いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百九十一話【SIDE:宏章】

 巻き下ろしの子と、連れのボブの子は顔を見合わせ、肩を叩き合っている。「あんた聞きなよ~」「え~無理~」と声を潜めて囁いていた。女性の声は高いので、普通に聞き取れてしまうのだが、楽しそうで何よりだ。
 と、意を決したようにボブの子が言う。
 
「さっきの電話ってえ、奥様ですか?」
「はい、そうですよ」
 
 笑顔で即答すると、「やーん!」と甲高い悲鳴が上がる。
 
「ショックー!」
「やっぱり、フリーなわけなかったぁ」
 
 頭を抱え、身悶えする若者につい苦笑を漏らしてしまう。
 
「すみません、営業中に電話してしまって」
「いえいえ、大丈夫ですぅ……」
 
 あっという間に元気を失った二人に一礼し、カウンターに入る。
 すると、いつものカウンター席でコーヒーを啜っていた杉田さんが、こそりと囁いた。
 
「……店長。成ちゃんに告げ口するぞぉ」
「うわぁ。勘弁してくださいよ!」
 
 ぎょっとのけぞると、杉田さんは「あはは」と歯を見せて笑った。もちろん冗談だ――常連さんは、俺がどれだけ成だけを見ているか、よく知ってくれている。
 
 ――しかし。最近、こういうの増えたよなあ……?
 
 作業に取り掛かりながら、思う。
 西野さんが、うちの店をSNSに紹介してくれたおかげだろうか? 近所の奥様方や、じいちゃん達ばかりだった客層に変化が出てきた。大学生や社会人とおぼしき若い女性客が、ちらちらと目立つようになっている。
 
 ――まあ、我儘な営業してるから、一過性のもんになる気はするが……だとしても、ありがたいことだよな。
 
 好きでやっている店を気に入ってもらえるのは、喜ばしいことだった。作家業の傍ら、喫茶店を経営している理由は、主に節税や取材の為と説明しているものの――本当のところ、幼い頃からの夢だったから。
 なんか照れくさくて、成にしか話してこなかったけど。
 
『昼は喫茶店、夜は作家。良くないか? ……設定的には、ちょっとありきたりだけど』 
『そんなことないっ。ひろにいちゃんのお店、ぼくもお手伝いしたい……!』
 
 ……いつも一生懸命聞いてくれて、かわいかったなあ。
 鼻歌を歌いながら、ピザトーストの仕上げをしていると、ドアベルが鳴った。
 
「いらっしゃいませ」
 
 笑顔でそちらを見て、俺は僅かに目を瞠る。
 入り口に立っているのは、いつか来ると思っていた人だったのだ。
 
「こんにちは。一人なのですが……よろしいでしょうか?」
 
 穏やかな笑みを浮かべ、宍倉さんは言う。
 ついに来たかと思いながら、俺もにこやかに会釈を返した。
 
「大丈夫ですよ。カウンター席にどうぞ」
 
 奇しくも俺の正面の席が空いている。宍倉さんは床を滑るように移動し、腰かける。隣の杉田さんがさっそく話しかけるのに、にこやかに応じている。
 彼の挙動を気にしつつ、俺はテーブル席に品物を運んだ。
 
 ――さて。彼はどう出てくるんだろうな?
 
 成が帰ってくるまでに、用件が済むと良いが。
 
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