いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百四十三話【SIDE:宏章】

「フラワーアレンジメントの会に、成を招きたい?」
 
 俺の問いに、電話の相手――母さんはにこやかに頷いた。
 
『そうそう。成くんも、そろそろ生活が落ち着いて来たんじゃない? ってわけで月二回、遊びに来るのはどう?』
「いや……俺達は新婚なんだし、まだ落ち着きたくはないけどな?!」
 
 俺は、思わず渋っちまう。
 だって、落ち着いてきたも何も……まだ一緒になって二か月なんだぞ。ただでさえ、色んな問題が起きて、ゆっくり旅行にも行けてないのに。
 
 ――第一、姑と定期的に顔を会わす会とか、気兼ねばっかで楽しいはずないだろ!
 
 断ろうとする気配を察したのか、母さんがすかさず被せてくる。
 
『こないだは微妙な別れになっちゃったし、僕も気が咎めてるんだって。その割に、お礼も貰っちゃったしさあ』
「いや、お礼っても……こっちが世話になったんだから」

 城山の一件で、実家に身を寄せさせて貰って、助かった。
 後日、ふたりで礼を言いに実家を訪ねたら、母さんは在宅じゃなかったため、品物だけ渡してきたのだが。それが、他人行儀に感じたのだろうか。

『いいから、いいから。それに宏、あの子を家に閉じ込めっぱなしなんだろ? 顔を見飽きられる前に、他の生活基盤作った方が良いと思うぞ』
「なんて酷いこと言うんだよ」
 
 母親ってのは、言いにくいことをバッサリ言うよな。母さんは、さらに続ける。
 
『こないだ遊んだとき、思ったけどね。成くん、ほんとは活動的な子なんじゃない? 護衛の問題があるのはわかってるけど、あんまり閉じ込めちゃ可哀そうだよ』
「それは……」
 
 母さんと出かけて楽しかったと言っていた、笑顔を思い出す。嫁の立場である成が、気を遣ってくれているものと思ってはいる。が……実際に、パッと出かけて楽しかった部分がないとは、言えないのではないか。
 
――『こんどね、クリスマス会やるんよ。ひろにいちゃんも、つごうがよかったら遊びに来てね』
 
 成は幼い頃から、センターの催しにも積極的に参加して、お客をもてなしていた。生い立ちのせいか、寂しがりやのあの子は人が好きで――というより、ひとりでいるのが苦手なんだと思う。
 
「……」
 
 成にはいま、俺しかいない。その俺も仕事で構ってあげられない分、ひとりで寂しい思いをさせている自覚はあった。
 痛いところを突かれたと思っていると、母さんは諭すように言う。
 
『センターの子はね、アルファに尽くすよう教育されてきてるから、お前が気をつけてあげないと。言いたいこと言えなくなっちゃうよ』
「ああ。そうだな……」
 
 タルトの甘い匂いが、ここまで漂ってくる。愛しい子の立ち働く背中を想い、胸が熱くなった。
 あの子が、やっと俺だけを見てくれることに……甘えてちゃいけないんだよな。
 
『って言うわけで、誘っといてくれる。送迎車出してあげるし、護衛はうちのがいるから気にしなくていいよ』
 
 母さんが、電話の向こうで莞爾としている気配を察する。
 
「ありがとう、母さん」
『いえいえ。家族じゃないの』
「俺も色々、考えてみるよ」
『はい?』
 
 気遣いは有難いものだと思った。 
 忠告通り、成を必要以上に閉じ込めないよう、俺も気をつけることにする。
 とは言えだ。
 
 ――けど、成に伝えるかどうかは、また別の問題だよなあ……
 
 実際さ、姑の催しに参加しないかって言われて、嬉しい子ってどれくらいいる? 殆どいないだろ。お店に来るお客さんも、姑関係は本当に勘弁だったと言っているものな。
 成に伝えたが最後、本当は嫌でも「行く」って言うんじゃないかって、危惧がある。
 家族に憧れのある子だ。俺の親だからと、無理するかもしれない。
 という内情は流石にくるみつつ、俺は手を合わせた。
 
「母さん、気持ちは本当に嬉しいよ。じゃあ……」
『待って待って! 宏お前、うまいこと言って、成くんに言わないつもりだろ?』
 
 さすが、俺の親だけあって鋭い。ゲッと思っていると、母さんはさらに衝撃の言葉を吐いた。
 
『そんな工作はきかないぞ。お前に電話する前に、僕は成くんに電話したんだからね。成くんは、「楽しそう」って言ってたし、まずお前に相談するって言ってたから! だから、事後報告だからね、事後報告』
「……は?!」
 
 愕然とする俺の耳の横で、高笑いを響かせ――母さんは通話を切った。
 
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