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第六章~鳥籠の愛~
三百七十話【SIDE:晶】
「……っ、なんで、あなたが謝るんですか」
「城山さんを、すぐに止められませんでした。城山家と揉めると、君の立場がますます悪くなるかもしれないと……私が判断を誤ったせいで、君の矜持を傷つけることになり、心から反省しています」
「……っ!」
思いがけない言葉に、息を飲む。
「そんな、嘘……」
「本心です。君の身体事情を知っていますし、責めたりしません」
「……っ!」
真摯な目で見つめられ、頬が熱る。
嫌悪や、憎しみのない瞳に困惑してしまう。
――なんで……そんな顔すんだよ! そんな事言って、俺に期待させんだよ……!
旨の奥から熱い塊がこみ上げて来て、慌ててグラスを呷った。
喉にかッと火が燃える。
「……っ、けほっ!」
「晶くん、大丈夫ですか!」
咳き込むと、駆け寄ってきた椹木さんに背を擦られる。子どものような失態に、頬が熱った。
「やめてくださ……みっともない」
「個室ですから、気にしないで下さい」
有無を言わせない親切に、頬がますます熱くなる。大きな手のひらが背骨の上を撫でる感触に、体の芯が炙られるようだった。
「あ……っ、もういいですっ!」
これ以上は不味い気がして、手を跳ねのける。きつく言い過ぎたことにハッとしたが、椹木さんは常と変わらない穏やかさで、微笑しただけだった。
「では、水を頼みましょう」
「……」
普通に親切にされると、さすがに俺の方が気にするっての。
穏やかな調子で、ウェイターにあれこれと頼んでいる男を、じっと睨んだ。
――調子、くるう……
なんで、俺なんかに親切にするんだろ。
彼を払いのけた手を握りしめていると、椹木さんが言う。
「驚かせてすみませんでした。ですが、さっき言った言葉に、偽りはありません。あれほど君を追い詰めたのは、私の責任だと……だから、ちゃんと君を知っていきたいと思ったんです」
「俺を、知る……?」
鷹のような目が、穏やかに細くなる。
「私は仕事ばかりで、晶くんを知ろうとしなかった。君が親御さんを頼れず困っていたことも。城山さんに頼らないといけないほど、不安を抱えていたことも……婚約者として不甲斐ないばかりです。今さらですが、ちゃんと知らなければと思ったんです。ですから、城山さんがお持ちになった資料も、目を通させてもらいました。魚が嫌いなことも……それで知りました」
「椹木、さん」
驚愕する。あれに、目を通したのかこの人。
自分の悪口読むとか、どんなドMなんだよ、と目を瞠っていると、彼は眉を下げる。
「私は、思い込みが激しいんだと気付きました。君が、よく魚のカルパッチョを作ってくれたから、魚が好きだと思っていて……寿司は若い子は、みんな好きだろうと勘違いしてたんです」
「……そんなの、決まってないですよ」
「はい」
つい突っ込むと、苦笑いがかえる。
予想外の展開に許容量がオーバーして、口をパクパクさせていれば、椹木さんが俺の手を取った。
「君を知るチャンスを、与えて貰えないでしょうか」
「……!」
騎士のように跪かれ、頬がカーッと熱った。
――なんだよ……なんだよ、これっ……!
こんな風に、優しく接されたことはいまだかつて無い。戸惑うばかりの俺に、椹木さんは「答えはすぐでなくても構わない」と言い、立ち上がった。
「申し訳ない。急ぎ過ぎましたね」
「……あっ」
離れていきそうな手を、思わず握ってしまう。
「……晶くん?」
「あ、その……」
そんなことをした自分に、驚いて――でも、見開かれた目を見ていると、勝手に話してしまっていた。
「俺……魚が嫌いなんじゃ、ないですから」
「えっ?」
「生魚が、嫌いなだけで……魚自体は好きですし。フレンチは、一番好きなので……今日は美味しくいただいてますし」
「そうなんですか?」
こんな、未来に期待するみたいなこと、言って大丈夫かと思わないでもなかったけど。ちょっとくらい、自分を出しても良いのかと――期待が背を蹴り飛ばしてくるから。
ぼそぼそと早口に述べると、手をそっと包まれる。
「ありがとうございます、晶くん」
嬉し気に微笑まれ、とくんと鼓動が弾む。
――カルパッチョは、あんたが魚好きだから作ってた……とは、流石に言えないけど。
言っても大丈夫かもと血迷いそうになったくらい、嬉しかったかも……しれない。
「城山さんを、すぐに止められませんでした。城山家と揉めると、君の立場がますます悪くなるかもしれないと……私が判断を誤ったせいで、君の矜持を傷つけることになり、心から反省しています」
「……っ!」
思いがけない言葉に、息を飲む。
「そんな、嘘……」
「本心です。君の身体事情を知っていますし、責めたりしません」
「……っ!」
真摯な目で見つめられ、頬が熱る。
嫌悪や、憎しみのない瞳に困惑してしまう。
――なんで……そんな顔すんだよ! そんな事言って、俺に期待させんだよ……!
