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第七章~おごりの盾~
四百三十五話【SIDE:晶】
「――大丈夫ですか?」
荒い息を吐いて、ベッドに伏していると、優しい声が降って来た。薄目を開けると、ベッドに腰かけた椹木さんが心配そうに見下ろしている。
「……平気です」
「無理をさせましたね。久しぶりだったのに……」
しっとりした手に頬を包まれ、吐息が震えた。さんざん抱かれた体は、簡単な接触さえも愛撫に変換してしまう。身を丸めて、手のひらを避けると、椹木さんが笑った。
「起き上がるのは辛いでしょう。体を拭くので、じっとして居て下さい」
そう言う男は、すでに床にうち捨てたはずのスラックスとシャツを、身にまとっている。まだ、全裸でベッドに横たわっている俺と違い、変わり身が速い。面白くない――さっきまで、汗だくで動いていたくせに……
『晶くん……!』
熱く囁かれ、情熱的に抱かれたことを思い出し、ぼっと赤面する。
久々の椹木さんとの行為は、全然違っていた。いつもは発情をおさめるよう、丁寧に抱かれていた。ゆっくりとほぐされて、正常位で挿入されて……終わり。治療行為みたいなセックスしかしない人だって思ってた。
なのに、今日は――あんな。
わが身をきつく抱き、彼に施された、さまざまな愛撫を思う。甘い――なんてものじゃない、濃密な時間。それをもたらしたのが、目の前の婚約者だとは。
散々暴かれた腹の奥がずくりと疼いて、足がもじついてしまう。
――って。何考えてんだ、俺……!
こんな、反芻なんかして。だ、抱かれて喜んでるみてえじゃん。
不思議そうな椹木さんに顔を背ける。と――使用人に頼んだのか、湯気を立てる洗面器から引き出したタオルを絞り、椹木さんは俺の肌を拭う。汗と精液で汚れた肌を丹念に拭われて、目を瞠った。
「ちょっと、何するんですか……!」
「気にしないで。任せて下さい」
「任せろって言っても……!」
子供じゃあるまいし、恥ずかしいんだけど!
身を捩って逃げようにも、敏感になった肌をタオルがくすぐって、力が抜ける。
「やめ……んっ……くすぐったい……」
「じっとしてください。君を大切にしたいんです」
「……っ!」
シーツに横たわった体を、好き放題に清められてしまう。恥ずかしいから嫌なのに、優しい手つきに甘やかされると、体の力が抜けちまう。
何かがおかしい。「大切にする」なんて、この人の口癖のはずなのに……なんでか抵抗できない。
「ぁ……っ。やだっ」
「晶くん……」
身じろぐと、唇にキスが降ってくる。ちゅ、ちゅっと啄むように顔中にキスされて、俺は赤面した。
――何この人? なんか強引じゃない……?!
妙な空気のせいで、肌がむずがゆい。戸惑う俺をよそに、椹木さんは何度もタオルを洗い流しては、せっせと肌を清めた。それから、衣料箪笥から俺の部屋着を取り出して、着せつける。世話を焼きなれていないのか、不慣れな手つきだ。
「……ありがとうございます」
「いえ」
シーツまで変えられて、こざっぱりしたベッドに横になる。どこか満足そうな椹木さんを、胡乱な気分で見上げた。――いつも、使用人に任せて放ったらかしだったくせに。
じっと見上げていれば、ベッドに腰かけた椹木さんが、手を伸ばしてくる。そっと頭を撫でられた。
「どうしたんですか?」
「……今日はいてくれるんだな、と思って」
つい皮肉を言うと、彼は表情を曇らせる。俺より年上のくせに、叱られた犬みたいにしゅんとしている。
――そういう顔すんの、ずるいだろ……
俺のなかの面倒見の虫が、うずうずしちまって。つい、慰めるように頭に手をやってしまい、ハッとする。
「あ、これは……」
「晶くん……」
手を引くより先に、すり、と頬を寄せられて、どきりとした。
――かわいい、かも……?
自分よりでかい、いい大人に変だよな。でも、許しを乞うように見つめられると、狼狽してしまう。――この人って、思ったよりも怖い男じゃないのかな、とか思ったりして。
そのまま、なんとなく膠着状態を起こしてたんだけど……椹木さんが均衡を破る。
「晶くん。私は、至らない男です。それでも……君の側にいても良いでしょうか」
「……!」
なんで、あんたが許しを請うんだよ、とか。
いまさら、って気持ちだって、ないわけじゃなかった。一人で置いて行かれた、辛さはずっと消えないと思うから。
――俺のからだは、汚れてしまった。それだって、元に戻らないんだ……!
