いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百四十二話【SIDE:宏章】

 書斎にこもり、仕事を始める。
 まずは、メールの返信をサクサク済ませて、コラムの原稿に取りかかる。テーマは最近読んだ面白い本なのだが、紹介する作品は先方の意向で決まっている。これも仕事だと割り切りつつ、さりげなく友人の新刊も混ぜて草稿を終える。
 
「よし、こんなもんだろ」
 
 ひと息ついて、珈琲を飲むついでに、ローテーブルに仕分けられた手紙を確認する。
 
「大伯母さんから礼状と……こっちは、父さんの従妹の婿からで。おっ? あの編集さん、部署変わるのか……」
 
 俺が返信しないといけないもの以外は、水色の文箱に戻す。 
 文箱に貼られたポストイットには、「ぼくがお返事できるものは入れといてください」と綺麗な字が並んでいる。
 成は嫁いできてから、手紙の仕分けに始まり、贈り物や手紙などの儀礼的なやりとりを引き受けてくれていた。
 最初は、遠慮したんだ。成には、のびのび過ごして欲しかったから。だが、
 
『ぼくも役に立ちたいんです。宏ちゃんの、奥さんとしてっ』
 
 俺の手を握り、訴えてきた成の健気さと言えば――思わず抱き上げて、ぐるぐる走り回ってしまったほどだ。
 
 ――実際に、ものすごく助かっているんだよなぁ……

 仕事だけでなく、野江の関連の付き合いが多すぎるせいで、時期によっては返信だけでかなり時間を食う羽目になっていたからな。
 今は、成のおかげで仕事に集中できる。感謝に胸を熱くしながら、最後の一通の封を切った。
 
「……へえ~。あいつんとこ、別荘買ったのか」
 
 古い友人からの、近況を告げる手紙だった。
 封筒には鮮やかな海と、洒落ているが居心地の良さそうな別荘の外観の写真。それから、やつの恋人とのツーショットが同封されていた。見るからに幸せそうで、ため息が出る。
 
 ――いいな~。俺も誰もいない海にでも行って、成としっぽりやりてえよ。
 
 少しやさぐれながら、自分で返信する方に仕分ける。
 
「海か……どこか、成を連れてってやれたらなあ」
 
 結婚してからこっち慌ただしくて、いまだ新婚旅行にも行けていない。それどころか、散歩や映画館にさえ、気軽に一人で行かせてやれない状態だ。
 
『宏ちゃん。明日、お買い物に行きたいです……』
 
 おずおずと、申し訳なさそうに切り出す成に、胸が痛くなる。不便な思いをさせていると、わかっている。俺とて、家に閉じこもりにさせず、自由に何処へも行かせてやりたい。
 それでも――信頼のおける護衛がつくまでは、成をひとりで外に出すわけにいかない。
 城山の一件もある。
 
――『成己を返せ……!』
 
 叫び声を思い出し、唇が歪む。
 成のことを、あれほどに傷つけておきながら……よくも、ぬけぬけと言ってくれたものだ。
 
 ――あのガキが、諦めたならいいが……まだ安心できない。
 
 アルファは独占欲が強い。
 
「いっそ、あいつの手の届かない場所まで、引っ越すしかないのか?」
 
 乱暴にソファに凭れると――ふわり、と甘い匂いが漂ってきた。
 すんと鼻を鳴らし、バターの匂いを嗅ぎつけ、「タルトにしたんだな」と思う。どちらかと言うと、タルトに気が惹かれたのを、見抜かれていたのだろうか。
 いじらしさに、胸がギュッと痛くなる。
 
 ――あの子に、もっと報いてやりたい……
 
 成は、いつも嬉しそうに笑ってくれる。
 だが、もっと甘えさせてやりたい。俺の側で守って、少しの不幸も与えず、幸せにしてやりたい……
 ガキの頃から、ずっと思ってきた。
 
「はあ……いくつになっても、上手くいかねえなぁ」
 
 ともかく仕事するか、と立ち上がる。
 そのとき、スマホが着信を告げる。――見れば、実家からのようだ。
 
「もしもし……え?」
 
 何気なく出た俺は、告げられた言葉に目を見開いた。
 
 
 
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