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笑われたって、凛として
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(騎士団の方々だ……すごいオーラ……)
近くで見ると、ますます星のように眩いアルファ達だ。リュカは、緊張で強張りそうになる頬を必死に和らげる。
将来を嘱望される彼らは、シエルの友人であっても、リュカにとっては雲上人だった。学園でも、ルミエールといえども劣等生のリュカに、近づく機会などはない。せいぜい茶会などで挨拶をするくらいの間柄なのである。
「父上と母上に、挨拶は済ませてきたのか?」
シエルはリュカを抱いたまま、にこやかに彼らに話しかける。オリバーは嫣然と微笑み、長い指先でシエルの髪をひと房すくった。
「そりゃあ、もちろん。俺の未来の両親になるかもしれない方たち、だからね」
「あはは、なんだそりゃ。まだ見合いなのに、気の早い奴!」
側で聞いているリュカの方が照れてしまうような甘い声音を、シエルは軽く笑い飛ばす。ガックリと大げさに肩を落としたオリバーに、他の二人も少し憐みのこもった目を向けていた。
「さすが、シエル様……無自覚」
「ん? どういう意味だよ、アレク」
きょとんとしているシエルに、エティエンヌが高笑いする。
「お前は本当に可愛いらしい、という意味だ!」
「ばっ……俺は可愛くねえし! エティの審美眼、どーなってんの?」
リュカは、間近に見る貴公子たちと兄の親密なやり取りに、目を瞬いた。人気者の兄の人望は、留まるところを知らないらしい。
(先輩たちは、人を寄せ付けない方で有名だったのに)
周囲も、三人の美しいアルファに恍惚の眼差しを送っている。
「ああ……皆さま、何て素敵なの……」
「リュカ様が羨ましいわ。兄君の伝手で、こんなに良いご縁があるのだもの」
嫉妬と羨望の入り混じった囁きが耳に届き、ハッとする。本来、リュカなどには遠い立場の方たちとお会いしているというのに、まだ挨拶すらできていない。
(お兄様が、せっかく作ってくださった機会なんだもの。僕もきちんとしなくちゃ!)
そう気合を入れて、兄と和気あいあいと話している三人に「あの」と声をかける。
「今夜は、足をお運びくださり、ありがとうございます。僕は――」
「ああ、ソレいらなーい。俺達、君に会いに来たんじゃないからぁ」
美しく礼をし、名乗りをあげようとしたリュカを、オリバーはぞんざいな口調で遮った。え、と瞳を揺らすと、アレックスがシエルの腕にぴっとりとしがみつく。
「今夜は……シエル様に、悪い虫がくっつかないよう、見張りに来ただけ……」
じろ、と紫色の瞳が上目にリュカを睨んだ。エティエンヌも「うむ」と頷く。
「たしかに、無意味に期待を持たせるのもよくないか。――弟くん。我々はシエルの為にここに来た。君には一切の興味はないから、勘違いしてくれるな!」
居丈高に言い放ち、分厚い胸を反らす。朝堂で政務に携わるエティエンヌの声はよく通り、会場中に響いた。
「……!」
リュカの笑顔が、石のように固まる。
瞬く間に、美貌のアルファ三人に袖にされたパーティの主役に、好奇の目が突き刺さった。
「うわ……すごい言い草」
「でもまあ、シエル様と比べると、リュカ様はパッとしないものなぁ」
こそこそと憫笑がさざめく。
本来、妙齢のオメガに対し、オリバー達の態度は紳士として褒められたものではない。だが、彼らがあまりに華やかであるために、全てが帳消しになってしまっている。
むしろ、兄の縁故で憧れの存在に近づこうとする、ちっぽけなリュカへの嫉妬が勝るのだろう。表立って咎める者は見当たらなかった。
「……ぁ、」
リュカは、必死に笑顔を繕おうとして、失敗する。
(何か、言わなきゃ。この場をとりなして……僕が冗談にしなくちゃ……)
それがパーティ主催者のつとめだと、頭では解っているのに――。どうしても、言葉が出ない。燃えるように熱を持つ頬に、涙を伝わせずにいられることが、奇跡だった。
「こーらっ、お前達! そんな言い方ないだろ? リュカが可哀想じゃんか!」
すると、目の前を銀色の影が覆う。
(――お兄様!)
