いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百六十七話【SIDE:宏章】

「宏ちゃん、宏ちゃん」
 
 病院から帰り、自室で気楽な服に着替えていると、成が入り口からひょっこりと顔を出した。
 すっかり部屋着にエプロンの、見慣れた姿に戻っている。よそ行きでも部屋着でも可愛い妻に、自然と頬がほころんだ。
 
「どうした?」
「あのねっ。さっき、宍倉さんから頂いた鶴なんやけど、面白いんよ」
 
 ぱたぱたと近づいて来た成は、手のひらを――正確には、その上の赤い折り鶴を高く掲げて見せる。 大きな目が俺の反応を待って、わくわくしている。
 
 ――成のこういうとこ、子猫みたいで可愛いよなあ。
 
 小さい頃から、面白いものがあるとすぐに教えてくれようとするんだよな。内心でれっとしながら、平然を装い鶴を改める。
 
「……ん? これは」
 
 俺は、その鶴の不思議な格好に気づいて、目を瞬く。
 渡された時に閉じていた翼が開いているだけでなく、”背”の部分がぽっかりと口を開いていたんだ。
 成は、にっこりと笑う。
 
「これね、お福分けの鶴さんやったん! ほら、金平糖がたくさん入ってるんよ」
「ほー。そうだったのか」
 
 福分け鶴というと、折り鶴の腹を袋仕立てにし、なかに菓子などをつめられるように作るものだ。赤い鶴の中には、色とりどりの金平糖が入っていた。
 
「えへ。こういうのって嬉しいねぇ」
 
 折り紙が好きな成は、嬉しそうに鶴の頭を撫でている。
 
「そうだな」
 
 頷きつつ、良いチョイスだなと思う。成は、センター育ちの為か、ガードが固い。が……その分、真心を感じる贈り物に弱いのだ。贈り主の、人となりの感じられるようなものなら、尚更いい。
 
 ――『お気に召されたら、また持って参ります』
 
 ふと、宍倉さんの言葉が浮かんだ。どこか確信めいた響きを伴った、口ぶり。
 
「……」
 
 俺は、まじまじと鶴を眺める。金平糖入りの、折り紙の鶴。
 成は喜んでいるが――成人している大人に礼と称して渡すには、攻めすぎている気もする。数回会っただけで、成の好みがわかったなら、それはそれで恐ろしいが……
 鶴を検分する内に、一つの可能性を思いつく。
 
「なあ、成。この金平糖、貰っても良いか?」
 
 出し抜けに訊ねた俺に、成は目を瞬く。
 
「うん、いいよ。ありがとう、宏ちゃん」
 
 と、申し訳なさそうにほほ笑んだ。
 罪悪感に、チクリと胸が痛くなる。
 成はセンター認証店以外のものは食べられないから、この金平糖は食べないとわかっていた。どれほど嬉しい贈り物であっても……深く申し訳なく思っていても。
 
 ――お前の事情を利用して、ごめんな。
 
 俺は手を伸べて、やわらかな髪を撫でた。
 
「ありがとな。原稿のおともに、甘いものがありがたいんだ」
 
 そう言うと、成の頬がやわらかく緩む。
 
「宏ちゃん、優しい……」
 
 信頼のこもった目に見つめられて、鼓動が跳ねる。
 たまらず抱き寄せると、瑞々しい花の香りが、鼻腔をやわらかにくすぐった。

「好きだよ、成」

 
 
 
 
 
 
「えと――お茶、入れてくるね」
 
 指先で唇を押さえた成が、恥ずかしそうに言う。キスの余韻で、頬が赤く染まっている。
 
「あとで、俺がいれる。もうちょっと……」
「だ、だめーっ。さっきもそう言ったもんっ」
 
 腰を抱き寄せようとすると、真っ赤な顔で胸を押される。
 
「えー」
「そんな顔してもダメっ。今日は、打ち合わせまでに、晩ごはん食べなくちゃなんやから……!」
 
 めっと指を立てて、牽制される。
 というか、驚いた――あわよくば、と思っていたのが看破されているじゃないか。結婚してふた月にして、騙されてくれなくなってきたということか。
 
「じゃあ、晩ごはんの準備しますねっ」
 
 わたわたと後じさって、風のように部屋の外に駆けていく背が切ない。
 
 ――けど、まあ。こうやって叱られるのも、悪くないんだよな……
 
 何でも良いのかよ、と自分でも思うのだが、そうだ。
 成なら、何でも可愛い。
 くすぐったさに任せ、ひとしきり笑うと――俺は、テーブルに置かれた鶴を見る。
 
「さて」
 
 成のいない間に、済ませてしまうか。
 俺は、赤い鶴の羽を開き、手の上にひっくり返した。ばらばらと、金平糖が落ちる。多すぎず、少なすぎずの量が手のくぼみにおさまった。
 それをそっくり、テーブルに置き直す。用があったのは、金平糖ではなく――入れ物の方だった。
 
「ごめんな、成」
 
 幼気な妻に謝り、紙を開いて鶴を解体していく。
 すると……袋になっていた底の部分に、色の違う紙が貼ってあった。はやる気持ちで、それを剥がすと――中から、転がり出てきたものがある。
 
「……やっぱりか」
 
 知り合ったばかりの人間に渡すには、攻めすぎた贈り物。だが、それは……見せかけだけのものだったのだ。折り鶴も、知り合ったばかりというのも。
 少なくとも、彼にとっては。
 
「一体、何が入ってるんだろうな?」
 
 俺は小さなメモリーカードを摘まみ上げ、電灯にかざした。
 
 
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