いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百四十七話

「おかえり、成!」
 
 家の門を開けてすぐ、宏ちゃんが出迎えてくれた。――車の音がしたから、出て来てくれたんやって。
 優しい笑顔に、胸のうちにほっと暖かな風が吹いた気がした。
 
「ただいま、宏ちゃん!」
「どうだった?」

 お花を潰さないよう、優しく抱きしめられて、温かい胸に頬を埋める。穏やかな木々の香りを吸い込んで、うっとりする。

「うん、すっごく楽しかったよ」
「よかった……あれ? 母さんは」
 
 家の近くに車が見当たらないことに気づき、宏ちゃんが目を丸くした。ぼくはつい、苦笑する。
 
「お義母さん、ぼくが降りたら「宏によろしくー」って帰っていかはったん。送ってもろただけで帰ってもろて、良かったかなぁ」
「あー、あの人らしいな。後で電話するから、平気だろ」
 
 宏ちゃんも眉を下げ、笑う。大きな手が、そっとぼくの肩を引き寄せて、家に入るよう促してくれた。
 
「早く入ろう。そんで、話を聞かせてくれ」
「はいっ」
 
 ぼくは穏やかな眼差しを見上げる。
 
 ――ぼくのお家は、ここなんや。
 
 なんだか、すごく安堵の気持ちがこみ上げて、唇がほころんだ。
 
 

 
 
 家の中に入ったら、ふうわりと良い匂いが漂っていた。驚いて振り返ると、宏ちゃんが悪戯っぽい目つきでぼくを見下ろしている。
 
「宏ちゃん、お夕飯の準備してくれたの?」
「うん、暇だったし。ゆっくりお前の話を聞きたかったから」
「嬉しい~。ありがとう、宏ちゃん」
 
 優しすぎる夫に、胸がきゅうんって痛くなっちゃう。もうね、お花が無かったら飛びついてた……!

「待ってて」

 超特急に身支度を整えると、ぼくは宏ちゃんと向かい合って、居間のテーブルについたん。袋を取って、そっとアレンジをお披露目する。
 
「おっ、可愛いじゃないか~!」
「えへへ。コスモスでね、アレンジ作ったん」
「秋らしくていいなぁ。ふわふわしてるとこが、成らしい」
 
 宏ちゃんは目を細めて、ぼくの初めてのアレンジを愛でてくれる。その眼差しは、頬がくすぐったくなるほどに優しくて、なんだか目を上げていられない。
 
 ――って、ぼくが見られてるわけじゃ、ないんやけどね。なんか照れちゃうなあ。
 
 今までだって、お花を活けたら「綺麗だな」ってお礼を言ってくれたし、それは嬉しいだけやったんやけど。
 もじもじと手の中の湯飲みを慰めて、「どうかな」と聞いてみる。
 
「……いい作品だな」
「ほんと?」 
「うん。楽しそうに作ってるお前が、目に浮かぶっていうか……側で見たかったなあ、さぞかし可愛かっただろうに」
 
 蜜のように甘い声で囁かれ、頬がボンと燃え上がる。
 
「もうっ。不純な人は出禁です」
 
 照れ隠しに抗議すると、宏ちゃんは楽し気な笑い声を上げた。
 
「ごめんって。なあ、この子は書斎に置いてもいいか?」
「いいのっ? ぜひ、置いてあげて」
 
 嬉しい申し出に、思わず破顔する。もともと、宏ちゃんにプレゼントしたいなって思ってたんやもん。
 宏ちゃんは「ありがとうな」って、大事そうにアレンジを抱えてくれる。

「成が忙しいときは、この子に見張ってもらうよ」
「ふふ。宏ちゃんてば」

 冗談ばっかり言うんやから。

――でも、喜んでもらえて良かった。

 くすくす笑っていると、宏ちゃんはふと目を和ませた。

「今日、楽しかったか?」
「うんっ、とっても!」

 力強く頷けば、宏ちゃんは笑みを深める。

「良かった」
「えっ……」

 目を丸くするぼくに、宏ちゃんは照れくさそうに、頭をかいた。

「帰ってきたとき、なんか心細そうに見えてさ……」
「宏ちゃん」
「思い過ごしだったなら、良かった。俺が寂しかっただけかもなー」
「……っ!」

 ぼくは、優しい夫に瞼が熱くなる。

――どうして、気づいちゃうんだろう……?

 城山さんに会って、少し動揺していたこと。楽しかったことで、上書きしようとしたのに……
 宏ちゃんの側にかけてって、ぎゅっと抱きついた。

「ごめんね」
「何いってんだ」

 苦笑した宏ちゃんが、抱き返してくれる。――何も知らないのに、こうしてくれるんよね。
 温かな腕に包まれると、自然と頬がほころんだ。

「ありがとう。大好き……」
「俺もだよ、成」

 顎に指がかかり、口づけられる。やわらかな唇の感触に、うっとりと目を閉じる。
 顔中に、慈しむように降るキスに、心が甘くとろけていく。

「ん……っ」

 逞しい首に縋って、愛しい夫にキスをした。舌を懸命に伸ばすと、優しく絡められ、陶然となる。

――もっと、欲しい。

 貪欲な自分に、驚く。
 でも、唇が離れると……すごく寂しくて、懇願してしまう。

「宏ちゃん、もっと……」
「ああ」

 熱い声が唇に吹き込まれ、ぞくぞくと背が震えた。
 またすぐに重なりあって、夢中で広い背中を抱きしめる。むせるほどの、かぐわしい森の香りにくらくらする。

――頭がぽうっとして、何も考えられない……

「……成、好きだよ」
「宏ちゃん……」
 
 いつしか、膝に抱き寄せられ……シャツのボタンを外され始める。
 ぼくは、痛いほどに胸を高鳴らせながら、愛しい人に裸にされていった。

 
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