いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

四百十一話

 振り仰いだ宏ちゃんは、大らかな笑みを浮かべていた。
 
「ありがとうな。夜遅かったのに、無理してないか?」
 
 大きな手にそっと頬を包まれて、温かな体温がしみてくる。なんど睦み合っても、かわらず体調を気にかけてくれる夫に、少しはにかんでしまう。ぼくは、にっこり笑って頷いた。
 
「全然、だいじょうぶっ。お休みやから、ゆっくり眠らせてもろたし……宏ちゃんこそ、疲れてへん?」
「おう。俺はむしろ元気だぞ」
 
 そう言って、頭のてっぺんに頬を寄せられる。くまさんがじゃれてきたらこんな感じに違いない――と思いつつ、ぼくはくすりと笑った。
 
 ――すっかり、いつもの宏ちゃんや。
 
 昨夜は、お疲れやったのかも。
 色んなことがあったもんね。お仕事もやけど、宍倉さんと玻璃さんがお知り合いで、うさぎやで再会するって言う大きなイベントとか……と、内心で頷く。
 顎を上げて、灰色がかった瞳を見上げる。

「どうした?」
「……ううん」

 優しく問われて、頭を振った。
 宏ちゃんは大人で、弱音とかあんまり言わへんよね。今回も、ぼくの知らないうちに何らかの葛藤が終わってしまったような――そんな気がする。
 
 ――幼なじみとして、ずっと一緒に居たけど。まだまだ知らない事ばかり……
 
 奥さんとして、もっと精進せんとやね。
 ふんす、と内心で気合を入れつつ――背中を包む体温にくっついて、聞いてみる。
 
「ねえねえ、宏章先生。お仕事のお電話、大丈夫でした?」
「ああ。ちょっとした確認だったからな。今日は、久々のオフです」
 
 ぼくは、ぱっと気分が明るくなる。
  
「ほんま……?!」
 
 くるん、と腕の中で体の向きを変えた。
 宏ちゃんの切れ長の目が、嬉し気に笑んでいる。
 
「お前さえ良かったら、今日はおうちデートしないか。夜は……雨が上がってたら、なにか食いに行ってもいいしさ」
「わあ……嬉しいっ。そうしよう、宏ちゃん!」
 
 籠を置いて胸に飛び込むと、しっかりと抱き返される。
 このところ、二人でゆっくりする時間が無かったん。お仕事やったり、人助けやったり。ぼくも遊びに行かせて貰ったりと、有意義な時間だったのですがっ。
 
 ――やっぱり、夫婦の時間は大切やと思うのです……! まったり過ごすことこそ、夫婦円満の秘訣やって涼子先生も言ってた……!
 
 広い胸に頭をくっつけていると、深い木々の香りに包まれる。しとしとの雨の日やのに、森林のシャワーを浴びているような清々しい気持ちになる。
 大きな手が、よしよしと背中を撫でてくれた。
 
「成、見たい映画あるって言ってなかったか?」
「うんっ……あ、でも、今日は宏ちゃんの観たいのにしよ? こないだもぼくの選んだのやったし」
「はは、いいんだよ。俺は、楽しそうなお前を観るのが好きだから」

 宏ちゃんは、甘い声で囁く。
 頬がぽぽぽ、と熱くなるのを感じた。

「もう……何言うてはるんやろっ。きょ、今日は宏ちゃんの観たい映画にしますっ」
「えー。遠慮しなくていいのに」
「だめっ。宏ちゃんはぼくを甘やかしすぎ。それに、ぼくだって宏ちゃんが嬉しそうなの観たいもん」

 めっと指を立てると、宏ちゃんは目を丸くした。それから、染みるような笑みを浮かべる。薄い唇が、とけるような呟きをこぼず。

「ん?」

 聴き取れへんかった。
 きょとんとするぼくに、宏ちゃんはほほ笑む。

「お前と一緒に居られて幸せだ、って思っただけだよ」

 それから、身を屈め……頬にやわらかなキスをしてくれた。
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