言って、これはただの狩猟日記です。

泥水すする

文字の大きさ
23 / 36

22

しおりを挟む

 当たり前だと思っていた日常が緩やかに壊れてきました。
 今では帰る家もなければ、暖かい食卓を囲む事もままなりません。
 どうしてこうなった、とは最近よく考えるのです。
 またこのままじゃよくない、とは切に実感するのです。
 何はともあれ、夜は明けて明日はやってきます。
 私は早朝にも未だ煙臭い村を出でて、廃屋のベルウルフと落ち合うのです。
 そして、開口一番。
「平積みとなった問題を一つ一つ解決するには既に時遅し。故にベルウルフ、抜本的な打開策をここに提案します」
「ほうほう、今日は特にやる気なご様子で」
「当たり前じゃないですか。村を襲われたのですよ?それにいつまたモンスター達が襲撃してくるか知れたもんじゃありません」
 そうなんです。悠長な私は、既に死んだのです。
「ベルウルフ、今日の私をいつもの私とは思わないでくださいね?」
「了解した。では聞こうじゃないか、その抜本的な打開策とやらを」
 では述べましょう。
「なに、至ってシンプルな作戦です。モンスターの根城を片っ端から叩きます。ただのそれだけです」
「……はぁ、期待して損した」
 ベルウルフは両手をひらひら動かし、呆れ顔を浮かべました。
「やけに畏まるから何を言い出すかと思いきや……それならいつもと変わらないじゃないか?」
「何を言いますか。いつものような生易しい私ではないのてすよ?本気で潰していくのです」
 いいですか?
「そのヨルムンガンドがどんな存在であれ、モンスター達を意図して動かしているのは明白です。であれば、そのモンスターを根本から潰してしまえばいいだけの話。そうすればヨルムンガンドの尻尾も掴めるものと、私はそう結論付けました」
「そうは言うがな……では聞くが、そのモンスターの根城は幾つも点在しているのだろう?キリがない……そうは思わないのか?」
「ええ、命あるもの、無限ではありませんから」
 逃げ場など与えないと、そうも言っておきましょう。



 早速、行動を開始しました。
 本日はさらにさらに森の奥、最深部へと向けては歩み進みます。
 私の予測が正しければ、モンスターは西方の大陸から少しずつ流れています。であるならば、西方の大陸に近ければ近い程にモンスターの根城は数を増す筈なのです。
 そんな予測とは、見事にも的中致しました。
 物凄い数です。ひー、ふー、みー、よー……はてはて、途中から数えるのも馬鹿らしくなってきましたね。
 その中でも取り分け大きな根城ーー岩盤に掘られた空洞を発見、ゴブリン数匹が出入りしているのを確認しました。
 潰します。
「何もやっている?」
 潰し終わった時、ベルウルフが訝しげな瞳を向けて尋ねてきました。
「毒を撒いているのです」
 私はベルウルフを横目に、セッセッとその毒団子を撒いていきます。これはトリカブトという毒草と魚肉を練り混ぜた特性団子となっております。経口摂取後、数十秒で死亡する即効性があるものです。半数致死量は0、2~1グラムに対し、これら毒団子一つ一つには3グラム程練り混ぜでおります。幾ら毒に耐性のあるモンスターとて、一度口に含んでしまえば生存は難しいでしょう。
 トリカブトによる死因は心室細動ないし心停止、特異的療法も解毒剤もありません。イチコロですよ。
「何故毒を撒く必要が?」
「外に出ているゴブリンもまた駆逐するためです。戻ってくるかもしれませんから」
「仮に戻ってきたとして、その毒団子を食うという確証は?」
「関係ありません。可能性が少なからずあるのであれば、私はそれを実行します。先ほども言ったでしょう?本気で潰すと」
 出来ることは全てやる。躊躇いもなく、非道な行いも進んで行いましょう。
「殺らねば殺られる。狩猟とは本来、そう言ったものだった筈です」
 いつの頃か、狩猟とは人間による一方的な行為だと勘違いしていました。でも、そうではなかったのです。人間とて、時として狩られる立場にはあるのです。
「成る程な、確かに……いつもと覚悟の程が違うと見た」
 なら俺も覚悟を決めようかーー呟き言ったベルウルフの瞳に、本気の色が伺えました。
 


 後に於いても私は殲滅をやめません。
 一体どれ程のモンスターを駆逐すればいいものかーー限界は分かりません。次から次へと現れるモンスターを視認してはウンザリとしてしまうのは確かです。
「そもそも、モンスターはどのようにして生まれてくるのでしょうか?」
 新たに見つけたモンスターの根城の、そこに蔓延っていたモンスターの死骸を眺めては呟く私です。
「言ってモンスターには生殖器はありませんし、甚だ謎で仕方がありません。その辺、ベルウルフはどう思いますか?」
「さぁな」
 ベルウルフはどうでもいいと言った口振りで、ガチャガチャとアサルトライフルの銃弾を装填し直しています。
「そう言えば、奴も以前同じような事を言っていたな」
「奴、ですか?」
「ワンサイド」
「ああ、例の」
 確かベルウルフの同僚で、数百年も前にこの地へやってきたという方でしたね。
「ではそのワンサイドさんとは、モンスターについてどのような見解を?」
「旧人類の成れの果て……奴はモンスターはそのように分析していた」
 旧人類?はて、何のことでしょう?
「つまりさ、元は人間で、何らかの影響でモンスター化してしまったと、そんな感じには言っていた。またモンスターとヨルムンガンドは密接な関係にあるという自論を打ちたてていた」
「ちょっと待って下さい。モンスターが元は人間って、それはあまりにも無理があるお話だと思いますが?」
 だってですよ、人間とモンスターは姿形も異なれば習性さえもまるで違います。
「当然の反応だな。皆んなもそう言って、奴を批判していたよ。あり得ないと、ワンサイドを異常者扱いしていた。でもな、俺はどうしても奴がふざけた事を言っている風には思えなかった」
 ベルウルフは途端に暗い表情を作ります。
「口数の少なく冗談の一つも言えない、寡黙な男だった。ただ、信頼に足るだけの実績を残してきたのは事実だ。そんなワンサイドが王都を壊滅させたヨルムンガンドを単身追って行ったんだ。誰も引き受けたがらなかった任務を、奴は進んで引き受けて、そして……」
 帰っては来なかったと、そう言うことですか。
「だからさ、そんなワンサイドが何の成果も上げられず、こんな場所で野垂れ死んだとはどうしても思えなくてな。また奴の言っていた、モンスターとは旧人類の慣れ果てであるという意見も俺は疑ってはいない」
 半信半疑ではあるがな?
 そうも言ってベルウルフは笑いました。
 そんな時です。不意に、私は例の怪文章の内容を思い出しました。
『モンスターについて』
 そう題された、途切れ切れの文面をです。
 今にして思えば、これはそのワンサイドさんが書き遺したもののように思えます。
 いや間違いなくそうでありましょう。今聞いたベルウルフの話と照らし合わせてみて、確実にそうだったと言えます。
 モンスターとは一体?駆逐するべき有害生物?旧人類?
 あー駄目駄目、考え出したら謎はより一層に膨らむばかりです。
 私は考えるのをやめました。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...