415 / 505
第六章~鳥籠の愛~
四百十四話【SIDE:陽平】
自然と、俺の足はあの店へと向かっていた。
闇雲に走り出したはずが、俺の本能が成己を求めていたのだろうか。降りしきる雨の中を走り続け――すぐに、「うさぎや」と小さな看板の出ている店の前についてしまった。
「はあ……はっ……」
膝に手をつき、荒い息を吐く。
店は休業日なのか、シャッターが下りていた。居住スペースらしい二階を見ると、明かりがついている。この雨で、夕方のように暗いせいだろう。
――いる。成己が……
心臓が、走ったせいじゃなく早鐘を打ち始める。成己が居るのだ。紛れもなく、あそこに……そう思うと、いよいよ居てもたってもいられなくなる。傘の柄を、ぐっと握りしめた。
「なあ、いるのか……?」
白いレースのぴたりと閉じた部屋を見上げる顔に、雨が打ち付けてくる。
会いたい。そう念じた瞬間、カーテンがさっと開いた。ひょこ、と窓越しに小さな顔が、現れる。
「!」
成己は雨の具合をみるように、空を見上げていた。……小さな口が、何か呟いたようだった。突然現れた淡い面影を、俺は食い入るように見つめる。
――成己っ……!
成己は、ふと後ろを振りかえった。……そこに誰かいるように。嫌な予感を覚えたと同時、でかい男が現れて、あいつを背後から抱きしめた。
「っ、野江……」
じゃれつくように抱きつく男に、成己がはにかんだ笑みを浮かべる。野江は、成己を腕におさめ、小さなおとがいを持ち上げると唇を奪う。
「――あ」
俺は、ひゅっと息を飲む。
成己は抵抗せずに、細い腕であの男を抱きしめる。幸せそうに笑って……額や頬にキスをする野江に、無防備に身を預けていた。
やがて――野江が性急に、成己を部屋の奥に引き込んでゆく。
開いたときよりも乱暴に引かれたカーテンが、ひらりと揺れた。
ザァァ……
雨を浴びながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。
成己が、あの男に身を任せている……知っていたはずなのに。目の前で繰り広げられた、あまりに満ち足りた光景は、深く俺の胸を抉った。
――何やってんだ……俺……
こんなところまで押しかけて、気づいても貰えなくて。
わざわざ、成己との距離を実感しただけじゃねえか……
「くそっ……!」
安心しきった成己の顔を思い、胸が押しつぶされそうになる。あんな顔、俺の前ではしたことがない。だが……成己は、俺のものだったはずなのに。
きつく目を閉じる。――まぶたの裏に、かつての俺と成己の姿が浮かび上がる。夕焼けの教室で初めて抱き合ったときの、照れた笑顔。別れたくないと泣いて、俺に全てを差しだそうとしたときの、青褪めた泣き顔……
――俺のものだったのに!
唇を噛みしめると、ぶつりと牙が皮膚を破り、血が溢れ出す。
胸が焦げ付いて、死にそうだ。
悔しさに呻いていると、俺の前を一台の車が通り過ぎ――店の前に停まった。
……客だろうか。わざわざ休みと言ってやる気にもなれず、ぼうっとしていると、ドアが開き人が出てきた。
淡い茶髪が、傘の開く一瞬に垣間見える。
「……お休みなのかな?」
俺は、ハッと目を瞠る。
激しい雨音に遮られながらも、その呟きははっきりと耳に届いた。
求めていた声に似ていたから。
――……成己……?
しかし、注目したときには、その男は再び車に乗り込んでいた。もう用はないとばかりに水たまりを踏みながら、車が走り去る。
「……は」
恋しさのあまりに、耳までおかしくなったのか。
俺は自嘲し、その場を立ち去った。
闇雲に走り出したはずが、俺の本能が成己を求めていたのだろうか。降りしきる雨の中を走り続け――すぐに、「うさぎや」と小さな看板の出ている店の前についてしまった。
「はあ……はっ……」
膝に手をつき、荒い息を吐く。
店は休業日なのか、シャッターが下りていた。居住スペースらしい二階を見ると、明かりがついている。この雨で、夕方のように暗いせいだろう。
――いる。成己が……
心臓が、走ったせいじゃなく早鐘を打ち始める。成己が居るのだ。紛れもなく、あそこに……そう思うと、いよいよ居てもたってもいられなくなる。傘の柄を、ぐっと握りしめた。
「なあ、いるのか……?」
白いレースのぴたりと閉じた部屋を見上げる顔に、雨が打ち付けてくる。
会いたい。そう念じた瞬間、カーテンがさっと開いた。ひょこ、と窓越しに小さな顔が、現れる。
「!」
成己は雨の具合をみるように、空を見上げていた。……小さな口が、何か呟いたようだった。突然現れた淡い面影を、俺は食い入るように見つめる。
――成己っ……!
成己は、ふと後ろを振りかえった。……そこに誰かいるように。嫌な予感を覚えたと同時、でかい男が現れて、あいつを背後から抱きしめた。
「っ、野江……」
じゃれつくように抱きつく男に、成己がはにかんだ笑みを浮かべる。野江は、成己を腕におさめ、小さなおとがいを持ち上げると唇を奪う。
「――あ」
俺は、ひゅっと息を飲む。
成己は抵抗せずに、細い腕であの男を抱きしめる。幸せそうに笑って……額や頬にキスをする野江に、無防備に身を預けていた。
やがて――野江が性急に、成己を部屋の奥に引き込んでゆく。
開いたときよりも乱暴に引かれたカーテンが、ひらりと揺れた。
ザァァ……
雨を浴びながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。
成己が、あの男に身を任せている……知っていたはずなのに。目の前で繰り広げられた、あまりに満ち足りた光景は、深く俺の胸を抉った。
――何やってんだ……俺……
こんなところまで押しかけて、気づいても貰えなくて。
わざわざ、成己との距離を実感しただけじゃねえか……
「くそっ……!」
安心しきった成己の顔を思い、胸が押しつぶされそうになる。あんな顔、俺の前ではしたことがない。だが……成己は、俺のものだったはずなのに。
きつく目を閉じる。――まぶたの裏に、かつての俺と成己の姿が浮かび上がる。夕焼けの教室で初めて抱き合ったときの、照れた笑顔。別れたくないと泣いて、俺に全てを差しだそうとしたときの、青褪めた泣き顔……
――俺のものだったのに!
唇を噛みしめると、ぶつりと牙が皮膚を破り、血が溢れ出す。
胸が焦げ付いて、死にそうだ。
悔しさに呻いていると、俺の前を一台の車が通り過ぎ――店の前に停まった。
……客だろうか。わざわざ休みと言ってやる気にもなれず、ぼうっとしていると、ドアが開き人が出てきた。
淡い茶髪が、傘の開く一瞬に垣間見える。
「……お休みなのかな?」
俺は、ハッと目を瞠る。
激しい雨音に遮られながらも、その呟きははっきりと耳に届いた。
求めていた声に似ていたから。
――……成己……?
しかし、注目したときには、その男は再び車に乗り込んでいた。もう用はないとばかりに水たまりを踏みながら、車が走り去る。
「……は」
恋しさのあまりに、耳までおかしくなったのか。
俺は自嘲し、その場を立ち去った。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。