いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第七章~おごりの盾~

四百三十四話【SIDE:晶】

 広いベッドで目覚めた絶望を思い出し、ぼろりと涙がこぼれる。
 結局、性処理だったのかと思って。俺が、どれだけ惨めだったか。その後、逃げるように留学しても、引き留めてもくれないで。俺のこと、どれだけどうでもいいんだって、思ったかも知らないで。
 歯を噛み縛って泣いていると、椹木さんは青褪めている。
 
「晶くん……私は」
「うるさいっ」
 
 がつん、と額に頭突きをする。痛そうな呻きが上がって、ちょっとスッとしたけど涙は止まらない。
 みっともない、と頭のどっかで思う。アルファの前で取り乱して、甘えてるみたいじゃないか。
 
 ――みっともない、オメガみたいに……!
 
 俺は、オメガになんかなりたくなかったのに。勝手に抱いて、人のことをめちゃくちゃにしておいて――勝手に突き放して。
 
「アルファなんか、大嫌いだ……!」
 
 そう悲痛に叫んだ瞬間、力強く抱き寄せられる。――白檀の香に包まれ、ハッと目を瞠った。
 
「すみませんでした……私の弱さのせいで、君をこれほど苦しめていたなんて。知らなかったでは、済まされないと解っています。ですが……」
 
 そっと頬を包まれ、親指で涙を拭われる。真摯な目で見つめられ、鼓動が跳ねた。
 
「どうか、償わせてください。君の側で、君の心を癒すことを許しては貰えませんか……?」
「椹木さん……」
 
 俺は、茫然と見上げた。
 
 ――嘘だ。俺を懐柔しようとする、罠だ……!
 
 咄嗟に身じろいで、後退しようとするも……太い両腕が、俺の背をしっかりと抱きしめている。
 逃げられない、と俺は悟る。
 
「うう……っ」
 
 このアルファに、捕まってしまうんだと――そう思った途端、ぞくんと腹の奥が震えた。
 
「あ……っ!」
 
 体の力が抜けて、目の前の男に縋りつく。しっかりと抱き留められて、ぞわぞわと肌が粟立つ。はあはあと荒い息を吐いて、広い背に抱きついていると、椹木さんが言う。
 
「……あの抑制剤を、試すことは出来ます。もう、治験は済んでいますから」
「……!」
 
 バッグにあるというそれを、打つことは出来ると彼は言う。――待ち望んでいた言葉だった。アルファに抱かれたくなんかない。発情なんかしたくない。
 万々歳だ。
 
「ふ……っ」
 
 なのに、胸の奥がしんしんと冷えていく。生理的じゃない涙が、ぼろぼろ零れて頬を伝った。
 どうすることも出来なくて、背広にしがみ付いて泣いていると……そっと、顔を上げさせられる。
 やわらかな唇が、涙を拭った。
 
「でも、私は。叶う事なら、最初の日のやり直しをしたいです。君が許してくれるなら……」
「……ぁ」
 
 熱い囁きが耳に吹き込まれ、肩が震えた。
 大きな手が、俺のからだを這う。欲情を伴った手つきに、恍惚の息が漏れた。
 
 ――あつい……
 
 甘い快楽に身を任せろと、本能が言う。いつもは絶望と共に、その声を聴くのに……今日は、甘い喜びでもって俺は迎えた。本能のせいでもいい。いまは……この人の熱に溺れたい。
 
「……ん」
 
 広い胸に熱る頬を押し付け、頷く。
 すぐさま俺を抱き上げた腕に、歓喜と期待でもって身を預けた。
 
 
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