それでも、即答は出来ない。是も――否も。
悔しいけれど、この男の言葉を、歓喜している自分がいる。
それが、蓑崎晶としての感情か、汚いオメガの本能かはわからないけれど。
黙っている俺に、椹木さんは微笑む。
「これからの私を見て、判断してもらえませんか。君が許してくれるかぎり、自分の誠を見せます」
手を取られる。力強い手だった。
父さんよりも熱くて、固い――男の手。俺をいい様にする、大嫌いなアルファ。
――それでも少しくらい……信じても、いいんだろうか。
撮られた指先に、ほんの少し力を込める。……いまは、たったそれだけの勇気だけで。
すると、体を引き寄せられた。温かい胸に頬がぶつかって、白檀の香りが鼻腔を突き抜ける。
汚いオメガを求める、憎いアルファの香に包まれ……俺はそっと微笑んだ。
荒い息を吐いて、ベッドに伏していると、優しい声が降って来た。薄目を開けると、ベッドに腰かけた椹木さんが心配そうに見下ろしている。
「……平気です」
「無理をさせましたね。久しぶりだったのに……」
しっとりした手に頬を包まれ、吐息が震えた。さんざん抱かれた体は、簡単な接触さえも愛撫に変換してしまう。身を丸めて、手のひらを避けると、椹木さんが笑った。
「起き上がるのは辛いでしょう。体を拭くので、じっとして居て下さい」
そう言う男は、すでに床にうち捨てたはずのスラックスとシャツを、身にまとっている。まだ、全裸でベッドに横たわっている俺と違い、変わり身が速い。面白くない――さっきまで、汗だくで動いていたくせに……
『晶くん……!』
熱く囁かれ、情熱的に抱かれたことを思い出し、ぼっと赤面する。
久々の椹木さんとの行為は、全然違っていた。いつもは発情をおさめるよう、丁寧に抱かれていた。ゆっくりとほぐされて、正常位で挿入されて……終わり。治療行為みたいなセックスしかしない人だって思ってた。
なのに、今日は――あんな。
わが身をきつく抱き、彼に施された、さまざまな愛撫を思う。甘い――なんてものじゃない、濃密な時間。それをもたらしたのが、目の前の婚約者だとは。
散々暴かれた腹の奥がずくりと疼いて、足がもじついてしまう。
――って。何考えてんだ、俺……!
こんな、反芻なんかして。だ、抱かれて喜んでるみてえじゃん。
不思議そうな椹木さんに顔を背ける。と――使用人に頼んだのか、湯気を立てる洗面器から引き出したタオルを絞り、椹木さんは俺の肌を拭う。汗と精液で汚れた肌を丹念に拭われて、目を瞠った。
「ちょっと、何するんですか……!」
「気にしないで。任せて下さい」
「任せろって言っても……!」
子供じゃあるまいし、恥ずかしいんだけど!
身を捩って逃げようにも、敏感になった肌をタオルがくすぐって、力が抜ける。
「やめ……んっ……くすぐったい……」
「じっとしてください。君を大切にしたいんです」
「……っ!」
シーツに横たわった体を、好き放題に清められてしまう。恥ずかしいから嫌なのに、優しい手つきに甘やかされると、体の力が抜けちまう。
何かがおかしい。「大切にする」なんて、この人の口癖のはずなのに……なんでか抵抗できない。
「ぁ……っ。やだっ」
「晶くん……」
身じろぐと、唇にキスが降ってくる。ちゅ、ちゅっと啄むように顔中にキスされて、俺は赤面した。
――何この人? なんか強引じゃない……?!
妙な空気のせいで、肌がむずがゆい。戸惑う俺をよそに、椹木さんは何度もタオルを洗い流しては、せっせと肌を清めた。それから、衣料箪笥から俺の部屋着を取り出して、着せつける。世話を焼きなれていないのか、不慣れな手つきだ。
「……ありがとうございます」
「いえ」
シーツまで変えられて、こざっぱりしたベッドに横になる。どこか満足そうな椹木さんを、胡乱な気分で見上げた。――いつも、使用人に任せて放ったらかしだったくせに。
じっと見上げていれば、ベッドに腰かけた椹木さんが、手を伸ばしてくる。そっと頭を撫でられた。
「どうしたんですか?」
「……今日はいてくれるんだな、と思って」
つい皮肉を言うと、彼は表情を曇らせる。俺より年上のくせに、叱られた犬みたいにしゅんとしている。
――そういう顔すんの、ずるいだろ……
俺のなかの面倒見の虫が、うずうずしちまって。つい、慰めるように頭に手をやってしまい、ハッとする。
「あ、これは……」
「晶くん……」
手を引くより先に、すり、と頬を寄せられて、どきりとした。
――かわいい、かも……?
自分よりでかい、いい大人に変だよな。でも、許しを乞うように見つめられると、狼狽してしまう。――この人って、思ったよりも怖い男じゃないのかな、とか思ったりして。
そのまま、なんとなく膠着状態を起こしてたんだけど……椹木さんが均衡を破る。
「晶くん。私は、至らない男です。それでも……君の側にいても良いでしょうか」
「……!」
なんで、あんたが許しを請うんだよ、とか。
いまさら、って気持ちだって、ないわけじゃなかった。一人で置いて行かれた、辛さはずっと消えないと思うから。
――俺のからだは、汚れてしまった。それだって、元に戻らないんだ……!
それでも、即答は出来ない。是も――否も。
悔しいけれど、この男の言葉を、歓喜している自分がいる。
それが、蓑崎晶としての感情か、汚いオメガの本能かはわからないけれど。
黙っている俺に、椹木さんは微笑む。
「これからの私を見て、判断してもらえませんか。君が許してくれるかぎり、自分の誠を見せます」
手を取られる。力強い手だった。
父さんよりも熱くて、固い――男の手。俺をいい様にする、大嫌いなアルファ。
――それでも少しくらい……信じても、いいんだろうか。
撮られた指先に、ほんの少し力を込める。……いまは、たったそれだけの勇気だけで。
すると、体を引き寄せられた。温かい胸に頬がぶつかって、白檀の香りが鼻腔を突き抜ける。
汚いオメガを求める、憎いアルファの香に包まれ……俺はそっと微笑んだ。
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