いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

四百十六話

 終わったあと、ぼくと宏ちゃんはぴったりと抱き合っていた。まだ、熱の余韻の残る素肌をあわせて、からだを寄り添わせる。
 さっきまでの激しさは、どこへいったんやろう? ――寝室には、しっとりと湿り気を帯びた空気が満ちていた。

「はぁ……」
「大丈夫か?」
 
 こくりと頷いて、広い胸に頬をひっつける。
 まだ、体の芯から甘い快感が溢れ出して、ふるふると揺れているみたいやった。――こういうときは、心地好さと不安がないまぜで、とにかく宏ちゃんにくっつきたくて仕方ない。
 
「成。すごく可愛かった……」
「……っ」
 
 甘い囁きに頬が熱る。あけすけな夫の褒め言葉は、照れちゃうけど嬉しい。

「宏ちゃんも。えと……すごかった、です」
「そうか、そうか。またやろうな?」
「もう……」

 嬉しそうに言われて、耳朶まで熱くなっちゃう。
 宏ちゃんは、ぼくをひょいと引き寄せて、逞しい胸に乗っけてくれた。

「あ……」
「好きだよ、成」

 大きな手のひらが、ゆっくりと項から背を慰撫した。
 ……優しい手つき。まるで、彼の可愛いペットになったみたいで、胸がきゅうんと甘く痛んだ。
 
 ――宏ちゃん。好き……
 
 心がそれでいっぱいになる。
 胸の上で体を丸めると、くすりと笑い声が聞こえた。――森の木々の匂いが、鼻腔をくすぐる。とても深くて、落ちつく香り……
 しばらく、黙って引っ付いていると……ちりちりと火花が散るようだった肌が、次第に落ち着いていく。
 
「はふぅ……」
 
 ゆるやかに吐息を漏らすと、宏ちゃんが言う。
 
「……眠い?」
 
 ぼくを覗き込む目は、少し悪戯っぽい光を宿してる。
 頷きかけて、やっぱり頭を振る。眠るよりも、まだ宏ちゃんと一緒に居たかったん。
 
「ううん、平気……宏ちゃんは?」
「俺もだ」
 
 にっこりとほほ笑みあう。
 ぼくは、宏ちゃんにもっと乗り上げて、たくましい胸に頭を預けた。とくん、とくん、と力強く脈打っている鼓動に耳を傾ける。
 こうしていると、宏ちゃんが生きているって感じられて、好き。
 
 ――鼓動みたいに、心も伝わってくれへんかなぁ……?
 
 こんなふうに耳をそばだてていれば、聞こえたりしないかなぁ、って思う。
 宏ちゃんと抱き合っている時ね。
 なんだか、昨夜と同じで……つなぎとめようとするみたいな。ぼくを確かめようとするような、そんな気持ちを感じたんよ。
 してるときは夢中で、抱きつくしか出来なかったけれど。
 今なら――そう思いきって、目を開ける。

「……宏ちゃん。何かあった?」
 
 そっと尋ねてみると、頭を撫でてくれていた手が止まる。
 
「ん? 何もないぞ」
「えっ……そう?」
「ああ」

 穏やかな声は、いつもどおり。

「そ、そっか……」

 ほんまは、本当に? って重ねて聞きたい。
 でもね……何となく宏ちゃんが話したくないのを察してしまったんよ。
 しゅんと眉を下げると、宏ちゃんは苦笑する。

「大丈夫だよ、成」
「宏ちゃん……」
「何も心配いらないから……」

 ぼくを安心させるように、大きな手のひらに頬を包まれる。
 灰色がかった瞳は穏やかで、ひとつも嘘が無くて……ぼくは、こくりと頷いた。

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