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第六章~鳥籠の愛~
四百九話【SIDE:宏章】
「宏ちゃん?」
大きな瞳が、俺をとらえた途端――ほっとしたように潤んで、やわらかに細まっていく。
その美しい笑顔に、俺は全身にどっと汗が滲むのを感じた。成はぴょんと椅子を立って、俺の元に駆け寄ってくる。
「よかったぁ。お帰りなさい、宏ちゃん」
小さな手が俺の腕をとる。子猫がじゃれる程の力なのに、胸を締め付けられる。車の中で考えていたことを、この子にはバレたくないと心底思った。
俺は、かろうじて笑み返す。
「ただいま、成……どうしたんだ? 目が覚めちまったのか」
「うん……」
丸い頬に手を伸べると、成からも身を寄せてくる。ふわりとやわらかい体温が、俺の手のひらに馴染んだ。……あたたかくて、優しい。
安心したような笑みを浮かべ、成はため息のように話し始めた。
「ちょっとね。目が覚めたら、宏ちゃんおらんくて。どこに行ったんかなあって、気になって……」
「悪い……急な呼び出しがあってさ」
「そうやったん。お疲れさまです、宏ちゃん」
人を疑うことを知らない、無邪気な笑顔が俺を見上げる。
「……っ」
胸が苦しくなり、俺はたまらず成を抱き寄せる。両の腕でぎゅっ、と華奢な体を閉じ込めると、優しい花の香りが鼻腔をくすぐった。綿毛のような髪に頬を寄せ、俺はきつく目を閉じる。
――済まない、成……
一瞬でも、迷った俺を許してほしい。
あの日、お前を絶対に置いて行かないと誓ったのに……怒りにハンドルを握られそうになっちまったなんて。
「……宏ちゃん、どうしたん?」
不思議そうに、成が見上げる。ぴったりと俺に身を寄せて、見上げてくるはしばみ色の瞳が愛おしい。
こんなにも大事な成を傷つけられて黙ってはいられないと、やはり本能は叫ぶ。だが、それ以上に――この子から離れるなんて、やはり考えられなかった。
――『ひろにいちゃん、また来てね』
幼い頃、成はいつも笑って、俺を送り出した。
センターの面会時間が終わり、俺が家に帰るだんになると、必ずセキュリティゲートの側まで見送ってくれたんだ。――小さな顔に笑みを浮かべて、元気に手を振って。
可愛くて、可愛くて……そんな成のことを、センターの先生たちは「強い子」だと褒めていた。
『また明日な、成』
『うんっ』
けれど――わかっていた。
俺が見えなくなるまで……成がずっとその場を離れないことを。
ゲートの側で、ぽつんと立ち尽くす小さな子供の姿に、胸が張り裂けそうだった。
――もし。二度と俺が来れなくなったら……あの子はどれだけ辛い思いをするだろうって。
だから俺は、お前のそばを離れないと誓ったんだ。
そばを離れるような事態だって、絶対に引き起こさない。――復讐は甘美だ。だが、その後に何が残る。刑務所に行って、成のそばを離れて、それで一体誰が幸せになれるんだ?
――ずっとお前のそばに居る。それが、お前の幸福だと……俺は信じている。
成の頬を包み、そっと額に口づける。
「何でもないよ。ただ……お前を好きなだけだ」
「もう……なに言うてるんですかっ」
丸い頬がぽっと赤らみ、はにかんだ笑みを浮かべた。可愛いかった。
――宍倉さん……
愛する者の為に、復讐に身を投じようとする青年を思う。できれば、断念してほしいと思うが……それもエゴだ。正しさなんて、誰にも計れない。
俺だって、いつか奴らを破滅させなかったことを、後悔する日が来ないとは限らない。やっぱり、「消しておくべきだった」と、また思うかもしれない。
それでも。俺の腕は、成を抱き締めるためにあるのだと信じていたかった。
大きな瞳が、俺をとらえた途端――ほっとしたように潤んで、やわらかに細まっていく。
その美しい笑顔に、俺は全身にどっと汗が滲むのを感じた。成はぴょんと椅子を立って、俺の元に駆け寄ってくる。
「よかったぁ。お帰りなさい、宏ちゃん」
小さな手が俺の腕をとる。子猫がじゃれる程の力なのに、胸を締め付けられる。車の中で考えていたことを、この子にはバレたくないと心底思った。
俺は、かろうじて笑み返す。
「ただいま、成……どうしたんだ? 目が覚めちまったのか」
「うん……」
丸い頬に手を伸べると、成からも身を寄せてくる。ふわりとやわらかい体温が、俺の手のひらに馴染んだ。……あたたかくて、優しい。
安心したような笑みを浮かべ、成はため息のように話し始めた。
「ちょっとね。目が覚めたら、宏ちゃんおらんくて。どこに行ったんかなあって、気になって……」
「悪い……急な呼び出しがあってさ」
「そうやったん。お疲れさまです、宏ちゃん」
人を疑うことを知らない、無邪気な笑顔が俺を見上げる。
「……っ」
胸が苦しくなり、俺はたまらず成を抱き寄せる。両の腕でぎゅっ、と華奢な体を閉じ込めると、優しい花の香りが鼻腔をくすぐった。綿毛のような髪に頬を寄せ、俺はきつく目を閉じる。
――済まない、成……
一瞬でも、迷った俺を許してほしい。
あの日、お前を絶対に置いて行かないと誓ったのに……怒りにハンドルを握られそうになっちまったなんて。
「……宏ちゃん、どうしたん?」
不思議そうに、成が見上げる。ぴったりと俺に身を寄せて、見上げてくるはしばみ色の瞳が愛おしい。
こんなにも大事な成を傷つけられて黙ってはいられないと、やはり本能は叫ぶ。だが、それ以上に――この子から離れるなんて、やはり考えられなかった。
――『ひろにいちゃん、また来てね』
幼い頃、成はいつも笑って、俺を送り出した。
センターの面会時間が終わり、俺が家に帰るだんになると、必ずセキュリティゲートの側まで見送ってくれたんだ。――小さな顔に笑みを浮かべて、元気に手を振って。
可愛くて、可愛くて……そんな成のことを、センターの先生たちは「強い子」だと褒めていた。
『また明日な、成』
『うんっ』
けれど――わかっていた。
俺が見えなくなるまで……成がずっとその場を離れないことを。
ゲートの側で、ぽつんと立ち尽くす小さな子供の姿に、胸が張り裂けそうだった。
――もし。二度と俺が来れなくなったら……あの子はどれだけ辛い思いをするだろうって。
だから俺は、お前のそばを離れないと誓ったんだ。
そばを離れるような事態だって、絶対に引き起こさない。――復讐は甘美だ。だが、その後に何が残る。刑務所に行って、成のそばを離れて、それで一体誰が幸せになれるんだ?
――ずっとお前のそばに居る。それが、お前の幸福だと……俺は信じている。
成の頬を包み、そっと額に口づける。
「何でもないよ。ただ……お前を好きなだけだ」
「もう……なに言うてるんですかっ」
丸い頬がぽっと赤らみ、はにかんだ笑みを浮かべた。可愛いかった。
――宍倉さん……
愛する者の為に、復讐に身を投じようとする青年を思う。できれば、断念してほしいと思うが……それもエゴだ。正しさなんて、誰にも計れない。
俺だって、いつか奴らを破滅させなかったことを、後悔する日が来ないとは限らない。やっぱり、「消しておくべきだった」と、また思うかもしれない。
それでも。俺の腕は、成を抱き締めるためにあるのだと信じていたかった。
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