旨の奥から熱い塊がこみ上げて来て、慌ててグラスを呷った。
喉にかッと火が燃える。
「……っ、けほっ!」
「晶くん、大丈夫ですか!」
咳き込むと、駆け寄ってきた椹木さんに背を擦られる。子どものような失態に、頬が熱った。
「やめてくださ……みっともない」
「個室ですから、気にしないで下さい」
有無を言わせない親切に、頬がますます熱くなる。大きな手のひらが背骨の上を撫でる感触に、体の芯が炙られるようだった。
「あ……っ、もういいですっ!」
これ以上は不味い気がして、手を跳ねのける。きつく言い過ぎたことにハッとしたが、椹木さんは常と変わらない穏やかさで、微笑しただけだった。
「では、水を頼みましょう」
「……」
普通に親切にされると、さすがに俺の方が気にするっての。
穏やかな調子で、ウェイターにあれこれと頼んでいる男を、じっと睨んだ。
――調子、くるう……
なんで、俺なんかに親切にするんだろ。
彼を払いのけた手を握りしめていると、椹木さんが言う。
「驚かせてすみませんでした。ですが、さっき言った言葉に、偽りはありません。あれほど君を追い詰めたのは、私の責任だと……だから、ちゃんと君を知っていきたいと思ったんです」
「俺を、知る……?」
鷹のような目が、穏やかに細くなる。
「私は仕事ばかりで、晶くんを知ろうとしなかった。君が親御さんを頼れず困っていたことも。城山さんに頼らないといけないほど、不安を抱えていたことも……婚約者として不甲斐ないばかりです。今さらですが、ちゃんと知らなければと思ったんです。ですから、城山さんがお持ちになった資料も、目を通させてもらいました。魚が嫌いなことも……それで知りました」
「椹木、さん」
驚愕する。あれに、目を通したのかこの人。
自分の悪口読むとか、どんなドMなんだよ、と目を瞠っていると、彼は眉を下げる。
「私は、思い込みが激しいんだと気付きました。君が、よく魚のカルパッチョを作ってくれたから、魚が好きだと思っていて……寿司は若い子は、みんな好きだろうと勘違いしてたんです」
「……そんなの、決まってないですよ」
「はい」
つい突っ込むと、苦笑いがかえる。
予想外の展開に許容量がオーバーして、口をパクパクさせていれば、椹木さんが俺の手を取った。
「君を知るチャンスを、与えて貰えないでしょうか」
「……!」
騎士のように跪かれ、頬がカーッと熱った。
――なんだよ……なんだよ、これっ……!
こんな風に、優しく接されたことはいまだかつて無い。戸惑うばかりの俺に、椹木さんは「答えはすぐでなくても構わない」と言い、立ち上がった。
「申し訳ない。急ぎ過ぎましたね」
「……あっ」
離れていきそうな手を、思わず握ってしまう。
「……晶くん?」
「あ、その……」
そんなことをした自分に、驚いて――でも、見開かれた目を見ていると、勝手に話してしまっていた。
「俺……魚が嫌いなんじゃ、ないですから」
「えっ?」
「生魚が、嫌いなだけで……魚自体は好きですし。フレンチは、一番好きなので……今日は美味しくいただいてますし」
「そうなんですか?」
こんな、未来に期待するみたいなこと、言って大丈夫かと思わないでもなかったけど。ちょっとくらい、自分を出しても良いのかと――期待が背を蹴り飛ばしてくるから。
ぼそぼそと早口に述べると、手をそっと包まれる。
「ありがとうございます、晶くん」
嬉し気に微笑まれ、とくんと鼓動が弾む。
――カルパッチョは、あんたが魚好きだから作ってた……とは、流石に言えないけど。
言っても大丈夫かもと血迷いそうになったくらい、嬉しかったかも……しれない。
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