シエルだった。リュカを庇うように立ち、三人を睨み上げている。オリバーたちは、愛しのシエルの怒りにたじたじになり、後じさった。
「えーっ、でもさぁ。本当のことなんだぜ? 俺、この子には全く興味なんかないし……」
「うるさいっ! リュカの何が不満だ? こーんなに、可愛いだろうがっ」
シエルはリュカの肩を抱き寄せ、頬をふくらませる。幼子がお気に入りのぬいぐるみを抱くような愛らしさに、三人は頬を赤らめた。
「おお……シエル様は弟想いでいらっしゃるな」
周囲も、感嘆の息を漏らす。
シエルは、分不相応な弟のために、自分の友人にまで食って掛かったのだ。皆、シエルの寛大さに感激していた。
「お兄様……」
リュカは、兄に庇われて我に返った。
(お兄様に、気を遣わせてる……!)
そっと身を離すと、一歩前に進み出た。驚いたように目を丸くするシエルに、にっこりと笑って見せる。
「……リュカ?」
「お兄様、ありがとうございます。僕は大丈夫ですよ。そして、失礼いたしました――オリバー様、アレックス様、エティエンヌ様。兄の大切な友人である皆さまにお会いできて、あまりに光栄で……なかなか言葉が出ませんでした。どうぞ、パーティをお楽しみくださいね」
精一杯優雅に笑って、そう言うと、リュカは潔くその場を辞す。
「――」
アレックスはせいせいしたように息を吐き、エティエンヌは瞳の奥に敵愾心を滲ませ……オリバーは少しポカンとして、その華奢な背を見送った。
「もーっ! お前らのせいで、リュカがすねちゃったじゃん!」
しかし、シエルが怒鳴ったことで、すぐにそっちを振り返る。
「ごめんってー! 俺、嘘はつけないタイプだからぁ」
「……軽薄オリバーのくせに、どの口が言ってんだか……」
「はは、全くだ」
リュカは、楽し気なしゃべり声を背にしながら……泣かないように、足を踏み出していた。
(くじけちゃ、だめ……いつものことなんだからっ)
光のようなシエルの、そばに居る影。それがリュカで。それは、誰が悪いのでもない自然の摂理だ。
だから、自分で歩き続けて、光の当たる場所へ行かなくちゃ。
リュカは笑みを浮かべ、胸を張る。
パーティ会場を回り、お客をもてなしていると――またざわりと会場がどよめく。シエルが来たときより、大きなざわめき。期待に満ちた歓声が上がっている。
(新しいゲストかな? でも、もう招待したお客様は全員――)
リュカはそちらを振り返り……大きく目を見ひらいた。
近くで見ると、ますます星のように眩いアルファ達だ。リュカは、緊張で強張りそうになる頬を必死に和らげる。
将来を嘱望される彼らは、シエルの友人であっても、リュカにとっては雲上人だった。学園でも、ルミエールといえども劣等生のリュカに、近づく機会などはない。せいぜい茶会などで挨拶をするくらいの間柄なのである。
「父上と母上に、挨拶は済ませてきたのか?」
シエルはリュカを抱いたまま、にこやかに彼らに話しかける。オリバーは嫣然と微笑み、長い指先でシエルの髪をひと房すくった。
「そりゃあ、もちろん。俺の未来の両親になるかもしれない方たち、だからね」
「あはは、なんだそりゃ。まだ見合いなのに、気の早い奴!」
側で聞いているリュカの方が照れてしまうような甘い声音を、シエルは軽く笑い飛ばす。ガックリと大げさに肩を落としたオリバーに、他の二人も少し憐みのこもった目を向けていた。
「さすが、シエル様……無自覚」
「ん? どういう意味だよ、アレク」
きょとんとしているシエルに、エティエンヌが高笑いする。
「お前は本当に可愛いらしい、という意味だ!」
「ばっ……俺は可愛くねえし! エティの審美眼、どーなってんの?」
リュカは、間近に見る貴公子たちと兄の親密なやり取りに、目を瞬いた。人気者の兄の人望は、留まるところを知らないらしい。
(先輩たちは、人を寄せ付けない方で有名だったのに)
周囲も、三人の美しいアルファに恍惚の眼差しを送っている。
「ああ……皆さま、何て素敵なの……」
「リュカ様が羨ましいわ。兄君の伝手で、こんなに良いご縁があるのだもの」
嫉妬と羨望の入り混じった囁きが耳に届き、ハッとする。本来、リュカなどには遠い立場の方たちとお会いしているというのに、まだ挨拶すらできていない。
(お兄様が、せっかく作ってくださった機会なんだもの。僕もきちんとしなくちゃ!)
