エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

六十二話

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 化学室を飛び出し、俺は走った。
 
「ちょっと前に、玄関でぶつかったんです。凄く急いで上がってったんですけど……」
 
 真柴からもたらされた情報が、俺の心臓を凍らせる。
 まずい。
 俺が三階の「第三化学室」に行けたのは、竹っちの背を追ってたからや。
 シゲルは違う。恐らく一階下の「第二化学室」へ行ったはずや。薬があったんは第二の準備室やし、シゲルはS・Yを榊原と思っとるんやから。
 俺かて、竹っちが見つからんかったらそうしてた。
 
 ――シゲル一人で、榊原の領域に……!
 
 頼む。どうか無事でおってくれ!
 階段を駆け下りながらスマホを取り出す。シゲルの番号を呼び出すと、すぐ近くで明るい着信音が響いた。
 
 タラランタララン……!
 
「!」
 
 音の鳴る方へ走れば、「第二化学室」から聞こえてくるようや。引き戸をはね開けると、真っ暗な教室で光が明滅する。
 
「シゲル! どこや!」
 
 電気をつける。
 一瞬にして明るくなった部屋は、無人やった。「タラランタララン」と鳴り続ける着信音に近づくと、床の上でスマホが震えとる。
 呼び出し画面には、「晴海」と文字が。
 
「シゲルのスマホ……やっぱり、ここにおったんや。……シゲル!」
 
 準備室に駆け込む。電気をつけて、部屋の奥や棚の影をくまなく探す。
 誰もおらん。
 人の気配もない。
 スマホで、上杉を呼びだす。1コール……2コール……「有村?」と不思議そうな声が答えた。
 
「上杉! シゲルはそっちにいるか?」
『へえっ? 今井? まだ戻ってねえけど』
「……!」
 
 目の前が暗くなる。
 
『どうしたのよ、急に走ってっちまって。お前が追っかけてったから、任せちまったけど……』
 
 上杉の声に心配の色が乗る。俺はハッとして尋ねた。
 
「いや……上杉、今も映画屋におるんか?」
『おう、いるぜ』
「じゃあ、映画終わるまでそこにおって欲しい。もしシゲルが戻ってきたら、俺に知らせてくれるか」
『……おっけ! なんか手が必要なら言えよな』
「ありがとう」
 
 通話を切り、頭を掻きむしる
 一縷の望みをかけて、上杉に頼んだものの……シゲルは榊原に捕まったに違いない。
 今日はゲームのエンディング。竹っちが無事なら、「シゲル」のことを放っておくはずがない……!
 
「くそっ!」
 
 ど阿呆! なんでシゲルを一人にしたんや。
 お人よしのあいつが、竹っちを放っとけへんことぐらい解るやないか……!
 己への怒りで熱くなる頭を、息を吐いて冷ます。
 
「……」
 
 落ち着け。後悔しても判断が濁るだけや。
 準備室におらんという事は、何処かに連れ去られたに違いない。そこを最終イベントまでに突き止め、シゲルを救出する。
 俺は手の震えを抑え、スマホでお姉さんの番号を呼び出した。
 
 
 
『嘘……! シゲルが捕まったの?!』
 
 電話口で、お姉さんが悲痛の声で叫ぶ。
 
「すみません、俺が目を離したせいです」
『どうして、シゲルが。竹っちくんが、標的になったんじゃなかったの?!』
「それが――」
 
 俺は、お姉さんに事情を話した。竹っちが呼び出されて追いかけたこと。竹っちの恋の相手は榊原じゃなかったこと。
 頷いて聞いていたお姉さんは、途中から黙りこむ。何かブツブツ呟いたかと思うと――弾かれたように叫んだ。

『そうか。――そういうことだったのね!』
「?!」

 お姉さんは、咳き込むように話し始めた。

『私、間違えてた。他の子に運命が移動するなんて、甘い考えだったのよ。――ゲームは、最初からシゲルを逃がすつもりはなかったのに!』
「!」
『強制力は、シゲルに働いてたんだわ。きっと私が指示して――シゲルと晴海くんが恋人のフリをした時から……!』
「な……!」
 
 息を飲む俺に、お姉さんは続ける。その声には確信の響きがあった

『竹っちくんがイベントに絡むのも、想い人の件も――今日、シゲルを榊原に接触させるための布石だったのよ。竹っちくんが、最初に変化したのは……会計と遭遇した後だったよね?』
「あ、まさか……!」

 俺は目を見開く。

『ええ。その遭遇イベントも、私が「恋人のふり」を頼んだから、竹っちくんが居合わせたでしょ……。物語の変化だって喜んでたけど――違ったのね。ゲームの方が上手だったのよ』

 受話器ごしに、お姉さんが苦しげな息を吐く。

『ゲームは……竹っちくんが標的であるように、見せかけてたんだわ。私達の行動で、物語が変わっていくフリをして。貴方達が、友達を助けようとすることを見越して……』
「……」
『私達は、物語を歪めてきたつもりだったけど――全部、予定調和だったのよ』

 恐ろしい予感に、シンと静まり返った。

『もうおしまい!』

 お姉さんが、乾いた笑い声を上げる。俺はかっとなった。

「何を言うんですか! 今からでも探して――」
『無理なの! シゲルと愛野くんは、地下室に拐われる。その入口がどこにあるかは、ゲームでは明かされてないんだもの……!』

 嗚咽混じりで告げられた事実に、瞠目する。
 そんな……。

『今からじゃ、見つけた頃にはシゲルはもう……っ。こんなのって無いわ! 結局、全部無駄だったなんて……!』

 お姉さんが悲痛に叫ぶ。
 俺は、拳を握りしめた。
 絶望的な状況や。今まで、お姉さんの情報を頼りにしてきたから――こっからはノープラン。
 それに――
 今までのことが、全てゲームの手のひらの上やったら……足掻いても無駄なんかもしれん。

 だから何や。

「それでも、俺はシゲルを助けたい」
『……!?」
「誰に仕組まれとるとか、そんなん関係ないんです。あいつが泣いてるんやったら、俺は何がなんでも駆けつける!」

 場所がわからんかったら、走り回って探す。鍵が無いんやったら、ぶち壊したらええ。
 俺は絶対、あいつを守る……!
 思いの丈をこめて叫ぶと、お姉さんが息を呑んだ。
 それから、涙を拭う気配。

『……そうね。私も、可愛い弟が壊れちゃうなんてごめんだもの』
「――はい!」

 気合の戻ったお姉さんの声に安堵し、息をついたとき。

「おーい、有村!」
「有村くん!」
「竹っち! 先輩!」

 竹っちと隊長さんが、駆け寄ってきた。二人共、気遣わしげに眉を顰めている。

「何かあったのか?」
「その……」

 ゲームのことを説明するわけに行かず、口ごもる。
 すると、意外なとこから、助け舟が渡された。

「有村くん。……もしかして、今井くんは榊原先生に狙われてるの?」
「えっ!?」

 ピンポイントの質問に、俺は驚愕する。

「何で……」
「やっぱり。この前、今井くん絡まれてたでしょう? 榊原はセクハラ野郎だから、気になってた」

 隊長さんは鋭く舌打ちする。――先輩は三年で、学園の事情には詳しい。
 迷っとる暇はなかった。俺はがばぁと頭を下げる。

「隊長さん、お願いがあるんです――」


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