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第六章~鳥籠の愛~
三百四十九話
数時間後――居間には、やわらかな湯気が立ち上っていた。
「成。あーん」
クリームスープを掬った小さな匙が、口元にやってくる。ぼくは、ぱくりと食いついて、頬をふにゃかせた。
「おいしぃ~」
ふんわりした鮭と、たっぷり入ったきのこが香ばしくって、とっても秋です。催促するように口を開けると、宏ちゃんが嬉しそうにもうひとさじ、口に入れてくれる。ほくほくのおいもは、餌付けのプロによって適温に保たれて、「あちち」って驚かされもしない。
子どもになった気分で、口に運ばれるまま食いついていると、宏ちゃんが喉の奥で笑う。
「可愛いなあ。おかわりあるから、たくさん食ってくれな」
「わあい」
歓声を上げると、切れ長の目が優しく細まった。
居間のテーブルで隣り合って、かいがいしくお世話を焼いてくれる宏ちゃんは、世界一愛情深い旦那さまやと思う。
あの後、ベッドでもうちょっといちゃいちゃして……少し眠ってね。お夕飯も食べんとエッチをしたから、目が覚めた途端に二人してお腹がグーッて鳴っちゃったん。
『なんか食うか』
『賛成ですっ』
というわけで、宏ちゃんが作っていてくれた、秋鮭ときのこのスープを頂くことになったん。
美味しいスープを頂くと、おなかがじんわりと温もって、ほうと息が漏れる。
「ごめんね、ずっと食べさせて貰ってて……」
「なに言ってんだ。俺がしたくて、してるんだよ」
低い声が、朗らかに囁いてくれる。頬が、ぽっと赤らむのを感じながら――ぼくは、ちょっぴりはにかんだ。
――やさしいなあ……
行為のあと、宏ちゃんはますます優しい。
腰がだるくって、居間のテーブルに上体を凭れさせるというお行儀悪をしても、咎めないでいてくれるし。それどころか、ごはんまで食べさせて貰ってるし。
でも、今日は優しいより、もっと心配されている気がするん。
「ありがとうね、宏ちゃん」
「なんの」
甘えたい放題のぼくに、宏ちゃんは眩しい笑顔を向けてくれる。スープで濡れた唇を、親指で拭われて、ますます顔が火照ってしまった。スープをおかわりし、パンをひと切れ貰うと、お腹がいっぱいになった。
宏ちゃんも、大きなスープ皿でさっさと二杯たいらげてしまうと、ぼくを抱きかかえた。
「えっ」
「ソファに運ぶだけだよ」
あれよあれよと、ソファに運ばれてしまう。背もたれに身を預けると、宏ちゃんは慈しむように頬を撫でてくれた。
「……平気か?」
「うん」
頬を撫でて、もつれた髪をそっと耳にかけてくれる。
温かい指先にすり寄って、じっと灰色がかった瞳を見上げた。
「ねえ、宏ちゃん……そんなに心配しないで? ぼく、せめて後片付けくらいは……」
「駄目だよ。俺はね、やった後は、お前に何もさせたくないの」
「……もうっ」
悪戯っぽい声で言われ、ぼくは恥ずかしくなる。
「宏ちゃんは、ぼくに甘すぎです」
「そうでもないよ」
頬を包む大きな手に、手を重ねる。とてもあたたかい。宏ちゃんは傍らに膝をついて、好きにさせてくれていた。ギュって抱きついてみると、背中に腕がまわる。
「宏ちゃん……」
「ん?」
すぐに応えが返り、胸がきゅうと痛む。
当たり前みたいに甘やかされていると、ときどき夢なんじゃないかと思っちゃう。この温もりも幸せも、小さいぼくが見ている夢なんじゃないかって……
唐突に、そんな突拍子もないことを口にしたぼくに、宏ちゃんは苦笑した。
「大丈夫だよ」
ぎゅっと抱きしめられる。穏やかな森の香りに包まれて、ほうと息が漏れた。
「お前はここに居るし。俺だって、お前の側に居る」
「……宏ちゃん」
こつん、と額が合わさる。――間近に、灰色の目がほほ笑んでいた。
ぼくは、幸福に胸がいっぱいになる。
「ありがとう」
