いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第七章~おごりの盾~

四百三十話【SIDE:晶】

 夜――一台の車が、うちの門を潜ったのをみとめ、俺は静かに息を吐く。
 僅かなタイムラグで、使用人がドアをノックした。

「晶様。椹木様がいらっしゃいました」
「わかった」

 頷いて、最後に姿見で全身のチェックを行う。
 自宅でのディナーとは言え、婚約者と会うわけだから。あんまりカジュアルすぎるのも、よくないしな。

――今夜は、大事な話があるし。ちゃんとしておいて、損はない。

 シャツの襟を整え、髪を耳にかけてから、俺は自室を出た。
 階下に降りポーチに出ると、ちょうど椹木さんが、靴を脱ごうとしているところだった。俺に気づいて、鋭い眼差しが笑みに形づくられる。

「晶くん、こんばんは。お招き頂いて、ありがとうございます」
「……こんばんは。どうぞ、上がって下さい」

 仕事帰りで、疲れてるだろうに。
 わざわざ、好きでもない婚約者の家に来るなんて、物好きだなと思う。
 そんな皮肉は浮かぶのに、嬉しそうにされると弱い。熱る頬を隠すように俯き、彼を食堂まで案内した。
 普段、家族で使っているそこでなく、来客時に使う場所だ。父さんが、友人や社員とそこで密談されている。

――椹木さんは、婚約者とはいえ家族じゃない。建前の婚約とはいえ、ちゃんと立てないとな。

 ……まあ、その肩書はもうじき無くなるけどさ。
 少し、感傷的な気分になりつつ、「こちらです」と食堂の戸を開いた。



 

「これは……すごいご馳走ですね」

 テーブルに並んだ料理を見て、椹木さんが感嘆する。少し身を乗り出すようにして、料理を眺めている。

「……っ」

 ついニヤけそうな唇を手で隠し、俺は言った。

「大げさです。素人の料理なので、あまり期待しないでくださいね?」
「そんな。本当に、とても美味しそうですよ。ありがとうございます、晶くん」

 鷹のような目が、カルパッチョを見て緩む。そのことに気づき、胸の奥がじわりと熱くなった。

――くそ。簡単に喜んでんじゃねーよ……!

 誰に向けているのかわからない悪態をついた。
 いつもそうだ。椹木さんと向き合うだけで、動揺してしまう。
 凛とした態度で臨みたいのに、感情の糸がグラグラして抗えないんだ。
 アルファの彼に、俺のオメガ性が反応しているだけ――常と同じく言い聞かせ、平常心を取り戻す。

 ――こんなふうに顔を合わせるのは、もう終わりになるんだから。

 食事を始めてからも、賛辞はやまなかった。よくそんなに褒め言葉が出てくるなと思うけど、褒められて嬉しくないこともない。
 和やかに談笑するなか、俺はあの薬のことを切り出した。

「椹木さん。そう言えば、ニュース見ました。おめでとうございます」

 椹木さんの顔が明るくなった。
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