エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

五十九話

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 俺は、鉄砲玉みたいに走り出したシゲルを必死に追いかける。 
 
「シゲル!」 
 
 ――しもた、出遅れた……!
 
 己の間抜けさに歯噛みする。竹っちが標的になったかも知れへんと言っても、シゲルの危機が去った確証はない。
 絶対に、行かせるわけにはいかんのや!
 目立つあめ色の頭は、生徒でごった返す廊下でも目印になった。人ごみをかき分け接近して、なんとか腕を捕まえる。
 
「シゲル、待て!」
「放してや! 早よ行かな、竹っちが!」
 
 シゲルは一生懸命、腕を振って逃げようとする。――竹っちのことが心配で、居てもたってもおられへんのやろう。俺は心を鬼にして、一喝した。
 
「落ち着け、シゲル!」
 
 雷に撃たれたように、シゲルはビクリと身を震わせる。動きの止まった隙に、俺はその肩を強く掴んだ。
 
「お前も危ないんや! 理科棟にも榊原にも、絶対に近づいたらあかん!」
「……っ!」
 
 気迫を込めて言うと、シゲルの目に涙が盛り上がる。――くそ。こんな怒鳴り方、したなかった……! 
 罪悪感で胸がきりきりする。けど、これがシゲルの為なんや。
 必死に己に言い聞かして、説得を続ける。
 
「竹っちのことは、俺が必ず助ける。シゲルは戻って、俺が戻るまで皆と一緒におるんや。ええな?」
「で、でも……」
「頼む。心配なんや」
 
 迷うように瞳を揺らすシゲルに、俺は頼み込む。「頼む」と強く繰り返すと、シゲルはおずおずと頷いた。
 よし……!
 ふっ、と肩の荷が下りる。俺は、不安そうなシゲルを安心させるよう笑ってみせる。
 
「――すぐに、皆のとこへ戻るんやで!」
 
 そう叫び、俺は竹っちを救うべく駆け出した。
 今、俺の居る情報・芸術棟は理科棟からそう離れてへん。階段下りて、外にさえ出てしもたら、十分追いつける。
 待ってろ竹っち、今行くで。
 お前を助けて、榊原をお縄にして、シゲルと絶対にハッピーエンドを迎えたる!
 廊下のどん突きまで来ると、俺は勢いよく階段を駆け下りた。五階……四階……と調子良く下りていく。――しかし、二階まで来たとき、思わぬ渋滞にぶち当たった。

「なんや?!」

 下の階から、地鳴りのような足音が響いてくる。「え、何?」「地震?」と怪訝そうに生徒達がさざめく中、そいつらは姿を現した。

「あいすいません、どいてどいて!」
「ちゃんこ屋の出前だよ!」

 どすどすどす……!

 おかもちを掲げた力士達が、「どすこいどすこい!」と威勢よく叫びながら、駆け上がってきた。

「うわあ!」

 周りの生徒達は慌てて脇によける。力士の集団は、出汁の匂いを漂わせ、ぞろぞろと上がっていった。――やっと力士が行ったかと思うと、またすぐに地鳴りが。

「今度は何や?!」

 今度はラグビー部が、テイクアウトの焼きそばを抱えて駆け上がってくる。かなりの人数が列をなし、階下まで埋め尽くしとる。――まずい。このままじゃ下りれへんぞ。かと言って、押し退けて行くのは、危なすぎる……
 てか、学祭で出前て何やねん。これ絶対、ゲームからの妨害やろ!
 拳を握りしめる。

「学祭グルメは、あちこち回るのも味のうちやぞ!」

 しかし、どうする。
 角刈りの野郎が駆け上がってくのを見送りつつ、俺は考える。――このまま待ってても埒が明かん。もう、二階まで来てんのに、どういうこっちゃ。

「は……! そうや!」

 閃いた。
 俺はラグビー部の列に乗り、廊下に戻る。
 下りれへんなら、上からや。
 一番近い窓を全開にして、下を覗いた。――やっぱりあった。用具室の三角屋根が、校舎から五メートル程度離れたところに見える。

「――おりゃああ!」

 俺は、勢いを着けて窓から身を投げ出した。走り幅跳びの選手よろしく、手足で空中を掻く。

「うわ、バカ!」
「あぶねえ!」

 どよよ、とざわめきを背に、屋根に着地する。――膝を柔らかく使って衝撃を逃がせば、なんのこともない。そのまま屋根を伝い、地面に下りた。

「外や! 竹っちは……」

 理科棟の方面に視線を巡らす。
 すると――理科棟の玄関扉を開ける、見慣れた顔を見つけた。

「よっしゃあ! 待っとれ!」

 俺は、竹っちの背を追った。






□□




「はるみ……」

 ざわざわする廊下で、おれは立ち尽くしとった。
 行き過ぎる生徒たちにぶつかられて、我に返る。
 そうや……皆のところに行かなあかん。踵を返しかけて――足が止まる。
 
「……っ」
 
 掴まれて、ひりひりする肩を擦る。
 凄い力やった。晴海は力持ちやから……いっつも人にその力を見せんようにしてるん、知ってる。
 やから――よっぽど、心配してくれてるんやって、痛いほどわかる。

 でも――!

 唇を、強く噛み締めた。

「でも、おれかて……心配やもん!!」

 ごめん。やっぱり、おれも行く!
 おれは、理科棟に向けて駆け出した。
 
 
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