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第六章~鳥籠の愛~
三百八十五話【SIDE:玻璃】
いつか――夜の街で、偶然にお会いしてから、二度目の遭遇がこんな感じとは。
応接室に通された時、成己さんは先についていて、静子さんと話していた。振り返った彼と目が合った瞬間、
『あっ』
って、驚いた顔をしたのがわかった。
私が本日のホストに挨拶を終え、静子さんが高橋さんと話す段になって、成己さんはにこにこと歩み寄って来てくれたんだ。
『あの時のお嬢さんですよね? まさか、またお会いできるなんて……! 助けてもろて、本当にありがとうございました』
その親し気で、嬉しそうな声音といったら。今後の楽しい友人関係を、想像させるのにふさわしいもので。
だからこそ、私がどれだけ、兄貴を恨むか分かってくれると思う。
『ぼくは野江成己と申します。お名前を聞いてもいいですか?』
『私は……蓑崎玻璃と申します』
成己さんに、蓑崎と名乗る羽目になって、どれだけばつが悪かったかも。こんなことなら、あの日に名乗っておくべきだったと思ったよ。
――絶対に軽蔑されたに違いない。
お隣から漂う、やわらかな香りに胸が痛んだ。
個人的に気の重かった歓談のあと、満を持して書斎に通された。
そこは書斎っていうか、ちょっとした図書館だった。クラシカルなドアを開くと、古い紙特有の甘酸っぱい匂いが鼻を刺した。天井にまで届く本棚が、四方の壁を埋め尽くしている。
「おお……」
気まずさを忘れ、感嘆の声を漏らしてしまう。
それくらい、すごかった。
棚におさまった本の全てが、古今東西のミステリ小説だと言うから驚きだ。「ご自由に見て下さいな」との言葉に、よろよろと棚の周りを徘徊する。――宝の山のような場所だった。新しい本を集めた棚では、大きい区画を占めるのが、桜庭宏樹で泣きそうになる。
――わあ、桜庭だ……!
生き別れの兄弟にあった気持ちで、棚を見つめていると……「あの」とやわらかな声がかけられた。
振り返ると、和やかに細まったはしばみ色の目が、見上げている。
「桜庭宏樹、お好きなんですか?」
「エッ、はい。そうです」
急だったんで、変な声出た。
「嬉しい、ぼくもなんです! 急にごめんなさい、同志かなーって気になって」
熱る頬に手を団扇にして仰いでいると、花の香りが近づく。
私は、ぎくりと緊張に強張った。
――やばい。気まずい。
他の人は、思い思いの棚を見物してる。高橋さんは静子さんとこ――私はパニクった挙句、がばりと頭を下げた。
「その節は、申し訳ありませんでした!」
「えっ」
成己さんの大きな目が、見ひらかれる。
「私は……もうおわかりでしょうが、蓑崎晶の妹です。兄が、あなたにしたこと。許されることではないと解っています。でも、どうお詫びしたものかと、ずっと」
「ちょちょ、ちょっと待ってください。落ち着いて、頭を上げて下さい……!」
勢いのまま謝罪していると、大慌てに遮られてしまう。困り顔を浮かべた彼を見て、人前でプライベートな話を持ち出してしまった事に気づく。
私はさあっと青ざめた。
「す、すみませ……」
「いえいえっ、いいんですよ」
小さな両手を振って、「ちょっと廊下に出ましょうね」と促される。落ち着いた声音につられて、ちょっと動揺がおさまった。
応接室に通された時、成己さんは先についていて、静子さんと話していた。振り返った彼と目が合った瞬間、
『あっ』
って、驚いた顔をしたのがわかった。
私が本日のホストに挨拶を終え、静子さんが高橋さんと話す段になって、成己さんはにこにこと歩み寄って来てくれたんだ。
『あの時のお嬢さんですよね? まさか、またお会いできるなんて……! 助けてもろて、本当にありがとうございました』
その親し気で、嬉しそうな声音といったら。今後の楽しい友人関係を、想像させるのにふさわしいもので。
だからこそ、私がどれだけ、兄貴を恨むか分かってくれると思う。
『ぼくは野江成己と申します。お名前を聞いてもいいですか?』
『私は……蓑崎玻璃と申します』
成己さんに、蓑崎と名乗る羽目になって、どれだけばつが悪かったかも。こんなことなら、あの日に名乗っておくべきだったと思ったよ。
――絶対に軽蔑されたに違いない。
お隣から漂う、やわらかな香りに胸が痛んだ。
個人的に気の重かった歓談のあと、満を持して書斎に通された。
そこは書斎っていうか、ちょっとした図書館だった。クラシカルなドアを開くと、古い紙特有の甘酸っぱい匂いが鼻を刺した。天井にまで届く本棚が、四方の壁を埋め尽くしている。
「おお……」
気まずさを忘れ、感嘆の声を漏らしてしまう。
それくらい、すごかった。
棚におさまった本の全てが、古今東西のミステリ小説だと言うから驚きだ。「ご自由に見て下さいな」との言葉に、よろよろと棚の周りを徘徊する。――宝の山のような場所だった。新しい本を集めた棚では、大きい区画を占めるのが、桜庭宏樹で泣きそうになる。
――わあ、桜庭だ……!
生き別れの兄弟にあった気持ちで、棚を見つめていると……「あの」とやわらかな声がかけられた。
振り返ると、和やかに細まったはしばみ色の目が、見上げている。
「桜庭宏樹、お好きなんですか?」
「エッ、はい。そうです」
急だったんで、変な声出た。
「嬉しい、ぼくもなんです! 急にごめんなさい、同志かなーって気になって」
熱る頬に手を団扇にして仰いでいると、花の香りが近づく。
私は、ぎくりと緊張に強張った。
――やばい。気まずい。
他の人は、思い思いの棚を見物してる。高橋さんは静子さんとこ――私はパニクった挙句、がばりと頭を下げた。
「その節は、申し訳ありませんでした!」
「えっ」
成己さんの大きな目が、見ひらかれる。
「私は……もうおわかりでしょうが、蓑崎晶の妹です。兄が、あなたにしたこと。許されることではないと解っています。でも、どうお詫びしたものかと、ずっと」
「ちょちょ、ちょっと待ってください。落ち着いて、頭を上げて下さい……!」
勢いのまま謝罪していると、大慌てに遮られてしまう。困り顔を浮かべた彼を見て、人前でプライベートな話を持ち出してしまった事に気づく。
私はさあっと青ざめた。
「す、すみませ……」
「いえいえっ、いいんですよ」
小さな両手を振って、「ちょっと廊下に出ましょうね」と促される。落ち着いた声音につられて、ちょっと動揺がおさまった。
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