仮面王子は笑わない - 私に下された命令、それは笑わなくなった王子様を笑顔にして欲しいという無茶苦茶な命令だった…

泥水すする

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第3章 とある冒険者は街へ繰り出す

第2話

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 想像以上であるーーそれはルイードの素直な感想だ。
 今現在、昼前、ルイードはルチェットとセントクルス王国の城下町へと繰り出しては人混みに紛れ込んでいた。

 行き交う人々に乱れた街並みもルイードにとっては新鮮さそのもので、人混みにウンザリとするルチェットとは対照的には幸せそうである。

 結果として、ルイードは今日限りの休暇を許された。こうして街に繰り出す事ができたのもそのおかげである。

 ただ、その休暇がすんなりとは受諾されたわけではない。その理由としては、かの王子の意向が原因していたのだった…


………
……






「駄目だ!」

 休暇の話を持ち出したルイードに対し、即答してそう答えた王子とは、断固としてルイードの休暇に対して拒否の意思を見せつけていた。

 腕組みして、窓から見える城下町を見ては怒っているーー仮面で素顔こそ見られないが、多分、口をへの字にしてはふて腐れた表情を浮かべているのだろうとはルイードは眉を顰める。

 ただここで引き下がるルイードではない。というなもだ、その時のルイードとはいつもとは少し違っていた。

 ルイードは城下町に行きたくて行きたくて堪らない様子で、

「何故ですか王子!?一日ぐらい良いではありませんか!?」

 と、声を張り上げては進言する。引き下がる様子はサラサラない。

 そんないつもと一風変わったルイードに意表を突かれたのか、王子の肩がピクリと跳ねた。

「お、お前!ルイード!この俺に歯向かうというのか!?」

 まさかルイードが自分に対して声を荒げるなんてーーすっかりルイードに懐ききっていた王子とは、ルイードの反応に驚き、戸惑っていた。口では幾らか強気だが、その心情は落ち着いていない。

「歯向かうとか、そういうことではないですけど…私、城下町に行ってみたいのです!」

「なっ!じ、城下町だと!?」

 王子は驚いたように叫んだ。そして、その直ぐ次の瞬間にも、

「では尚のこと容認できぬ!城下町だと?あそこは危ない事が一杯の危険な野蛮人供の巣窟だ!これはお前のために言っているのだと何故分からぬ!?」

「や、野蛮人なんて…王子!自身の国に住まう民に対してそのような発言を申されてはなりませんよ!?」

 ルイードは反論して、王子へと詰め寄った。そして窓の向こうの城下町を見ては、

「彼等は野蛮人などではありません!少なくとも私は、争いを知らない温厚な民であると、そう聞きました。誇り高きセントクルスの象徴であると」

 王子へ訴えるように言った、その時だった。




「誇り高きセントクルスの象徴だと?ふざけるな!何も知らないくせに…知った風な口を聞くな!」

 いきなりだった。王子の声が、未だかつてない怒りの波長を帯びてはルイードの耳へと突き刺さっていた。

 突然の事に唖然としては立ち竦むルイード。目の前にいる王子が、まるで別人みたいに感じていた。

「あ、その…すまない」

 ルイードの戸惑う姿を見て、王子は我に返ったようである。仮面へと手を当てては、

「……いきなり怒鳴ったりして、悪かったな」

 と、途端に塩らしく謝罪するのだった。

「い、いえ…私こそ、何も知らないくせに、その…余計な事を言ってしまったようで、申し訳ございませんでした」

 王子が怒った理由についてよくは分からないルイードではあったが、何やら深い事情があるのだろうことを自ずと悟っていた。それが分かるぐらいにはここ二週間で王子の事を理解して、王子の逆鱗に触れてしまったとは理解したルイード。

 数歩下がってはお辞儀して、

「わかりました王子。今回の休暇はやはりなかったことに…」

 と、要望を取り下げようとして、

「いや、行ってこい。うむ、俺も少々横暴が行き過ぎていたな…これも何かの良い機会だ、そうだな…うん」

 先程とは紅一点の反応を見せつけていたのだった…




「成る程な、そんな事があったのか…」

 ルイードの話を聞いて、ルチェットは訝しげな顔を作って腕組みをした。

 小さなアンティーク調の喫茶店に立ち寄っていた二人。芳ばしい湯気を立てるコーヒーをテーブルに、ルチェットはルイードと王子のやり取りを聞いている。

「…私、何か王子を怒らせてしまうような事を言ってしまったのでしょうか…」

 ルイードは尋ねて、肩をがっくしと落とした。そんなルイードを見て、ルチェットは「まぁまぁ」と肩を叩く。

「あいつも色々と思う事があるのだろう。といっても、ルイードは何も知らないわけだし、仕方がないだろうになぁ」

 ルチェットは何かを知っている風な口振りで言って、コーヒーを啜る。ルイードもルチェットに続いてコーヒーで唇を湿らすと、

「ルチェットさん…以前、王子には何があったのでしょうか。ルチェットさんは何か知っているんですよね?」

 と、恐る恐るといった様子では尋ね訊いていた。そんなルイードを流し見て、ルチェットは口を紡ぐと、小さく唸った。

「……言っていいのか、これは…」

 迷うルチェット。ただルイードの真っ直ぐとした瞳が、王子についてもっと知りたいと訴えかけているようで、

「はぁ、負けたよ」

 薄い笑みのまま言った。そしてルイードへ真っ直ぐ向き直ると、真剣な表情を作る。

「今から話す事は他言無用であるが…約束できるな?」

「はい!」

 ルイードははっきりと返事をして、ルチェットを真っ直ぐ見据える。

 そうして、ふぅ、とは一回、ルチェットの小さな溜息を皮切りに、語り始めるのだった…

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