そう気合を入れて、兄と和気あいあいと話している三人に「あの」と声をかける。
「今夜は、足をお運びくださり、ありがとうございます。僕は――」
「ああ、ソレいらなーい。俺達、君に会いに来たんじゃないからぁ」
美しく礼をし、名乗りをあげようとしたリュカを、オリバーはぞんざいな口調で遮った。え、と瞳を揺らすと、アレックスがシエルの腕にぴっとりとしがみつく。
「今夜は……シエル様に、悪い虫がくっつかないよう、見張りに来ただけ……」
じろ、と紫色の瞳が上目にリュカを睨んだ。エティエンヌも「うむ」と頷く。
「たしかに、無意味に期待を持たせるのもよくないか。――弟くん。我々はシエルの為にここに来た。君には一切の興味はないから、勘違いしてくれるな!」
居丈高に言い放ち、分厚い胸を反らす。朝堂で政務に携わるエティエンヌの声はよく通り、会場中に響いた。
「……!」
リュカの笑顔が、石のように固まる。
瞬く間に、美貌のアルファ三人に袖にされたパーティの主役に、好奇の目が突き刺さった。
「うわ……すごい言い草」
「でもまあ、シエル様と比べると、リュカ様はパッとしないものなぁ」
こそこそと憫笑がさざめく。
本来、妙齢のオメガに対し、オリバー達の態度は紳士として褒められたものではない。だが、彼らがあまりに華やかであるために、全てが帳消しになってしまっている。
むしろ、兄の縁故で憧れの存在に近づこうとする、ちっぽけなリュカへの嫉妬が勝るのだろう。表立って咎める者は見当たらなかった。
「……ぁ、」
リュカは、必死に笑顔を繕おうとして、失敗する。
(何か、言わなきゃ。この場をとりなして……僕が冗談にしなくちゃ……)
それがパーティ主催者のつとめだと、頭では解っているのに――。どうしても、言葉が出ない。燃えるように熱を持つ頬に、涙を伝わせずにいられることが、奇跡だった。
「こーらっ、お前達! そんな言い方ないだろ? リュカが可哀想じゃんか!」
すると、目の前を銀色の影が覆う。
(――お兄様!)
シエルだった。リュカを庇うように立ち、三人を睨み上げている。オリバーたちは、愛しのシエルの怒りにたじたじになり、後じさった。
「えーっ、でもさぁ。本当のことなんだぜ? 俺、この子には全く興味なんかないし……」
「うるさいっ! リュカの何が不満だ? こーんなに、可愛いだろうがっ」
シエルはリュカの肩を抱き寄せ、頬をふくらませる。幼子がお気に入りのぬいぐるみを抱くような愛らしさに、三人は頬を赤らめた。
「おお……シエル様は弟想いでいらっしゃるな」
周囲も、感嘆の息を漏らす。
シエルは、分不相応な弟のために、自分の友人にまで食って掛かったのだ。皆、シエルの寛大さに感激していた。
「お兄様……」
リュカは、兄に庇われて我に返った。
(お兄様に、気を遣わせてる……!)
そっと身を離すと、一歩前に進み出た。驚いたように目を丸くするシエルに、にっこりと笑って見せる。
「……リュカ?」
「お兄様、ありがとうございます。僕は大丈夫ですよ。そして、失礼いたしました――オリバー様、アレックス様、エティエンヌ様。兄の大切な友人である皆さまにお会いできて、あまりに光栄で……なかなか言葉が出ませんでした。どうぞ、パーティをお楽しみくださいね」
精一杯優雅に笑って、そう言うと、リュカは潔くその場を辞す。
「――」
アレックスはせいせいしたように息を吐き、エティエンヌは瞳の奥に敵愾心を滲ませ……オリバーは少しポカンとして、その華奢な背を見送った。
「もーっ! お前らのせいで、リュカがすねちゃったじゃん!」
しかし、シエルが怒鳴ったことで、すぐにそっちを振り返る。
「ごめんってー! 俺、嘘はつけないタイプだからぁ」
「……軽薄オリバーのくせに、どの口が言ってんだか……」
「はは、全くだ」
リュカは、楽し気なしゃべり声を背にしながら……泣かないように、足を踏み出していた。
(くじけちゃ、だめ……いつものことなんだからっ)
光のようなシエルの、そばに居る影。それがリュカで。それは、誰が悪いのでもない自然の摂理だ。
だから、自分で歩き続けて、光の当たる場所へ行かなくちゃ。
リュカは笑みを浮かべ、胸を張る。
パーティ会場を回り、お客をもてなしていると――またざわりと会場がどよめく。シエルが来たときより、大きなざわめき。期待に満ちた歓声が上がっている。
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リュカはそちらを振り返り……大きく目を見ひらいた。
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