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第七章~おごりの盾~
四百三十七話【SIDE:晶】
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「大丈夫です」
俺は胸の上に手をあてた……さんざん、ここを切り裂かれてきた人生だったなって思う。この傷も痛みも、一生消えることは無いだろうけど。
それでも、これ以上挫かれたくはない。
「俺は、出来損ないのオメガです。アルファの妹のために、後継を外されました。それでも……受け継いだ精神まで捨ててはいません。ですから、」
感情が高ぶって、言葉に詰まる。
「晶くん」
椹木さんの指に、力が込められる。
「晶」
厳粛で恐ろしい父の目が、じっと俺を見つめていた。
いつもなら、恐ろしくてたまらなかったその眼差しが、不思議と怖くない。――それが、手に感じる温もりのおかげだなんて、認めるのは癪だけど。
俺は、すうと息を吸い込んで、はっきりと言葉を継いだ。
「俺を、蓑崎家の者として。お父さんの子どもとして、送り出して貰えませんかっ……?」
目いっぱいの勇気で、最後の一言までを絞り出し――頭を下げる。
しんと、沈黙が落ちた。
――……はは。こんなこと言っちゃってさ。お前なんか、息子じゃないって言われたら……どうしよう……?
遠ざかっていった背を思いだせば、いまでも胸の底が怯えに振るわされる。
それでも、俺はこれからを生きていくために……手を繋いでいる。
時間にして、数瞬くらいだったのかもしれない。でも、とても長く感じた沈黙の後……父さんが言った。
「前にも言ったはずだよ。晶、私の愛する子どもは、お前だけだ」
「……!」
弾かれたように顔を上げた瞬間、がばりと抱きしめられた。
父の背広から、高貴な香水の匂いがする。ぎゅ、と背が軋むほどに、腕の力は強かった。俺のことを、「離したくない」と訴えるように。
「晶、愛しているよ」
「お父さんっ……!」
「たとえ嫁いでも、お前は私の子だと忘れてくれるな。ここは、ずっとずっとお前の家だからな……!」
父の声が熱く震えているのに気づき、俺も鼻の奥がツンと痛むのを感じた。それでも、父の背を抱き返していいのか……悩む俺の手を、あたたかな手が取った。
振り返れば、椹木さんが優しい目で見つめている。
「蓑崎を捨てることは無いんですよ。晶くんのことを育ててくれた、大切なご家族です。私も、夫として尽くしたいと思っていますから」
「椹木さん……!」
ぽろりと、眦から涙がこぼれた。
父に抱きしめられて……それでも迷子の俺の手を、椹木さんが握ってくれる。――深い恍惚に、頭がくらくらした。俺は、誰かひとりに身を預けてしまえる程、簡単に弱くも狡くもなれない。だけど、
――俺もやっぱり、オメガだ。汚いオメガみたいに……憎いアルファのことを、こんなに求めてる。
認めるのは、死ぬほど苦しい。それでも、誇りを持って生きたいと希う。
――『してもいない事で、申し訳なく思ったりできませんから』
ふてぶてしく言い放った、自らの汚さに気づかないオメガ。
ただ自分の幸福のために、他人を搾取するような――成己くんみたいに、醜いオメガにはなりたくはない。そうならないように、俺なら出来ると……誰かが信じてくれるなら。
「俺も、頑張ります……! もっと強くなる。もう、自分の家を放り出したりしない――蓑崎も、椹木も守って見せますから」
凛と顔を上げ、微笑んで見せる。つきものが落ちた様に、明るい気分だった。
「晶くん!」
「晶……!」
「うわあっ、何ですか?!」
二人に両側から抱きしめられ、もみくちゃにされてキレるのは、この一分後のはなし。
俺は胸の上に手をあてた……さんざん、ここを切り裂かれてきた人生だったなって思う。この傷も痛みも、一生消えることは無いだろうけど。
それでも、これ以上挫かれたくはない。
「俺は、出来損ないのオメガです。アルファの妹のために、後継を外されました。それでも……受け継いだ精神まで捨ててはいません。ですから、」
感情が高ぶって、言葉に詰まる。
「晶くん」
椹木さんの指に、力が込められる。
「晶」
厳粛で恐ろしい父の目が、じっと俺を見つめていた。
いつもなら、恐ろしくてたまらなかったその眼差しが、不思議と怖くない。――それが、手に感じる温もりのおかげだなんて、認めるのは癪だけど。
俺は、すうと息を吸い込んで、はっきりと言葉を継いだ。
「俺を、蓑崎家の者として。お父さんの子どもとして、送り出して貰えませんかっ……?」
目いっぱいの勇気で、最後の一言までを絞り出し――頭を下げる。
しんと、沈黙が落ちた。
――……はは。こんなこと言っちゃってさ。お前なんか、息子じゃないって言われたら……どうしよう……?
遠ざかっていった背を思いだせば、いまでも胸の底が怯えに振るわされる。
それでも、俺はこれからを生きていくために……手を繋いでいる。
時間にして、数瞬くらいだったのかもしれない。でも、とても長く感じた沈黙の後……父さんが言った。
「前にも言ったはずだよ。晶、私の愛する子どもは、お前だけだ」
「……!」
弾かれたように顔を上げた瞬間、がばりと抱きしめられた。
父の背広から、高貴な香水の匂いがする。ぎゅ、と背が軋むほどに、腕の力は強かった。俺のことを、「離したくない」と訴えるように。
「晶、愛しているよ」
「お父さんっ……!」
「たとえ嫁いでも、お前は私の子だと忘れてくれるな。ここは、ずっとずっとお前の家だからな……!」
父の声が熱く震えているのに気づき、俺も鼻の奥がツンと痛むのを感じた。それでも、父の背を抱き返していいのか……悩む俺の手を、あたたかな手が取った。
振り返れば、椹木さんが優しい目で見つめている。
「蓑崎を捨てることは無いんですよ。晶くんのことを育ててくれた、大切なご家族です。私も、夫として尽くしたいと思っていますから」
「椹木さん……!」
ぽろりと、眦から涙がこぼれた。
父に抱きしめられて……それでも迷子の俺の手を、椹木さんが握ってくれる。――深い恍惚に、頭がくらくらした。俺は、誰かひとりに身を預けてしまえる程、簡単に弱くも狡くもなれない。だけど、
――俺もやっぱり、オメガだ。汚いオメガみたいに……憎いアルファのことを、こんなに求めてる。
認めるのは、死ぬほど苦しい。それでも、誇りを持って生きたいと希う。
――『してもいない事で、申し訳なく思ったりできませんから』
ふてぶてしく言い放った、自らの汚さに気づかないオメガ。
ただ自分の幸福のために、他人を搾取するような――成己くんみたいに、醜いオメガにはなりたくはない。そうならないように、俺なら出来ると……誰かが信じてくれるなら。
「俺も、頑張ります……! もっと強くなる。もう、自分の家を放り出したりしない――蓑崎も、椹木も守って見せますから」
凛と顔を上げ、微笑んで見せる。つきものが落ちた様に、明るい気分だった。
「晶くん!」
「晶……!」
「うわあっ、何ですか?!」
二人に両側から抱きしめられ、もみくちゃにされてキレるのは、この一分後のはなし。
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