いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第七章~おごりの盾~

四百三十九話

 子供の頃に、憧れたものやからかな。
 宏ちゃんのいう通り、初めて食べるのになじみ深い気がする。大きな口で頬張ってくれている宏ちゃんを見ながら、ぼくはふふと笑った。
 あっという間に、お皿が空になる。ほのかに名残惜しい気もちで、お茶のおかわりを入れた。
 
「成、美味しかったよ」
「よかったぁ。みなさん、喜んでくれるかな?」
「ああ」

 ドキドキしながら聞くと、宏ちゃんは力強く頷いてくれた。ぼくは、ほっと胸をなでおろす。
 
「ありがとう! 宏ちゃんに言うてもらったら、安心やわ」
「いやいや、礼を言うのは俺だよ! ありがとうな、母さんの無理きいてくれて」
 
 すまなそうに眉を下げる宏ちゃんに、慌てて頭を振った。

「ううんっ。ぼくがしたくて、させて貰ってることやから……!」
「しかしなあ……」

 もの言いたげな夫に、苦笑する。
 心配性の宏ちゃんは、彼の家族との仲をいつも気にしてくれているん。実のところ、お義母さんは過分なほど良くしてくださっているから、全然平気なんやけどね。

「本当にだいじょうぶ。ぼく、お義母さんに頼ってもらえて嬉しいんよ」

 そう言って、胸を張る。


 
 ぼくね、お義母さんの主催するフラワーアレンジメントの教室の、予定表を作る係になったん。
 あのお教室って講義だけやなくて、オンライン会議とか、講義の後に摘まむお菓子の調達とか、予定が沢山あるみたいでね。今までは、お義母さんがメッセージアプリやSNSで告知してはったみたいなんやけど……

『前回はごめんよ~! 予定がしっちゃかめっちゃかで、みんなに連絡するの忘れちゃって……』

 先日のフラワーアレンジメントの教室が突如休講になったことを、お義母さんはしきりに気にしてはった。いつも明るいお義母さんが落ち込んでいるのが、心配で……思わず、「ぼくに何かさせて下さい」ってお願いしたんよ。

『いいの? じゃあ、予定表とか作って貰えたりする?』
『はいっ。ぼくで良ければ!』

 と、言うわけでね。
 頼って貰えたんが嬉しくって、予定表……「例のもの」を作っちゃった。プリント一枚やとぶっきらぼうやから、お菓子も一緒に渡すつもりなん。
 
「お義母さんにはお世話になってますし! それにね、楽しい会に誘って頂いてありがとうって伝えたかったから」

 お教室に通わせてもろたから、お友達が出来たんやもん。とくに静子さんと上林さんには、仲良くしてもらってて。小説のお話や、健康のお話とか教えてもろたりして……本当に嬉しいから。

「宏ちゃんと、お義母さんのおかげやもん」
「成……」

 ほほ笑み合っていると――和やかな空気を切り裂くよう、スマホが着信音を響かせた。
 
「!」
 
 びくり、と肩が跳ねる。宏ちゃんにも着信があったみたいで、気づかれへんかった。
 
「ああ、俺だ。ちょっとごめんな」
「はあい」
 
 慌ただしく部屋を出て行く夫を見送って、ぼくはそっと自分のスマホを確認した。
 メッセージが一件、届いている。差出人は綾人みたいやった。にぎやかな書き出しの文字が通知バナーから見えていて、ほっとする。
 
 ――よかった。城山さんからの連絡やない……
 
 実は……あれから、一度だけ電話がかかって来たん。「どうしてそっちから連絡しないのよ!」と耳をつんざく説教から始まったその電話の用件は、以前お話したときと変わらず――「陽平と会ってほしい」というもので。

『この前もお伝えしたとおり、ぼくはもう陽平さんとお会いするつもりはありません!』

 そうはっきり伝えると、「恩知らずの雌犬!」と怒鳴られて、通話は切れた。
 どういう捨て台詞!? キーンってする耳を押さえて、しばらく呆然としてしもた。すごい剣幕やったから、またかかってきたらどうしようって思ってたんやけど……
 
「気にしすぎやったかな……断ったら、すっごい怒ってはったもんな」
 
 城山さんとは、もともと仲は良いとは言えへんかった。もう、ぼくと連絡を取りたいなんて思わへんよね。
 そう思うと、自意識過剰な自分がちょっぴり恥ずかしくなる。
 
 ――陽平のことは、蓑崎さんと陽平の問題や。もう、婚約者でもないぼくには関係ないんやから。
 
 ぼくは納得し、綾人からのメッセージをタップした。
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