いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百八十九話【SIDE:玻璃】

 ここに来て、かなり時間が経っている。みなさん、本に夢中とは言え、そろそろ人が探しに来てもおかしくない。
 
 ――いま、気が抜けてるから……もっかい気を張り直すのも億劫だけど。詮索されるのいやだしな。
 
 仕方ねえ、と気合を入れる。
 
「じゃあ、私が言うのも何ですけど……戻りましょうか」
「……はい。そうですねえ」
 
 成己さんを振り返ると、少し考えるそぶりで首を傾けている。
 
「成己さん?」
「あの、玻璃さん。よかったら、これからうちに遊びに来ませんか」
「――はっ!?」
 
 ぽん、と両手を合わせた成己さんが放った言葉に、私はのけぞった。
 そんな「いいこと言った」みたいに言われても!
 
「な、何でですか? いや、というか――せっかくですけど、急にお邪魔したら悪いですから」
 
 いきなりアルファが訪ねていったら、野江さんだって良い思いしないはずだ。そう思って断ると、しっかり意を汲んで打ち返される。
 
「大丈夫ですよ。今日は、お店を営業してる日なので……あ、うちは夫が喫茶店してるんですけどね。そこでお茶飲んで、お話しませんか。いまちょうど、お芋のシフォンしてるんですけど、すごく美味しいんです」
「へー、いいですね、芋。――じゃなくて、その」
「良かったあ。静子さんには、ぼくがお話してきますしっ。夫にも先に電話しちゃいますから、心配ご無用です。玻璃さんのご都合さえ良ければ。ぼく、桜庭のお話ししたいです」
「うっ」
 
 正直魅力的だって思ったのが、顔に出てたんだと思う。成己さんはニッコリして、「じゃあ、話してきますから。そこでゆっくりしててくださいね」と駆けていってしまった。
 軽やかに遠ざかる背を見送り、茫然とする。
 
「い、意外と強引なのね……」
 
 っていうか――気遣ってくれたのかな。
 二枚のハンカチを握る。瞼や頬に触れると、じわりと熱を持っていた。スマホも鏡も無いから確認できないけど、酷い顔をしてることだろう。
 集まりに戻ったとして……みんな、親切だから言及はしないでいてくれるだろうし。なんなら、気遣ってくれると思うのだけど。
 私は見栄っ張りだから。想像しただけでも、しんどくなりそうだった。
 かと言って、家には帰りたくない。
 
 ――お言葉に、甘えさせてもらおうか。
 
 普段なら、もうちょっと頑張るけどね。
 今はちょっと……優しい人の親切に甘えたい気分だから。
 



 
 そうして、戻ってきた成己さんと私は、その場を辞した。
 静子さんにだけ挨拶をして帰ったんだけど、しきりに体調が悪いことを心配されたので、そういう理由にしてくれたんだと思う。
 
「宏章さん、『ぜひ来てください』て嬉しそうでした。ちょうどお客さんがいるので、迎えには来れへんけど気をつけて来てね、だそうです。というわけで、センターの送迎車でいきましょう!」
「あ、はい。何から何まですみません」

 あれよあれよと送迎車に乗り込み(ちなみに車は別)、野江さんの営む喫茶店に向かうことになったんだ。
 そこで私は……神様の存在を実感することになるんだけど。
 このときはまだ、知る由もないことなのだった。
 
 
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