互いに、自然と目をつぶる。やわらかな感触を唇に受けながら……ぼくは、ほほ笑んだ。
「成。あーん」
クリームスープを掬った小さな匙が、口元にやってくる。ぼくは、ぱくりと食いついて、頬をふにゃかせた。
「おいしぃ~」
ふんわりした鮭と、たっぷり入ったきのこが香ばしくって、とっても秋です。催促するように口を開けると、宏ちゃんが嬉しそうにもうひとさじ、口に入れてくれる。ほくほくのおいもは、餌付けのプロによって適温に保たれて、「あちち」って驚かされもしない。
子どもになった気分で、口に運ばれるまま食いついていると、宏ちゃんが喉の奥で笑う。
「可愛いなあ。おかわりあるから、たくさん食ってくれな」
「わあい」
歓声を上げると、切れ長の目が優しく細まった。
居間のテーブルで隣り合って、かいがいしくお世話を焼いてくれる宏ちゃんは、世界一愛情深い旦那さまやと思う。
あの後、ベッドでもうちょっといちゃいちゃして……少し眠ってね。お夕飯も食べんとエッチをしたから、目が覚めた途端に二人してお腹がグーッて鳴っちゃったん。
『なんか食うか』
『賛成ですっ』
というわけで、宏ちゃんが作っていてくれた、秋鮭ときのこのスープを頂くことになったん。
美味しいスープを頂くと、おなかがじんわりと温もって、ほうと息が漏れる。
「ごめんね、ずっと食べさせて貰ってて……」
「なに言ってんだ。俺がしたくて、してるんだよ」
低い声が、朗らかに囁いてくれる。頬が、ぽっと赤らむのを感じながら――ぼくは、ちょっぴりはにかんだ。
――やさしいなあ……
行為のあと、宏ちゃんはますます優しい。
腰がだるくって、居間のテーブルに上体を凭れさせるというお行儀悪をしても、咎めないでいてくれるし。それどころか、ごはんまで食べさせて貰ってるし。
でも、今日は優しいより、もっと心配されている気がするん。
「ありがとうね、宏ちゃん」
「なんの」
甘えたい放題のぼくに、宏ちゃんは眩しい笑顔を向けてくれる。スープで濡れた唇を、親指で拭われて、ますます顔が火照ってしまった。スープをおかわりし、パンをひと切れ貰うと、お腹がいっぱいになった。
宏ちゃんも、大きなスープ皿でさっさと二杯たいらげてしまうと、ぼくを抱きかかえた。
「えっ」
「ソファに運ぶだけだよ」
あれよあれよと、ソファに運ばれてしまう。背もたれに身を預けると、宏ちゃんは慈しむように頬を撫でてくれた。
「……平気か?」
「うん」
頬を撫でて、もつれた髪をそっと耳にかけてくれる。
温かい指先にすり寄って、じっと灰色がかった瞳を見上げた。
「ねえ、宏ちゃん……そんなに心配しないで? ぼく、せめて後片付けくらいは……」
「駄目だよ。俺はね、やった後は、お前に何もさせたくないの」
「……もうっ」
悪戯っぽい声で言われ、ぼくは恥ずかしくなる。
「宏ちゃんは、ぼくに甘すぎです」
「そうでもないよ」
頬を包む大きな手に、手を重ねる。とてもあたたかい。宏ちゃんは傍らに膝をついて、好きにさせてくれていた。ギュって抱きついてみると、背中に腕がまわる。
「宏ちゃん……」
「ん?」
すぐに応えが返り、胸がきゅうと痛む。
当たり前みたいに甘やかされていると、ときどき夢なんじゃないかと思っちゃう。この温もりも幸せも、小さいぼくが見ている夢なんじゃないかって……
唐突に、そんな突拍子もないことを口にしたぼくに、宏ちゃんは苦笑した。
「大丈夫だよ」
ぎゅっと抱きしめられる。穏やかな森の香りに包まれて、ほうと息が漏れた。
「お前はここに居るし。俺だって、お前の側に居る」
「……宏ちゃん」
こつん、と額が合わさる。――間近に、灰色の目がほほ笑んでいた。
ぼくは、幸福に胸がいっぱいになる。
「ありがとう」
互いに、自然と目をつぶる。やわらかな感触を唇に受けながら……ぼくは、ほほ笑んだ。
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