いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百九十話【SIDE:宏章】

「――そっか。具合が悪くなって……そういうことなら、是非連れておいで」
『……ほんと? ありがとう、宏ちゃん!』
 
 電話口で、成がホッとしたように息を吐いた。子供とは言えアルファを家に連れてくる意味を理解し、きちんと配慮してくれる妻が愛おしかった。
 店を閉じて迎えに行くと言うと、「待って」と慌てたように断られる。
 
『宏ちゃんは、お店しててっ。センターに送迎車を頼むから……!』
「ええ~、だめか?」
『せっかくの営業日ですし、ぼくの都合やから。ちゃんと二台お願いするし、心配せんでも大丈夫やで』
 
 切々と訴えられちまう。気遣い屋のあの子は、俺の仕事の手を止めるのを嫌がっていた。
 それがいじらしくも、もどかしい。そりゃ、俺も仕事は好きだが。仕事をするのは成と居たい為だから、気にしなくていいのに。
 とはいえ……これ以上粘っても、気を遣わせるだけか。
 
「わかった。また車に乗ったら、メッセージを送ってくれるか? うん……気をつけて帰っておいで」
『はい、宏ちゃん』
 
 成が通話を切ったのを確かめ――ふう、と長い息を吐く。ごつん、と冷蔵庫に頭をぶつけた。
 
 ――あー……俺、ちゃんと優しい声が出てたかねえ……?
 
 われながら、嫉妬深いと思う。
 成にアルファの友人が出来たと言うだけで、胸が不快にざわざわする。しっかり者の成のことだから、「調子が悪そうな子を休ませてあげたい」という説明通りの親切心以外は、何もないだろうに。
 
「……はあ。気を遣わせたいわけじゃ、ないんだが……」
 
 俺が嫌がると知れば、成は友人関係を整理するだろう。あの子は、自分を後回しにする癖があって、いつだって俺の気持ちを優先しようとしてくれるから。
 わかっていたのに……綾人君の件では、可哀そうなことをしてしまった。
 せっかく、新しい友人が出来て楽しそうなんだ。もうこれ以上、あの子の交友関係を狭めるような真似は――
 
「……」
 
 そう、出来る限りはすまい。成に危険が及ばない限りはな。
 通話の切れたスマホを、名残惜しく見つめていると、「店長さーん」と声を掛けられる。
 
「……あ、はい! お待たせしました」
 
 いかん、営業中だった。慌てて笑みを繕い、接客に戻る。
 声の主は、テーブル席の女性客だった。大学生くらいの二人連れらしい。長い髪を巻き下ろしにしている子の方が、目を輝かせて手を振っている。
 
「あのぉ、追加で頼みたいんですけどっ」
「ありがとうございます。メニューお持ちしますね」
 
 カウンターを出ていけば、二人の喉から押し殺したような悲鳴が上がった。
 アルファに生まれて二十五年。そう言う反応は慣れているので、にこやかに注文を取る。
 
「――マカロニグラタンとピザトースト。シフォンケーキがお二つですね。かしこまりました」
「はいっ……あのぉ」
「何でしょう?」
 
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