いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百七十四話【SIDE:宏章】

「ごめんな。かなり待ったろ?」
「ううん。さっきまでね、高橋さんと上林さんも一緒にお茶を飲んでってくださったんよ」
 
 見れば、背の低いダックスフントみたいなテーブルの上には、お茶のセットが三人分あった。対面の二つは空になっており、そっと近づいて来たウェイターが回収していく。
 俺は、追加でコーヒーを二つとサンドイッチを頼んだ。
 
「宏ちゃんのこと待ってるって言うたら、じゃあ、お話でもしようって気遣ってくれはって。次のご予定まで、一緒に待っててくれはったんよ」
「そうだったのか?」
「そうなん。めっちゃ優しいよねっ」
 
 成はにこにこと可愛く笑って、頷いている。
 ――高橋さんと上林さんというのは、フラワーアレンジメントの教室で成が知り合ったオメガの夫人だ。高橋さんも上林さんも大変なミステリー愛好家だそうで、お茶の時間に盛り上がり、連絡先を交換したらしい。
 昨夜、高橋さんから「明日、三人で昼食でもどうか」と誘いがあって、成はとても嬉しそうだった。
 
『良かったな、成。もちろん行っておいで』
『わあっ。ありがとう、宏ちゃん……!』
 
 子犬のように飛びついて来た成を受けとめながら、俺にとっても朗報だった。
 まず、件のメモリーカードを調べないといけなかったし。俺のエゴで成の交友関係を狭めてしまって、申し訳なく思っていたんだ。
 高橋さんは、うちの母さんより少し年上の夫人で、きちんとしていることで有名な人だ。上林さんは、貴彦さんと同年代の、一歩下がった大人しい印象の人だったと思う。 
 信頼できる人との付き合いができるのは、俺としても歓迎すべきことだ。
 
「そうか、そうか。俺もご挨拶したかったな」
「ふふ。宏ちゃんに会いたいって言うてはったよ。あとね、お二人とも、桜庭宏樹のこと好きやって!」
「おお、そりゃありがたい」
 
 成はよほど楽しかったのか、頬を赤く上気させ、お喋りをした。はしばみ色の目をキラキラさせて、口から出る言葉は弾力に富んだボールみたいにぽんぽんと飛び跳ねている。 
 あんまり可愛いので、ちょっと妬きそうだ。
 
「……でね。高橋さんのお宅に、ミステリだけの書庫があるんやって。今度見せてあげるって言うてくれはってん」
「そりゃ楽しみだなあ。有名だぞ、高橋さんとこの書庫は……」
 
 小さな頭を撫でると、丸い頬にくすぐったそうな笑みが浮かぶ。
 成が嬉しそうだと、俺も嬉しい。
 
 ――それに、成にとっていいことに違いない。
 
 成は、社交界での立場が難しい。
 センター出身のオメガは、良家のオメガが集まる社交界では異色の存在だ。良家と言うだけで、センター出身の子に対し偉そうに出てくるものもいる。

『あの母さんでも、昔は偏見で大変だったんだ。宏章、成己くんのことをよく見てあげるんだよ。城山とのことも、完全に解決したとは言えないんだからね……』

 と――お披露目の後、父さんから忠告を受けたほどだ。
 そのうえ、成には城山夫人の流言もある。野江のネームバリューで押し込めてはいるが、いまだに不躾な目で見てくる奴は少なくない。成の耳に入れないように計らってはいても、絶対じゃなかった。

――なんで、成ばかりが酷い目に合うのか……

 これ以上、成に傷ついてほしくない。
 俺が守ると決めてはいるが、夫人同士の付き合いなど、夫が割って入れないこともある。
 こうして友人の輪が広がっていけば、どれ程良いことだろう――
 
「成……本当に良かったなあ」
 
 しみじみと言えば、成はにっこりする。
 
「うんっ、ありがとう! ……宏ちゃん、ぼくね。お義母さんにありがとうしないとやわ。こんなに素敵な縁を、持って来てくれはったんやもん」
 
 澄みきった笑顔を向けられて、俺は頭を掻く。
 
「成にはかなわないな……」
「えへ。宏ちゃんがいてくれるからです」
 
 どれほど辛いことがあっても、真っすぐな成のことが誇らしい。
 それに、この子のいう通り――こういう機会を与えてくれた、母さんにも感謝しないといけないよな。きっと、自分も苦労したから、成のことも気遣ってくれたんだと……今は思ってる。
 
 ――なにか企んでるなんて疑って、悪かったなあ……
 
 罪滅ぼしってわけじゃないが、また電話で愚痴でも聞いてあげようと思った。
 
 
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