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第七章~おごりの盾~
四百三十六話【SIDE:晶】
翌朝、俺は朝食の席で父さんと話をした。
泊って行った椹木さんも、共に。この二人の前で――俺の、今後の決意を伝えたかったんだ。
「……なに? 貴彦くんとの結婚を、すすめる?」
父さんは、カランとフォークを取り落とす。優雅な父には珍しい失敗に、俺は驚きつつ、頷いた。
「はい。そのつもりです」
「何故だ? 他にも良い男はいるぞ。なぜ、お前を傷つけた男を……」
父さんは青褪めた顔で、こめかみを揉んでいる。それから、椹木さんを睨んだ。
「君、まさか晶に無理強いしたんじゃないか? よくも、私の家でどうどうと息子を盗めたものだな!」
「は――申し訳ありません!」
「ちょっと、父さん。何言ってるんですか」
品のないことを言い出した父に、俺はぎょっとした。椹木さんは顔を赤らめつつも、粛々とした態度で頭を下げていた。
――しらばっくれてくれればいいのに……余計に恥ずかしいっつーの!
だいたい、椹木さんが悪いんだし。一度許したが最後、まさか朝まで離して貰えないなんて、誰が想像できるわけ?
『ああんっ、もう無理ですってば……』
『遠慮するな、と言ってくれましたよ?』
いままで聖人ぶってたくせに……と、色々思い出して赤面していると、父はなぜかショックを受けた様に固まった。
「くそ……私の息子が……こんな男に」
ぶつぶつと、「こんな男」と呟く姿に苦笑する。
「それを仰るなら、お父さん。あなたが選んだ人なんですけど……」
「グッ……」
チクリと刺してやると、父さんは押し黙った。
そうなんだよな。椹木さんを選んで、俺に引き合わせたのはこの人だ。
――『彼がお前の結婚相手だ。蓑崎とも縁の深い椹木家の後継者で、お前にとっても良い相手だろう』
有無を言わせず、決まった婚約だった。
俺の人生は、父の仕事の道具なのかって、恨んだこともあった。
けれど――俺はグラスを置き、背筋を伸ばす。
「父さん。俺は、椹木さんに疎まれても仕方ないと思ってました。当人同士の感情は関係ない結婚だと思っていましたし。その上、俺の身体の事情も、不安定ですから……今回のことで、もう決定打かなあって」
「晶。それは――」
血相を変え席を立った父に、笑みかける。
「わかってます。椹木さんは、俺のからだのことを解ってくれました。オメガの身体は悲しいものだって、知ってくれていた。そう言う人だから……父さんも、選んだんでしょう?」
「晶」
父さんが目を瞠る。
「晶くん……」
膝の上に重ねた手に、大きな手が重ねられた。
昨夜、椹木さんが話してくれたんだ。俺の結婚相手は、椹木よりもっと良い条件の家があったんだって。それでも……「息子の身体の為になるなら」と父が婚約を承諾してくれたのだと。
――あなたに捨てられて……俺を心から想ってくれる人なんて、居ないって思ってた。アルファの都合に振り回されるだけが、俺の人生なんだって……
それでも、この人なりに俺を想ってはくれていたのだと、今は思ってる。
そう、思えるようになった。手の上の温もりに、唇が緩む。
泊って行った椹木さんも、共に。この二人の前で――俺の、今後の決意を伝えたかったんだ。
「……なに? 貴彦くんとの結婚を、すすめる?」
父さんは、カランとフォークを取り落とす。優雅な父には珍しい失敗に、俺は驚きつつ、頷いた。
「はい。そのつもりです」
「何故だ? 他にも良い男はいるぞ。なぜ、お前を傷つけた男を……」
父さんは青褪めた顔で、こめかみを揉んでいる。それから、椹木さんを睨んだ。
「君、まさか晶に無理強いしたんじゃないか? よくも、私の家でどうどうと息子を盗めたものだな!」
「は――申し訳ありません!」
「ちょっと、父さん。何言ってるんですか」
品のないことを言い出した父に、俺はぎょっとした。椹木さんは顔を赤らめつつも、粛々とした態度で頭を下げていた。
――しらばっくれてくれればいいのに……余計に恥ずかしいっつーの!
だいたい、椹木さんが悪いんだし。一度許したが最後、まさか朝まで離して貰えないなんて、誰が想像できるわけ?
『ああんっ、もう無理ですってば……』
『遠慮するな、と言ってくれましたよ?』
いままで聖人ぶってたくせに……と、色々思い出して赤面していると、父はなぜかショックを受けた様に固まった。
「くそ……私の息子が……こんな男に」
ぶつぶつと、「こんな男」と呟く姿に苦笑する。
「それを仰るなら、お父さん。あなたが選んだ人なんですけど……」
「グッ……」
チクリと刺してやると、父さんは押し黙った。
そうなんだよな。椹木さんを選んで、俺に引き合わせたのはこの人だ。
――『彼がお前の結婚相手だ。蓑崎とも縁の深い椹木家の後継者で、お前にとっても良い相手だろう』
有無を言わせず、決まった婚約だった。
俺の人生は、父の仕事の道具なのかって、恨んだこともあった。
けれど――俺はグラスを置き、背筋を伸ばす。
「父さん。俺は、椹木さんに疎まれても仕方ないと思ってました。当人同士の感情は関係ない結婚だと思っていましたし。その上、俺の身体の事情も、不安定ですから……今回のことで、もう決定打かなあって」
「晶。それは――」
血相を変え席を立った父に、笑みかける。
「わかってます。椹木さんは、俺のからだのことを解ってくれました。オメガの身体は悲しいものだって、知ってくれていた。そう言う人だから……父さんも、選んだんでしょう?」
「晶」
父さんが目を瞠る。
「晶くん……」
膝の上に重ねた手に、大きな手が重ねられた。
昨夜、椹木さんが話してくれたんだ。俺の結婚相手は、椹木よりもっと良い条件の家があったんだって。それでも……「息子の身体の為になるなら」と父が婚約を承諾してくれたのだと。
――あなたに捨てられて……俺を心から想ってくれる人なんて、居ないって思ってた。アルファの都合に振り回されるだけが、俺の人生なんだって……
それでも、この人なりに俺を想ってはくれていたのだと、今は思ってる。
そう、思えるようになった。手の上の温もりに、唇が緩む。
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