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第七章~おごりの盾~
四百二十九話【SIDE:晶】
「……」
うすっぺらい腹に、手を当てる。
……必死の抵抗空しく、ヒートは来ちまったけどな。センターでは、いつ調べて貰っても結果は異常なし・健康体だと太鼓判を押されてしまう。
俺は、いわゆる優性オメガってやつだったらしく、あらがえば抗うほど臓器が強く発達したらしい。
最悪なことに、俺のフェロモンは強くて……アルファどころかベータまでも狂わせちまうと、解った。
――『最近、蓑崎も可愛いじゃんって思えてきた。いい匂いするしさあ……』
俺に勝てない腹いせに嫌みばかり言ってきたクラスメイトが、発情しきった顔ですり寄って来たときは吐き気がした。
それ以来、ますます色目使われるのが耐えがたくてさ。抑制剤を多量に服用することが、止められなくなったんだ。
――気づいたら……ほとんどの抑制剤で、耐性が無くなってて……
は、と自虐的な笑みが漏れる。
ただ、自らの身を守りたかっただけなのに……結局、男を誘ってるだかなんだか、余計に言われるようになっちまった。
ほんと、世の中って割に合わないよなぁ。
――成己くんみたいに、アルファに縋るオメガのフェロモンが弱くてさ……アルファを求めてない俺のフェロモンが強いって、神様の設計ミスすぎだって。
おかげさまで、努力して入った大学にも居づらくなったくらいだし。
『城山と浮気して、婚約者を追い出したオメガ』――それが、いまの俺の評判だ。くそ過ぎて笑っちまうだろ。
岩瀬や渡辺が、陽平とのことを歪めて伝えたせい。あいつらは、オメガが身近にいないから、自分がどれだけ残酷なことをしているかわかってない。
フェロモンが抑えられないのは、俺が一番困ってるし。成己くんが浮気してたことは広めないのが、結局は色目なんだろって、ますます鼻白んだ。
元凶の陽平にだって……そりゃ、言いたいこともあるけど。がりがりに痩せて、真っ青な顔をしてるのを見たら、可哀そうになってさ。
――成己くんは、つくづく人生チョロいよな。陽平のやつも、俺もボロボロなのに……
俺に群がる雄を求め、勝手な嫉妬してくる奴らに、言ってやりたかった。そんないいもんじゃねーよ、って。フェロモンなんか、消せるもんなら消したい、って。
俺がオメガであるかぎり、かなわない夢だけど。
「……でも」
窓に手をついて、外を見た。秋晴れの空は、遠くまで青く透けている。
――新しい薬なら……ひょっとして。
耐性の出来た体にも効く抑制剤なら……俺をオメガだと見下げてきた奴らに、一矢報いてやれるんじゃないか?
「……だったら、話す価値はあるのか」
ごくり、と喉を鳴らす。
新薬は、センターではとっくに治験が始まっているだろう。なら、俺達の手元に来る日も近いはずだ。競争率は高いだろうが――父には無理でも、あの人なら。
「俺が……穏便に婚約者を退く条件なら。もしかして、薬を都合してもらえるか?」
断る理由は無いはずだ。
俺は新しい薬を得て、自由になれる。あの人は、押し付けられた婚約者から、解放されるんだ。
俺は、パチンと拳を叩く。
「そうと決まれば、もてなしの準備考えねーとな。交渉の基本は、メシだから」
気合を入れて、部屋を出る。
廊下を颯爽と歩きながら、今日のプランを練る。――なぜか、ズキズキと痛む胸には知らぬふりをして。
うすっぺらい腹に、手を当てる。
……必死の抵抗空しく、ヒートは来ちまったけどな。センターでは、いつ調べて貰っても結果は異常なし・健康体だと太鼓判を押されてしまう。
俺は、いわゆる優性オメガってやつだったらしく、あらがえば抗うほど臓器が強く発達したらしい。
最悪なことに、俺のフェロモンは強くて……アルファどころかベータまでも狂わせちまうと、解った。
――『最近、蓑崎も可愛いじゃんって思えてきた。いい匂いするしさあ……』
俺に勝てない腹いせに嫌みばかり言ってきたクラスメイトが、発情しきった顔ですり寄って来たときは吐き気がした。
それ以来、ますます色目使われるのが耐えがたくてさ。抑制剤を多量に服用することが、止められなくなったんだ。
――気づいたら……ほとんどの抑制剤で、耐性が無くなってて……
は、と自虐的な笑みが漏れる。
ただ、自らの身を守りたかっただけなのに……結局、男を誘ってるだかなんだか、余計に言われるようになっちまった。
ほんと、世の中って割に合わないよなぁ。
――成己くんみたいに、アルファに縋るオメガのフェロモンが弱くてさ……アルファを求めてない俺のフェロモンが強いって、神様の設計ミスすぎだって。
おかげさまで、努力して入った大学にも居づらくなったくらいだし。
『城山と浮気して、婚約者を追い出したオメガ』――それが、いまの俺の評判だ。くそ過ぎて笑っちまうだろ。
岩瀬や渡辺が、陽平とのことを歪めて伝えたせい。あいつらは、オメガが身近にいないから、自分がどれだけ残酷なことをしているかわかってない。
フェロモンが抑えられないのは、俺が一番困ってるし。成己くんが浮気してたことは広めないのが、結局は色目なんだろって、ますます鼻白んだ。
元凶の陽平にだって……そりゃ、言いたいこともあるけど。がりがりに痩せて、真っ青な顔をしてるのを見たら、可哀そうになってさ。
――成己くんは、つくづく人生チョロいよな。陽平のやつも、俺もボロボロなのに……
俺に群がる雄を求め、勝手な嫉妬してくる奴らに、言ってやりたかった。そんないいもんじゃねーよ、って。フェロモンなんか、消せるもんなら消したい、って。
俺がオメガであるかぎり、かなわない夢だけど。
「……でも」
窓に手をついて、外を見た。秋晴れの空は、遠くまで青く透けている。
――新しい薬なら……ひょっとして。
耐性の出来た体にも効く抑制剤なら……俺をオメガだと見下げてきた奴らに、一矢報いてやれるんじゃないか?
「……だったら、話す価値はあるのか」
ごくり、と喉を鳴らす。
新薬は、センターではとっくに治験が始まっているだろう。なら、俺達の手元に来る日も近いはずだ。競争率は高いだろうが――父には無理でも、あの人なら。
「俺が……穏便に婚約者を退く条件なら。もしかして、薬を都合してもらえるか?」
断る理由は無いはずだ。
俺は新しい薬を得て、自由になれる。あの人は、押し付けられた婚約者から、解放されるんだ。
俺は、パチンと拳を叩く。
「そうと決まれば、もてなしの準備考えねーとな。交渉の基本は、メシだから」
気合を入れて、部屋を出る。
廊下を颯爽と歩きながら、今日のプランを練る。――なぜか、ズキズキと痛む胸には知らぬふりをして。
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