「俺は魔法使いの息子らしい。」シリーズ短編集

高穂もか

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ガッチャンの手紙(「俺は〜」一部完結後)

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「トキちゃん、それどうしたの?」
「おん?」

 イノリが、不思議そうな声を上げた。視線の先は、俺の手にある紙袋だ。
 スクールバスは、帰省する生徒達でごった返してた。列に並んで、隣合う席をゲット出来た俺達は、ようやく「どっこいせ」と腰を落ち着けたわけなんだが。

「ああ、これかあ! ガッチャンからの手紙だよ」
「安田くんからの?」

 イノリは、目をパチクリとさせた。
 たぶん、驚いてるんだろう。あの筆不精のガッチャンが、手紙を書いてくれるなんて! まあ、筆不精に関しては、俺も似たようなもんなんだけどな。

「決闘大会のあとさ、父さんが来てくれたろ? そんときに、渡してってくれたんだけど――」

 俺は、この手紙が手元にきたときを、回想した。




「じゃあ、時生。お大事にね」
「おう! 父さんも仕事頑張れよ!」

 父さんが、名残惜しげに席を立つ。俺は、布団に包まったままサムズアップした。

「本当はもっと付いてあげてたいけど……」
「なに言ってんだよ~。もういくつ寝たら、冬休みじゃん」

 へにゃりと眉を下げる父さんに、「なはは」と笑ってみせる。
 田野先生に聞いたけど、本当は仕事の予定がパンパンなんだって。無理言って付いてくれてたらしい。ちっと、照れくさいぜ。

「きちんと食べて、よく眠るんだよ」
「おう!」


「クリスマスには、仕事を落ち着けておくからね。気をつけて帰ってくるんだよ」
「おう!」

 三步歩むごとに、たっぷり別れを惜しみつつ。
 ようやく、ドアに手をかけた父さんだったが――「あっ」と声を上げて、ベッドまで戻ってきた。

「うおっ、なんだよ?!」
「忘れるところだった! はい、これ!」

 ぽむ、と布団の上に置かれたのは、紙袋。

「なにこれ?」
「手紙。安田くんからだよ」
「ガッチャン?!」

 俺は目をまん丸にする。
 ガッチャンが、俺に手紙ってか?!
 中を見れば、色とりどりの封筒がある。

「うおお、マジだ!」

 俺が手紙出したあと、ずっと音沙汰がなく。「まあ、便りがないのがいい知らせってことだな」と思ってたんだけど。
 びっくり仰天してれば、父さんが頬をかきかき言う。

「ごめんよ。俺も仕事で、家を開けてたからね。送り主不明で、戻ってきてたの気づかなかったんだ。心配してると思うから、返事を書いとくんだよ」
「マジでか、わかった!」

 俺は敬礼した。





「って、わけでさ。早速、読んで返事を書いたんだ」

 父さんによると、魔法学園はちょっと磁場が狂ってるから。特殊な切手を貼らねえと、届かねえようになってんだって。
 それ聞いてあちゃーって思ったよ。俺が知らなかったせいで、ガッチャンの手紙があちこちぐるぐる回ってたみたいだから。

『トキ、げんきしてっか? ちゃんとメシ食ってるか?』

 返事がねえから、かなり心配かけちまった。ごめんよガッチャン。
 読みながら、「返事できなくて申し訳ねえ……!」って、なんべんも頭を抱えたさ。
 けど、三通目だったかな。
 佐藤が「トキのことだから、便りがないのがいい知らせだよ」って、言ってくれたみてえなんだ。
 そっから、テストとか部活とか……のんびり日記みたいな内容に変わってて。
 そらもう、ホッとしたんだ。
 
「そうだったんだぁ。……良かったねぇ、トキちゃん」
「おう!」

 ニコニコするイノリに、俺も笑い返す。
 それから、紙袋からある手紙をとりだした。黄色の花柄に、サッカーボールのシールで封がされてんの。ガッチャン、封筒の趣味可愛くね?

「これ読もう。一番最近にきたやつなんだけど。俺とイノリに連名なんだ」
「わぁ、本当だ。トキちゃん、待っててくれてたの?」
「あたぼうよ。一緒に読みてえじゃん」
「トキちゃんっ!」

 薄茶の目がキラキラ輝く。
 肩にぐいーっと寄っかかられて、さらさらの髪が頬を擽った。くすぐってえ。
 笑いあいながら、俺は手紙の封を切った。

「えーと……何何?」

 封筒とおんなじで、かわいい便箋にはでけえ右肩上がりの文字が、踊っている。



『よう、トキと桜沢! げんきか?
 俺たちはげんきだぜ!
 期末もおわったから、コモンもヨイヨイで練習つめてきてんだ。クリスマスにもみっちり練習だよ! ひどくねえ?
 まあ、どうせ彼女もいねーし、楽しいからいーけどな。
 ところでお前ら、さすがに冬休みはかえってこれるだろ?

 あそぼうぜ!

 年明け、恒例のサッカー初ケリするからこいよ。
 トキには手紙で言ったけどさ、俺らクラブチームにたまに顔だしてるじゃん。そいつらもよんだから!
 まあ、やつら強えのなんの。たぶん勝負すっから、桜沢もまじってくれ!

 それと、カラオケも行くぞ。また顔みて、つもる話でもしようぜ。
 じゃあな!

 ガッチャンより。』 



 読み終わって、俺とイノリは顔を見合わせた。

「年始の予定、出来ちゃったねぇ」
「おう。楽しみだなあ」
「そうだね、トキちゃん」

――サンキュ、ガッチャン。

 転校しても、こうやって気にかけてくれるダチがいる。めっちゃ、ありがてえことだよな。
 俺達も、ガッチャンに話してえことも、聞きてえことも沢山あるぜ。
 つい、にまにましていたら――イノリがじっと見ているのに気づく。
 優しい眼差しに、どきっとした。

「どうした?」
「んー? トキちゃんが嬉しそうで、嬉しいだけ」
「なんだそりゃ」

 照れくさくなって小突くと、イノリは「いたーい」と笑い声を上げた。
 わいわいと騒ぐ俺達の声が、はしゃぐ生徒達に混ざる。
 冬休みは、始まったばかりだ。
 みんなの楽しい気分を乗せて、バスは山を下りていった。



(完)
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