、俺が帰って来たところで、「おう朝匡!」って感じでだらだらしてるくせに。
「いや、ちょっとな。メシ食う? お手伝いさんが、煮つけ作ってってくれたぞ」
「ああ……」
「よし、あっためてやっから、着替えて来い」
わざとらしい笑顔で、俺を促す。まとめた勉強道具の中に、スマホがあるのを見とめ、俺は目を眇める。
「また、成己さんと話していたのか?」
「……おーふ。そうだよ」
綾人は、「バレた」と言う顔をした。勉強道具を抱えると、そそくさと部屋に片づけに行っちまう。
「ちっ……逃げ足の速い」
俺は舌打ちし、セットしていた髪を乱した。
――……綾人の奴、こそこそしやがって。いったい、何を話してたって言うんだ?
自室で部屋着に着替え、苛々と居間に戻ってくると、綾人がキッチンで晩飯を温めていた。
不器用な手つきで、おかずを皿に盛っているのを見ると、少し気分が和らぐ。
「貸せ。俺がやる」
「お、サンキュ」
綾人はニカッと白い歯を見せて笑い、俺にさっさと後を託すと、炊飯器の方へ向かった。……調子の良い奴だが、可愛いと思わなくもない。魚の煮つけと白和え、椀物をトレイに乗せ、居間に運ぶ。
聞けば、綾人もまだ食っていないと言うので、二人で食卓を囲むことになった。
「頂きます」
綾人は行儀よく手を合わせ、メシにぱくつきはじめた。リスのように大口で頬張るさまに、余程腹が減っていたのかと少々面食らう。
「先に食ってても良いんだぞ」
「なんで? 一緒に食った方が美味いじゃん」
たまに、殊勝なことを言う奴だ。照れ隠しにゴホンと咳払いし、俺は本題に切りこんだ。
「そう言えば。お前、さっきは成己さんと話してたんだな」
「そうだよ。勉強教えて貰ってたんだ」
綾人はけろりと言う。やましさは見当たらないが……身構えるように、姿勢を正したのを見逃さない。
「今の家庭教師は、教えるのが上手くないのか? 勉強に支障があるなら、新しい人を探すが」
「いやいやいや、すごく良い先生だし! ただ、成己は、聞きやすいって言うかよ……オレが頓珍漢なこと言っても、呆れないでくれっから」
綾人は、頬を緩める。……成己さんの方が聞きやすい、か。それは教師にも難があると思うが、こいつの本音はそこじゃないだろう。俺は綾人から目を離さず、煮魚の骨をよける。
「ふん。つまり、理由をつけて、成己さんと話したいわけだな」
「う、それもあるけど! サボってねえぞ、マジで。成己に教えてもらってから、テストの点良くなったしッ」
箸を握りしめ、憤慨している綾人を、俺はじっと見る。
「まあ……成績が上がったってのは、噓ではないな」
「だろ!」
綾人は嬉し気に笑う。それから、成己さんは頭が良い、教え方が丁寧で優しいと……ベタ褒めだ。
――えらく惚れ込んだもんだな……
俺は、何とも言えない思いで聞いた。
宏章との結婚が決まってすぐ……野江の権限で、成己さんのセンターでのデータを閲覧した。
彼は、生まれつきの知能は然程高くない。にもかかわらず、俺や宏章の母校に入学するまでに至ったのは、ひとえに努力の結果に違いない。恐らく、綾人の躓きは彼の通った道でもあり、それ故に教示がスムーズである、と言うことではなかろうか。
――面倒見がいいのも本当だろう。だが、それで……綾人への友情を推し量ることが出来るか?
弟のパートナーである彼の顔を思い浮かべ、胸の奥がちりつく。
俺の帰宅早々、テーブルを慌てて片している綾人を怪訝に思い、言う。いつもは、俺が帰って来たところで、「おう朝匡!」って感じでだらだらしてるくせに。
「いや、ちょっとな。メシ食う? お手伝いさんが、煮つけ作ってってくれたぞ」
「ああ……」
「よし、あっためてやっから、着替えて来い」
わざとらしい笑顔で、俺を促す。まとめた勉強道具の中に、スマホがあるのを見とめ、俺は目を眇める。
「また、成己さんと話していたのか?」
「……おーふ。そうだよ」
綾人は、「バレた」と言う顔をした。勉強道具を抱えると、そそくさと部屋に片づけに行っちまう。
「ちっ……逃げ足の速い」
俺は舌打ちし、セットしていた髪を乱した。
――……綾人の奴、こそこそしやがって。いったい、何を話してたって言うんだ?
自室で部屋着に着替え、苛々と居間に戻ってくると、綾人がキッチンで晩飯を温めていた。
不器用な手つきで、おかずを皿に盛っているのを見ると、少し気分が和らぐ。
「貸せ。俺がやる」
「お、サンキュ」
綾人はニカッと白い歯を見せて笑い、俺にさっさと後を託すと、炊飯器の方へ向かった。……調子の良い奴だが、可愛いと思わなくもない。魚の煮つけと白和え、椀物をトレイに乗せ、居間に運ぶ。
聞けば、綾人もまだ食っていないと言うので、二人で食卓を囲むことになった。
「頂きます」
綾人は行儀よく手を合わせ、メシにぱくつきはじめた。リスのように大口で頬張るさまに、余程腹が減っていたのかと少々面食らう。
「先に食ってても良いんだぞ」
「なんで? 一緒に食った方が美味いじゃん」
たまに、殊勝なことを言う奴だ。照れ隠しにゴホンと咳払いし、俺は本題に切りこんだ。
「そう言えば。お前、さっきは成己さんと話してたんだな」
「そうだよ。勉強教えて貰ってたんだ」
綾人はけろりと言う。やましさは見当たらないが……身構えるように、姿勢を正したのを見逃さない。
「今の家庭教師は、教えるのが上手くないのか? 勉強に支障があるなら、新しい人を探すが」
「いやいやいや、すごく良い先生だし! ただ、成己は、聞きやすいって言うかよ……オレが頓珍漢なこと言っても、呆れないでくれっから」
綾人は、頬を緩める。……成己さんの方が聞きやすい、か。それは教師にも難があると思うが、こいつの本音はそこじゃないだろう。俺は綾人から目を離さず、煮魚の骨をよける。
「ふん。つまり、理由をつけて、成己さんと話したいわけだな」
「う、それもあるけど! サボってねえぞ、マジで。成己に教えてもらってから、テストの点良くなったしッ」
箸を握りしめ、憤慨している綾人を、俺はじっと見る。
「まあ……成績が上がったってのは、噓ではないな」
「だろ!」
綾人は嬉し気に笑う。それから、成己さんは頭が良い、教え方が丁寧で優しいと……ベタ褒めだ。
――えらく惚れ込んだもんだな……
俺は、何とも言えない思いで聞いた。
宏章との結婚が決まってすぐ……野江の権限で、成己さんのセンターでのデータを閲覧した。
彼は、生まれつきの知能は然程高くない。にもかかわらず、俺や宏章の母校に入学するまでに至ったのは、ひとえに努力の結果に違いない。恐らく、綾人の躓きは彼の通った道でもあり、それ故に教示がスムーズである、と言うことではなかろうか。
――面倒見がいいのも本当だろう。だが、それで……綾人への友情を推し量ることが出来るか?
弟のパートナーである彼の顔を思い浮かべ、胸の奥がちりつく。
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