いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百五十話【SIDE:宏章】

「――そうか、良かった……ありがとう……うん、わかった。それじゃ」
 
 母さんとの通話を終え、俺はふうと息を吐く。
 世の母親ってのは、どうして電話が長いものなのか。晩メシの片づけをして、風呂に入ったあと、かかって来た電話に、何の気なしに出たのは良いが。
 
 ――まさか、一時間近くも盆栽の話を聞かされるとは、思わなかったぞ……
 
 まあ、聞きたかったことも聞けたし、いいのだが。
 居間に戻ると、成はソファに横たわっていた。電話に出る前は、楽しみにしている海外ドラマを観て、笑っていたのだが……俺を待っている間に、眠ってしまったようだ。
 
「成」
「すー……」
 
 横向きに丸くなって、ふうふうと小さな寝息を立てている。重ねた両手を口元に寄せる姿は、幼い頃と変わらない。いとけない寝姿に笑みがこぼれる。
 俺は突拍子もないジョークを飛ばすTVを消し、ソファの傍らに膝をつくと、声をかける。
 
「成、お待たせ」
「んん」
 
 やわらかい頬に指でちょんと触れると、細い眉をきゅうと寄せている。
 俺の手を避けるよう、ますます丸くなる姿は、子猫みたいだ。
 
 ――かわいい……
 
 愛おしさに、胸がぎゅッと締め付けられる。安心したように無防備な姿を見せられると、たまらなかった。
 成は、実は眠りが浅い。
 センターでは四六時中、監視カメラに見張られる生活をしていたせいか――本人も知らないうちに気を張る癖がある。「ぼくね、目覚ましが無くても、狙った時間に起きられるんよ」と、成は笑っていたが……本当は、上手く眠れていないだけなのだ。
 
「……」
 
 やわらかな髪を撫でる。
 成の来し方を思えば、無理もなかった。
 にこにこ笑っているからって、不安がないはずがない。
 まして、センターのオメガに生まれて、アルファに「落籍」される子は、二割程度と聞く。不眠や、極度の冷え性などの形で、成の「体」は不安を訴えていたんだろう。
 
「すう」
 
 穏やかな寝息に、うっとりと耳をそばだてる。 
 そんなこの子が……俺の側では、深く眠れるのだと知ったときの喜びは、言い表せられない。
 
 ――……もう、寝るだけだしな。無理に起こさなくてもいいか。
 
 出来る限り、寝かせてやりたい。
 起こさないように、そっと抱き上げる。軽く、華奢な体は俺の腕にすっぽりとおさまった。愛おしい重みを確かめて、ゆっくりと寝室に歩み出す。
 
 

 
 寝室のドアを足で開け、かわいい妻をベッドに横たえる。
 布団を肩までかけてやると、成はむにゃりと唇を動かした。
 
「……ひろちゃん」
 
 名を呼ばれ、起きたのかと思ったが……まだ、眠りの中にいるらしい。ふにふにとむずかるような寝息を立てる様子に、寝言で俺を呼んだのだとわかり、相好が崩れる。
 
「なんだ、成」
 
 問うた声が、我ながらデレデレしていて、背筋が寒くなった。まあ、俺と成の家なので、問題はないのだが――と、ひとり咳払いをし、ベッドに腕を乗せる。

「……」

 夫の特権として……もう少し、寝顔を眺めていたい気分だった。
 閉じられた瞼を、じっと見つめる。――ほんの少し、赤みがさしているように見えた。抱き合ったとき、しきりに涙を流していたせいだろうか。
 
 ――『宏ちゃん……』
 
 いつになく、大胆に振舞っていた、気がする。
 初めての体位への戸惑いに反し……ぎゅっとしがみついてきた、腕の強さを思う。
 まるで、「離すな」と訴えられているかのようだった。
 
「どうしたんだ……?」
 
 夢の中にいる成に、そっと問う。
 当然、応えが返るはずもないと気付き、苦笑いをする。
 
 ――てっきり、今日何かあったのかと思ったんだけどな……母さんに聞いたところ、何も変わったことは無いってことだが……
 
 ただの、杞憂であればいいのだが。
 俺は、そっと滑らかな頬を撫でる。

「夢になんか、させないからな」

 夢みたいだ、と幸福そうに笑うお前を、俺が守ってやる。
 幼い頃からの決意を誓うよう――小さな唇に、くちづけた。

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