いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百九十三話【SIDE:宏章】

 そう、息を吐いたときだった。
 表で車の停まる音がした。それから、話し声が聞こえてくる。ドアを隔て、店内の賑やかさに紛れているが、この俺が聞き間違うはずもない。
 
 ――成!
 
 持っていた布巾をぽいと放り出し、いそいそとドアを開けに行く。
 ドアベルがカランカラン、と大きな音を立てた。
 
「えっ。宏ちゃん?」
 
 まさか、ドアが自分から開くと思わなかったのだろう。成が大きな目を丸くして、立っている。
 
「成、おかえり!」 
「わあっ……苦しいよっ」
 
 ぎゅっと抱きしめると、ぺしぺしと腕を叩かれる。背後で、やんやと常連さんがはやし立てる声が上がった。
 
「宏ちゃん、ただいま。どうしたん?」 
「いや……ちょうど、お前の事を考えてたんだ。思いが通じたのかと思ってさ」
「……えっ!」
 
 はしばみ色の目をじっと見つめると、やわらかな頬がふわりと赤くなった。……照れた顔も可愛い。「キスしたら怒るだろうか」と真面目に考えていれば、成は慌てて胸を押してくる。
 
「もうっ。宏ちゃんてば、お客さんがいてるんよ? ごめんなさい、玻璃さん。お騒がせしてしもて」
 
 成は、後ろに立っている背の高い女の子を振り返った。名門校の制服を着た少女は、唐突に知人の恋模様を見せられたせいか、きまり悪げに視線をさ迷わせている。
 
「いえいえ、なんかすいません。私、デバガメ的な感じで」
「ああ、違うんです~」
 
 恐縮する少女を、成がおろおろと励ました。
 
 ――いけね、成の友人が来てるんだった。
 
 ついつい欲望に忠実に動いちまった。俺、牡牛座だし。アルファだからな、と運命に責任転嫁しつつ、愛想の良い笑みを浮かべて見せた。
 俺は脇によけ、ドアを大きく開く。
 
「お待たせして申し訳ない。蓑崎さん、よく来てくれましたね」
「いえ、こちらこそ。急にお邪魔して申し訳ないです。野江さん」
 
 女の子――蓑崎さんは、恐縮したように会釈する。蓑崎家の者だとひと目でわかる、深い色の黒髪がセーラー襟の肩を滑った。



 蓑崎さんのことは、俺も野江家の者として見知っている。
 うちの商売敵である蓑崎の後継者として、社交界の注目の的だ。先代に寵愛され、優秀な人物だと皆が噂していた。
 この子が来たこと自体は、電話で成から聞いてはいたので驚きはしないが。
 
 ――最近は、つくづく蓑崎に縁がある。それも、また成が……蓑崎家の若さんまで連れて来ちまうとはなあ……
 
 成と若さんの兄である、蓑崎晶との確執は深い。兄と妹は別の人間だといっても、蓑崎自体にアレルギーが起きても仕方ないのに……つくづく成らしい。
 
「玻璃さん、奥のお席にどうぞ。ぼく、お水を持ってきますね」
「ありがとうございます。おかまいなく……」
 
 成は、楽しそうに蓑崎さんの世話を焼いている。蓑崎の若さん相手でも、「年下の子の世話を焼くのが嬉しい」くらいの気持ちなんだろうなと思う。あけ放しで、裏表のない笑顔が眩しい。 
 成をじっと見つめながら……ポケットの中を、そっと探る。そこにはずっと持ち歩いている、赤い折り鶴がある。
 
 ――お前が、そう言う子だから。俺は……
 
 ぐ、と拳を握ったときだ。
 
「――ああっ!」
 
 蓑崎さんが、悲鳴のような声を上げ……ちょうど、手洗いから出てきた客に飛びついた。
 ガタン、と荷物置きが倒れる音が響く。どよどよ、と店内がざわついた。
 
「宍倉さん! まさか、会えるなんて――」 
「若様……」
 
 客――宍倉さんの肩に顔を埋め、蓑崎さんは声を震わせている。 
 
「ど……どうしたんだ?」
「感動の再会?」
 
 目の前で繰り広げられる、ドラマのような展開に、店内は膠着状態に陥っている。
 
「やっぱり、そういうパターンだったか」
 
 俺は、自分の憶測が当たっていたことに、ちょっと満足した。
 と、カウンターにいた成が、戸惑った様に俺を振り返る。――どうしよう? と小さな顔がいっぱいに訴えていて、苦笑した。
 
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