いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第七章~おごりの盾~

四百四十話

 翌日――予定通り、ぼくはフラワーアレンジの教室にやってきていました。
 
「成己さん、ここにもう少しお花を足した方が素敵ですよ」
「はいっ。ありがとうございます」
 
 講師の先生に教えてもらいながら、ダリアとバラの隙間にせっせと小さなお花を足していく。お花をいっぱいにするって、なかなか難しい。でも、華やかな作業で楽しいな。
 今日のテーマは、真っ赤なダリア。お花で季節を感じられるのって、雅でいいよね……!
 ぼくは、お花たっぷりの小さなバスケットをつくった。

 ――うさぎやの出窓に飾らせてもらったら、お客さんにも喜んでもらえるかなぁ。
 
 ご満悦でお花の写真を撮っていると、お隣の静子さんが「あら」と声を上げる。
 
「成己さん、いいじゃない。色も綺麗にまとまってるし、お花の扱いも丁寧で」
「嬉しいですっ。先生のご指導のおかげで……って、わあ! 静子さんの作品も、すごくかっこいいです!」
「ありがとう。全章の最新刊のイメージよ」
「ひゃー」
 
 素敵すぎる作品に、ぼくは小さく歓声を上げた。花器に鮮やかな手つきで活けられるお花は美しくて、うっとりと見惚れちゃう。
 すると、はす向かいから上林さんが手招きしている。
 
「成己くーん。悪いんだけど、そっちのお花持ってきてもらえるかな?」
「はいっ」
 
 ぼくはお花を大切に抱え、上林さんのお手伝いに向かった。

「成己さん、こっちも手伝ってくれない?」
「はーいっ」

 呼ばれるままに、お教室を東奔西走する。お花の香りの溢れる教室に、奥様達の笑い声がさざめいた。

 
 レッスンを終え、先生からの講評の時間が始まる。
 厳しい雰囲気ではなくて、美味しいお菓子を頂きながらお話する、楽しい時間なんよ。
 今日はね、お義母さんの用意してくださったケーキの横に、ぼくのクッキーがちょこんと乗っかってます。緊張でドキドキしちゃう。
 
「――そうだ。成己さん、かわいい予定表ありがとう」

 静子さんの言葉に、皆さんの視線が一気にぼくに集中した。

「お菓子もありがとう。美味しいね、懐かしい味で」
「わあ、嬉しいです……! お役にたててたら、良かったですっ」
 
 作ったものを褒めて頂くのって、嬉しいんやな。ますます熱々になる頬を、両手で覆う。
 
「ありがとうね。きっちり丁寧で、成くんのお花と一緒だね」

 お義母さんが、にこにこ笑顔で肩を抱いてくれた。

「お義母さん……」

 喜んでいただけたんだ、と胸の奥が安堵に温まる。
 
「正式に、この会の連絡係になってくれる?」
「はいっ。皆さんが良ければ、ぜひさせて下さい!」

 こくりと頷くと、皆さんも笑って拍手してくれたん。
 せっかく頂いた機会を、ちゃんと全うできたみたいで、ぼくは嬉しくなる。

 ――こうやって、少しずつ信頼を積み上げていけたらいいな。

 出来ることを、頑張っていこう。
 自分の居場所に、不安なんか感じなくていいくらいに。

 *

「――お疲れさまでしたっ」
「片付けありがとうね。また今度!」
 
 テーブルを拭く手をとめ、先に帰らはる人達に挨拶する。
 お義母さんと歴の長い会員さん達が先生の見送りに行かれて、残ったメンバーでお掃除をした。
 
 ――わあ……いつもながら、お話の激流です。

 ご夫人方の熱いトークは、本日も絶好調です。
 おうちの悩みとか、最近のニュースについてとか。今日の話題の中心は、やっぱり抑制剤の新薬についてやった。

「実際、驚きだよ。新薬について、椹木が頑張ってるのは知ってたけど、よく認可にまでこぎつけたよね。以前みたいに、上の事情で潰されるかと思った」
「わかる。まあ、財界のアルファたちを抱き込んだおかげでしょう。それに、今回は蓑崎もバックについてるし……」
「え?」

 知った名前に、つい反応してしまう。すると、誰かが慌てた様に「ところで!」と声を張り上げる。

「みんな、新薬どうする。使う?」
「うちは娘が試したいらしくて、何とか手に入れるつもり。成己さんは、どう?」
 
 話を振られ、ちょっとびっくりしつつ、答える。
 
「あ、ぼくはまだ決めてないんです。夫と相談中でして」
「そっかあ。若いし、子供のこととかも考えないとだしねえ」
「宏章くんとは、まだ番にはなってないんだっけ?」
「はい。えっと……」
「ちょっと、そんなこと突っ込んで聞いちゃだめでしょう」
 
 矢継ぎ早に訊ねられて戸惑っていたら、静子さんが助け船を出してくれはった。
 
「あっそうだね! ごめん、成己くん」
「いえいえ、大丈夫ですっ。ぼくも新しい薬、楽しみです」
 
 やさしい先輩たちに、ぼくはにっこりする。上林さんが、思い出したように言う。
 
「抑制剤と言えば、聞きました? 椹木が、新薬のお披露目パーティをするそうですよね」

 わっ、と歓声が上がった。賑やかな様子に、ぼくは目をぱちりと瞬く。

 ――パーティかあ……!
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