いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百五十九話 加筆しました(*^^*)!

 ぼくは窓にくっついて、半信半疑で店の前に立つ人影を確かめた。――白い雨の中、微動だにしないで二階を見上げている。
 濡れた髪のせいで、顔は良く見えないけれど……だてに、四年も一緒に居ない。
 
 ――ほんまに、陽平や……!
 
 確信を得た瞬間、ひやっとお腹の奥が冷たくなった。ぼくは、弾かれたように窓から飛びのいて、外から死角になる、カウンターの下に隠れる。
 がたがたと、からだが勝手に震える。ぼくは膝を抱えて、小さくなった。
 
「なんで……? 何しに来たん?」
 
 呟いた声は、自分でも笑えるくらい震えてた。
 けれど、怖いんやもん。この間、お兄さんに見せられた映像で、陽平がどれだけ怒り狂っていたことか……!
 
 ――宏ちゃん……!
 
 頼れる夫の顔が浮かび、ポケットからスマホを出し、かけた。
 けれど、すぐに自動音声に切り替わる。「お掛けになった電話は……」とガイダンスが流れるのを、ぼくは呆然と聞いた。
 
「あ……そっか。病院やから……」
 
 じゃあ、知らせることも出来ないんや。
 そう思ったら、心細さがどっと溢れて来て、スマホをぎゅっと握りしめる。――自分で、なんとかしたらいいだけ。
 
「……落ち着いて。大丈夫、だって……まだ、何も起こってないし」
 
 そろそろと、中腰のまま窓際に移動し、そっと外の様子を窺う。陽平は、変わらずそこに居て――微動だにしていない。激しい雨に打ち付けられても、お構いなしのように。
 いったい、何がしたいんやろ? と訝しむ。
 この前の襲撃から、まだ少しも経っていなかった。あれだけの騒ぎを起こしたからには、余程の責めを受けたはずで……それなのに、またこの辺りをうろつくなんて。
 
 ――ようわからへんけど……隠れて、去るのを待とう。
 
 ぼくは、ドアの戸締りを確認すると、カウンターの中に戻った。
 再び小さくなって、膝を抱えて座る。
 大丈夫。きっと、そのうちに帰ってくれるはず――
 


 
 
 けれど、暫く待っても、陽平はそこに居た。
 何度様子を窺っても、変らずそこに居る陽平に、時が止まっているみたいに錯覚する。
 
「な、なんで……?」
 
 ぼくは窓に張り付いて、狼狽する。こんなに長い間、どうして立っているんだろう?
 暴れに来たにしては、何もする様子がない。たまたま、うちの前で靴紐が切れたとか、別の用事なのかもと思えてくる。――それくらい、静かで。
 
「……どうして?」
 
 雨も変わらず、激しく降りつけていた。
 ずぶ濡れになっている姿を、じっと見つめる。いつもこだわっていた髪も、服もぐしょぐしょで――秋口とは言え、凍るほどに冷えているはずなのに。
 じっと、雨を迎えるように顔を上げて……立ちすくんでいる。
 
「どうして、帰らないの……? あんなに濡れて……」
 
 手をついた窓が、ひやりと冷たい。
 向こうが襲って来ないとなると、そこに居られること自体が、気になってしまう。
 陽平が、何をしたいのかわからない。
 
 ――……あのままじゃ、風邪ひいちゃうんじゃ……
 
 陽平は、季節の変わり目が弱かったから……つい、そんなことを考えて、ハッとする。
 
「ばかっ」
 
 陽平が宏ちゃんにしたことを思えば、同情なんてもってのほかや。蓑崎さんに振られて、腹いせに家を壊すようなことしたんだから。
 ちょっと弱って見えるからって、情けをかけちゃダメ……!
 ぼくは、甘さを振り切るように、ぶんぶんと頭を振った。
  
「……しらないっ、ぼくは……」
 
 陽平なんか、どうなっても知らない。
 ぼくを、あんなに酷く跳ねのけておいて、自分は気まぐれに現れて。それが、どれくらい……ぼくのことを傷つけるか、考えもしないんだから。
 もう振り回されるのは、たくさんなんや。
 
 ――はやく、帰って……!
 
 祈るように思う。 
 鼻の奥がツンとして、目頭が潤む。涙を堪え、睨みつけたときやった。
 
「……!」
 
 微動だにしなかった陽平が、よろめいたのが見えたん。
 薄暗がりで、そのうえ、土砂降りなのに――目の前で起こったように、はっきりと。
 
「――陽平!」
 
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