いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
386 / 505
第六章~鳥籠の愛~

三百八十五話【SIDE:玻璃】

 いつか――夜の街で、偶然にお会いしてから、二度目の遭遇がこんな感じとは。
 応接室に通された時、成己さんは先についていて、静子さんと話していた。振り返った彼と目が合った瞬間、
 
『あっ』
 
 って、驚いた顔をしたのがわかった。
 私が本日のホストに挨拶を終え、静子さんが高橋さんと話す段になって、成己さんはにこにこと歩み寄って来てくれたんだ。
 
『あの時のお嬢さんですよね? まさか、またお会いできるなんて……! 助けてもろて、本当にありがとうございました』
 
 その親し気で、嬉しそうな声音といったら。今後の楽しい友人関係を、想像させるのにふさわしいもので。
 だからこそ、私がどれだけ、兄貴を恨むか分かってくれると思う。

『ぼくは野江成己と申します。お名前を聞いてもいいですか?』
『私は……蓑崎玻璃と申します』

 成己さんに、蓑崎と名乗る羽目になって、どれだけばつが悪かったかも。こんなことなら、あの日に名乗っておくべきだったと思ったよ。
 
 ――絶対に軽蔑されたに違いない。
 
 お隣から漂う、やわらかな香りに胸が痛んだ。
 
 


 
 個人的に気の重かった歓談のあと、満を持して書斎に通された。
 そこは書斎っていうか、ちょっとした図書館だった。クラシカルなドアを開くと、古い紙特有の甘酸っぱい匂いが鼻を刺した。天井にまで届く本棚が、四方の壁を埋め尽くしている。
 
「おお……」
 
 気まずさを忘れ、感嘆の声を漏らしてしまう。
 それくらい、すごかった。
 棚におさまった本の全てが、古今東西のミステリ小説だと言うから驚きだ。「ご自由に見て下さいな」との言葉に、よろよろと棚の周りを徘徊する。――宝の山のような場所だった。新しい本を集めた棚では、大きい区画を占めるのが、桜庭宏樹で泣きそうになる。
 
 ――わあ、桜庭だ……!
 
 生き別れの兄弟にあった気持ちで、棚を見つめていると……「あの」とやわらかな声がかけられた。
 振り返ると、和やかに細まったはしばみ色の目が、見上げている。
 
「桜庭宏樹、お好きなんですか?」
「エッ、はい。そうです」
 
 急だったんで、変な声出た。 
 
「嬉しい、ぼくもなんです! 急にごめんなさい、同志かなーって気になって」
 
 熱る頬に手を団扇にして仰いでいると、花の香りが近づく。
 私は、ぎくりと緊張に強張った。

 ――やばい。気まずい。

 他の人は、思い思いの棚を見物してる。高橋さんは静子さんとこ――私はパニクった挙句、がばりと頭を下げた。
 
「その節は、申し訳ありませんでした!」
「えっ」
 
 成己さんの大きな目が、見ひらかれる。 
 
「私は……もうおわかりでしょうが、蓑崎晶の妹です。兄が、あなたにしたこと。許されることではないと解っています。でも、どうお詫びしたものかと、ずっと」
「ちょちょ、ちょっと待ってください。落ち着いて、頭を上げて下さい……!」
 
 勢いのまま謝罪していると、大慌てに遮られてしまう。困り顔を浮かべた彼を見て、人前でプライベートな話を持ち出してしまった事に気づく。
 私はさあっと青ざめた。
  
「す、すみませ……」
「いえいえっ、いいんですよ」
 
 小さな両手を振って、「ちょっと廊下に出ましょうね」と促される。落ち着いた声音につられて、ちょっと動揺がおさまった。

感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。