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第六章~鳥籠の愛~
四百八話【SIDE:宏章】
――これで良かったのだろうか。
店を出て、成の待つ家に車を走らせながら、思う。
宍倉さんに、もっと上手く止められたのじゃないか。俺がいらぬ節介を焼いたせいで、彼がより頑なになったのだとしたら。
「……」
思ってから、そういう話でもないなと思う。彼が決めたことに口を出す大義名分など、俺にも誰にもありはしない。もし、口を出せるならば……彼が誰より大切に思うものだけだろう。
――『……黙って見ていることなど、私には出来ない!』
血を吐くような叫びが、耳の奥で再生される。
ハンドルを握る手に、力がこもった。
対向車のほとんどいない道を、ヘッドライトが白く照らす。――何故だか、あてどない闇を掘削しているような、奇妙な気分になる。これで正しいのかどうか、他ならぬ俺自身が、迷っているせいかもしれなかった。
今でも、思い出す。成が傷つけられたあの日のことを――
『成、成! しっかりしてくれ……!』
『……』
雨の中、蹲っていた小さな体は冷え切っていた。ぐったりと目を閉じて、死んでしまった様に動かない成を抱き……恐怖でどうにかなりそうだった。――まるで、幼い日の『悪夢』が繰り返されたようだと。
「……くそッ」
甦る怒りに、きつく奥歯を噛みしめる。
俺だって到底、許せはしない。あの子を傷つけた者が、のうのうと笑って暮らしていくなんて。
『ひろにいちゃん、はなさないで……』
成は今でも、悪夢にうなされているのに……その苦しみを、知りもしないなんて。
――俺も、偉そうなことは言えない。
俺だって、結局は同じ穴の狢だ。愛しい者を傷つけた奴を、持てる力の全てで追い込んでやりたいと願ってやまない。彼を止めきることが出来なかったのは、俺の本能に背くからだ。
「俺だって……」
言いかけて、唇をきつく結ぶ。
たとえ、独り言であっても耐えなければいけない。そうでなければ、車を取って返してしまいそうになった。
……家に帰りつくと、深夜を回っていた。
「野江宏章・成己」と表札のかかった玄関を見て、ホッと息を吐く。
――ああ……俺たちの家だ。
成を起こさないよう、静かに玄関の鍵を開ける。口の中で「ただいま」と呟き、しっかり施錠する。そっと階段を上っていくと、薄暗い廊下に、居間から明るい光が漏れている。
俺は、眼を見ひらいた。
――……成?
居間の食卓……そのいつもの椅子の上、成がちょこんと座っていた。華奢な肩にカーディガンを巻きつけて、なにか考え込んでいるように、その横顔は静かに沈んでいる。
……ベッドに眠っていたはずなのに、起きてしまったのか?
引き寄せられるように足を踏み出すと、床がギシリと音を立てる。
店を出て、成の待つ家に車を走らせながら、思う。
宍倉さんに、もっと上手く止められたのじゃないか。俺がいらぬ節介を焼いたせいで、彼がより頑なになったのだとしたら。
「……」
思ってから、そういう話でもないなと思う。彼が決めたことに口を出す大義名分など、俺にも誰にもありはしない。もし、口を出せるならば……彼が誰より大切に思うものだけだろう。
――『……黙って見ていることなど、私には出来ない!』
血を吐くような叫びが、耳の奥で再生される。
ハンドルを握る手に、力がこもった。
対向車のほとんどいない道を、ヘッドライトが白く照らす。――何故だか、あてどない闇を掘削しているような、奇妙な気分になる。これで正しいのかどうか、他ならぬ俺自身が、迷っているせいかもしれなかった。
今でも、思い出す。成が傷つけられたあの日のことを――
『成、成! しっかりしてくれ……!』
『……』
雨の中、蹲っていた小さな体は冷え切っていた。ぐったりと目を閉じて、死んでしまった様に動かない成を抱き……恐怖でどうにかなりそうだった。――まるで、幼い日の『悪夢』が繰り返されたようだと。
「……くそッ」
甦る怒りに、きつく奥歯を噛みしめる。
俺だって到底、許せはしない。あの子を傷つけた者が、のうのうと笑って暮らしていくなんて。
『ひろにいちゃん、はなさないで……』
成は今でも、悪夢にうなされているのに……その苦しみを、知りもしないなんて。
――俺も、偉そうなことは言えない。
俺だって、結局は同じ穴の狢だ。愛しい者を傷つけた奴を、持てる力の全てで追い込んでやりたいと願ってやまない。彼を止めきることが出来なかったのは、俺の本能に背くからだ。
「俺だって……」
言いかけて、唇をきつく結ぶ。
たとえ、独り言であっても耐えなければいけない。そうでなければ、車を取って返してしまいそうになった。
……家に帰りつくと、深夜を回っていた。
「野江宏章・成己」と表札のかかった玄関を見て、ホッと息を吐く。
――ああ……俺たちの家だ。
成を起こさないよう、静かに玄関の鍵を開ける。口の中で「ただいま」と呟き、しっかり施錠する。そっと階段を上っていくと、薄暗い廊下に、居間から明るい光が漏れている。
俺は、眼を見ひらいた。
――……成?
居間の食卓……そのいつもの椅子の上、成がちょこんと座っていた。華奢な肩にカーディガンを巻きつけて、なにか考え込んでいるように、その横顔は静かに沈んでいる。
……ベッドに眠っていたはずなのに、起きてしまったのか?
引き寄せられるように足を踏み出すと、床がギシリと音を立てる。
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