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第六章~鳥籠の愛~
三百九十五話【SIDE:玻璃】
「――若様。少し、落ちつかれましたか?」
穏やかな声で、宍倉さんが問う。
「ええ……」
私は頷いて見せながら――衝撃の展開に、すっかり腑抜けてしまってた。勧められるまま席についたものの、カウンターのスツールにお尻がくっついたみたいに力が入らない。
――まさか……宍倉さんと会えるなんて、思わなかった。
私は成己さんに誘われて、お茶を飲みに来ただけ。その野江さんの喫茶店で、なんて――。
人間、驚きすぎると本当に腰を抜かすらしい。目の前に置かれたコーヒーが、芳しい湯気を立てているけれど、手を伸ばすことも出来ないでいた。
すると、宍倉さんがこちらに体を向けた。座ったまま、深く頭を下げられる。
「若様。黙ってお側を離れましたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「……待ってください! 謝らないで」
私は一気に正気付いた。宍倉さんの肩に手を乗せて、なんとか頭をあげてもらう。
「私のせいです。私がわがままを言ったせいで、宍倉さんが辞めることになって……」
喉が、ぐっと詰まる。
宍倉さんは、蓑崎を愛してくれていた。先代であるおじい様に才能を見出されたのだと。自分に生きる道を与えてくれた、その恩に報いたいのだと……いつか、笑って話してくれた。
それなのに――私が、その想いを裏切ってしまったんだ。
「謝って済むことじゃないけど、本当にごめんなさい。私は……あなたにしたことの償いをします。何年かかっても必ず」
額が膝につきそうなほど、頭を下げる。
宍倉さんに会ったら、お詫びしたかった。私が自分の立場を弁えない我儘をしたせいで、彼は人生設計を無茶苦茶にされたんだから。
訪れた沈黙の時間。店内のざわめきとイージーリスニングが、妙に鮮明に迫ってくる。
「……若様」
宍倉さんの穏やかな声が、鼓膜を震わせる。
「……はい」
「どうか、顔をお上げください。蓑崎のご当主になろうという貴女が、私などに頭をさげてはなりません」
「……!」
優しくも厳しい声音に、はっとして顔を上げる。
宍倉さんは、まっすぐに私の眼を見ていた。
「この度のことは、私が責めを負うのが当然の事。配下として、お諫めする立場にありながら、若様を唆したのは私です。それに――私は、そのことを反省などいたしておりません。なんど同じ時間をを繰り返しても、同じことをするはずです」
「……えっ?」
意外な言葉に目を見ひらくと、宍倉さんは微笑した。どこか茶目っ気のある口ぶりで続ける。
「あの息抜きは、若様に必要だと私は確信しておりました。やり直せるとして、次はもっとうまくやるだけです」
「宍倉さん……どうして、そこまで」
宍倉さんの目に、穏やかな光が揺れる。
いつも車のミラー越しに、仕事中は背中に感じていた温かな眼差しが、正面から降りそそいでいた。
「若様。それは、貴女がまだ子供だからです」
静かに紡がれた言葉に、息を飲む。
穏やかな声で、宍倉さんが問う。
「ええ……」
私は頷いて見せながら――衝撃の展開に、すっかり腑抜けてしまってた。勧められるまま席についたものの、カウンターのスツールにお尻がくっついたみたいに力が入らない。
――まさか……宍倉さんと会えるなんて、思わなかった。
私は成己さんに誘われて、お茶を飲みに来ただけ。その野江さんの喫茶店で、なんて――。
人間、驚きすぎると本当に腰を抜かすらしい。目の前に置かれたコーヒーが、芳しい湯気を立てているけれど、手を伸ばすことも出来ないでいた。
すると、宍倉さんがこちらに体を向けた。座ったまま、深く頭を下げられる。
「若様。黙ってお側を離れましたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「……待ってください! 謝らないで」
私は一気に正気付いた。宍倉さんの肩に手を乗せて、なんとか頭をあげてもらう。
「私のせいです。私がわがままを言ったせいで、宍倉さんが辞めることになって……」
喉が、ぐっと詰まる。
宍倉さんは、蓑崎を愛してくれていた。先代であるおじい様に才能を見出されたのだと。自分に生きる道を与えてくれた、その恩に報いたいのだと……いつか、笑って話してくれた。
それなのに――私が、その想いを裏切ってしまったんだ。
「謝って済むことじゃないけど、本当にごめんなさい。私は……あなたにしたことの償いをします。何年かかっても必ず」
額が膝につきそうなほど、頭を下げる。
宍倉さんに会ったら、お詫びしたかった。私が自分の立場を弁えない我儘をしたせいで、彼は人生設計を無茶苦茶にされたんだから。
訪れた沈黙の時間。店内のざわめきとイージーリスニングが、妙に鮮明に迫ってくる。
「……若様」
宍倉さんの穏やかな声が、鼓膜を震わせる。
「……はい」
「どうか、顔をお上げください。蓑崎のご当主になろうという貴女が、私などに頭をさげてはなりません」
「……!」
優しくも厳しい声音に、はっとして顔を上げる。
宍倉さんは、まっすぐに私の眼を見ていた。
「この度のことは、私が責めを負うのが当然の事。配下として、お諫めする立場にありながら、若様を唆したのは私です。それに――私は、そのことを反省などいたしておりません。なんど同じ時間をを繰り返しても、同じことをするはずです」
「……えっ?」
意外な言葉に目を見ひらくと、宍倉さんは微笑した。どこか茶目っ気のある口ぶりで続ける。
「あの息抜きは、若様に必要だと私は確信しておりました。やり直せるとして、次はもっとうまくやるだけです」
「宍倉さん……どうして、そこまで」
宍倉さんの目に、穏やかな光が揺れる。
いつも車のミラー越しに、仕事中は背中に感じていた温かな眼差しが、正面から降りそそいでいた。
「若様。それは、貴女がまだ子供だからです」
静かに紡がれた言葉に、息を飲む。
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