いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
389 / 505
第六章~鳥籠の愛~

三百八十八話【SIDE:玻璃】

 成己さんは何も聞かないでくれた。ただ、黙って側に居てくれること、それ以外に私が望んでいないことを、わかってくれているみたいだった。
 おかげで、私は自分の感情に没頭できた。
 ただ、泣いて。泣いて――これ以上は涙を絞り出せない、ってところまで、泣きまくった。

「……はぁ」

 涙を拭い、息を吐く。
 「どうやって止めるんだ?」と思ったけど、泣くだけ泣けば涙って止まるもんだった。
 久々過ぎて、忘れてた。
 
「……ありがとうございます」
 
 すうと息を吸って背筋を伸ばすと、成己さんが小さな声で問う。
 
「だいじょうぶ?」
「……はい、もう平気です」
 
 心配そうな大きな目に、にこっと笑って見せると、涙で頬が突っ張った。成己さんは新しいハンカチを取り出し、「どうぞ」って渡してくれる。
 
「だ、大丈夫です……! 新しいのまで汚すわけには」
「ふふっ。遠慮せんといてください。こんなん、お洗濯したらええんですから」
「ぎゃっ」
 
 まふ、と問答無用にやわらかい布を頬に押し当てられる。
 
「……すみません、お借りします」
「どうぞ、どうぞ」
 
 小さい子を見るような開け放しの笑顔に見守られ、頬が熱くなった。――こんなに子ども扱いされるの、いつぶりだろうか。むず痒い気持ちで頬を拭う。
 
 ――でも、なんかスッキリしたかも……
 
 涼やかな風が吹き抜けて、庭の木々がさやさやと音を立てた。草花の匂いと湿った土の匂いがする。もう一度、息を吸い込むと、胸の奥が清々しくなった。
 私が落ち着いたのを見て取って、やわらかな声がかけられる。
 
「良い風ですねぇ」
「……はい」
 
 庭を見る余裕も出来た。こうやって一度落ち着くと、何をそんなに悲観していたのかという気になる。――まだ大丈夫、頑張れる。私は、成己さんに向き直り、頭を下げた。
 
「ありがとうございました。長い時間、付き合って頂いて」
「えっ、そんなそんな……気にせんでええのに」
「や……なんか、超泣いちゃって。恥ずかしいです」
 
 それは、わりとガチで。
 落ちつくと、さんざん泣きわめいたことが照れくさい。でもさ、照れてモゴモゴすると、いよいよガキみたいで恥ずかしいから、「気にしてませんよ」体を貫くことにする。 
 成己さんは目を丸くして、にっこりした。
 
「ふふ。近頃の子って、えらい我慢強いんやねえ。ぼくなんか大人やけど、旦那さんに甘えっぱなし、泣きっぱなしですよ」
「いやいや、成己さんは可愛いから大丈夫です」
「ありがとうねえ。ほな、玻璃さんも可愛いから大丈夫ですっ」
 
 胸元で拳を握って、励まされてしまった。
 「可愛い」とか、言われた事ないタイプの褒め言葉だなって、思う。
 流石にまごついていると、成己さんはまたニコニコしてる。
 その嘘や虚飾を感じない、自然体の笑みを見ていると、自然と肩が下がる気がした。和むというか、力が抜けるというか……
 
 ――でも……良い人だな。なんで、この人を捨ててうちの兄に走ったの? 城山さんって、ほんと意味わからん……
 
 本気で城山さんの趣味を疑いつつ、私はひとつ咳払いした。
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。