いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
429 / 505
第七章~おごりの盾~

四百二十八話【SIDE:晶】

 玻璃は、白けた調子で髪を耳にかけている。あまりに勝手な言い分に、絶句してしまった。
 
 ――それは、勝手に予定を入れられたら……会わないなんて、失礼だからに決まってるだろ?!
 
 なんで、そんな当たり前のことがわかんないんだ? 本当に後継者教育受けてんのかよ、と呆然とする。
 玻璃の奴は、俺の呆れにも気づかず、さっさと話しを切り上げはじめた。
 
「お話はそれだけです。朝早くに申し訳ありませんでした」
「ちょっと、待てよ。俺に全部押し付けようなんて」
「椹木さんは、お兄様の婚約者でしょう? お兄様からお話するのが筋だと思います。ああそうだ、今夜はお父様のお帰りも遅いそうですので」
  
 えらそうに顎を突きあげ、踵を返し部屋を出て行く。その後を、あいつのお追従係の使用人が、小走りについて行った。
 俺は、わなわなと震えた。
 
 ――あいつ、マジで信じらんないんだけど……?! なんで、あんなに勝手なんだよ!
 
 憤懣やるかたなく拳を振り上げて、マットに叩きつける。
 玻璃の奴――最近は、大人しくしていると思っていたのに。この頃、生意気さを取り戻してきてるじゃないか。
 使用人たちが、「晶様」とオロオロしているが、きにかけてやる余裕もない。
 
「俺が、なんで椹木さんとっ……二人で、飯なんか」
 
 口にして……顔がカッと熱くなり、息が詰まる。
 
 ――俺はただ、新しい抑制剤について知りたかっただけだ。それなのに、なんであの人と会うことになるんだよ!?
 
 椹木製薬――あの人のラボから、新薬が発表されたと聞いて、興味を持った。
 別に、あの人の薬だからじゃない。オメガなら、抑制剤については人よりも敏感になるだけだ。
 薬のことを知りたいだけで、あの人に会いたいなんて、思ってないのに。
 
 ――『晶くん』
 
 鋭い眼差しが穏やかに細まるのを思い出し、じくりと下腹が疼く。
 
「……ああ、もう!」
 
 考えているのが嫌になって、ベッドを下りる。――ともかく、大学に行くために身支度を整えなければ。髪を乱暴にかき乱し、はあとため息を吐く。
 オーバーサイズのTシャツを脱ぎ捨てると、痩せた体が露わになった。
 
「……っ!」
 
 何の変哲もない男の体だった。なのに、使用人たちが息を飲むのが聞こえ、うんざりしつつ服を着こむ。
 それからいつもの習慣で、テーブルの上にある抑制剤を一錠取り、ペットボトルのミネラルウォーターで飲み下した。
 
 ――どうせ効かないけど、飲まないよりはマシだからな……
 
 口を拭い、思う。
 二次性徴が始まってすぐ、俺は抑制剤を飲み始めた。
 まだヒートの兆候はなかったけれど、フェロモンの香りが変わったと周囲に指摘され……来るのは時間の問題だと思った。
 毎日、欠かさず三錠。ヒートが来る前に服用すると、抑制剤が効かなくなる恐れがあると止められても、無理だった。
 ヒートが、来てほしくなかった。
 そのときには、すでに後継者から外されていたけれど……俺は、一度は肩を並べていたアルファたちに、オメガとして品定めされることは耐えられなかったから。
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。