なんでも屋の西京無敵さん〜なんでも承ります。殺人でも、構いませんよ〜

泥水すする

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第二章 ペットがいなくなった独身女性・佐藤久美

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 日本国が始まって初の緊急事態宣言が発令され、約六〇年振りに開催される予定だった『東京オリンピック』は中止。博多伝統の大イベント『博多祇園山笠』も見送りとなり、各花火大会も中止が発表された。それら夏の楽しみが失われた、8月の中旬のこと。

 32歳、佐藤久美はいなくなった愛犬プルを探していた。

 いなくなって、もう半月は過ぎるだろうか。コンビニに立ち寄った折、リードポールにプルを繋いだ。たったの数分、いや一分。ちょっと目を離した隙に、プルが姿を消した。逃げ出したわけではなく、生後五ヶ月の愛らしいプルの姿に心奪われた誰かが、そのまま連れて帰ってしまったに違いない。確証はないが、久美はそう思い込んでいた。

 時刻21:58──

 本日も、それらしき情報は一切ない。
 明日も、進展の兆しはあまりにも乏しい。

 できることならば、つい半月前の愚かな自分を説教してやりたい。だが、後悔先に立たず。愛犬プルは、未だ行方知れずのままだ。

 孤独感とやるせ無さに、苛まれる日々。

 久美は自室の隅にある空っぽとなったゲージの前に座り込み、途方に暮れる。そのまま目をつむり、プルの愛らしい鳴き声を思い出し、今夜もまた涙していた。

 そのときだった。

 スマホの着信が鳴った。ディスプレイを見てみると、知らない番号だ。もしかしてと、久美はその誰かに望みを託す。

『もしもし、夜分遅くに申し訳ありません。張り紙を見て、お電話させていただきました。今、お時間よろしいでしょうか?』

 ビンゴ。落ち込んでいた久美の表情に、パァと花が咲く。張り紙とは、街中の至るかしこに貼った迷子チラシのことを言っているのだろう。

「はい、平気です。それで、プルは……うちの子を、見つけてくれたんですか?」
『あーいえ、見つけたわけではありません』
「えっ……ああ、そうですか」

 久美の全身から力が抜け落ちる。期待していた分、ショックは大きい。

『期待させて、申し訳ありません』
「……いえ。それで、なにかご用ですか?」
『えーと、そうですね。なんと言ったらよろしいのやら……』

 曖昧な返事。若い男性の声だが、とにかく覇気がない。冷やかしなのかも知れない。

 いずれにせよ、プルに関係のないことなら話す気にもなれなかった。

 久美は電話口から耳を離し、親指を通話終了のアイコンへ重ねようとする──

『あなたの犬が、見つかるもしれません』

 久美の指が、止まった。

『あ、申し訳おくれました。私、なんでも屋の営業担当をしております、綾野透です』
「なんでも屋? なんですか、それ」
『店名のとおりです。どんな依頼も、受け付けております。家事代行、お悩み相談、特殊清掃、浮気調査、出会い協力、もちろん、ペットもお探しします」

 あまりにも胡散臭い、新手の詐欺グループだろうか?

「冷やかしなら、もう切りますけど」
『あっ、切らないで。本当なんです、信じてくださいっ。とりあえず、お話しだけでも。相談は、無料ですので』
「とか言って、別途料金がかかるんでしょう? 残念ですけど、わたしを騙そうとしても無駄です」
『騙すって、まさか、そんなことしませんよ。自分はただ、あなたの犬を見つける、そのお手伝いがしたかっただけですよ。もちろん、依頼となればお金はいただきますが』
「胡散臭いです」
『……ですよね、普通、そうなりますよね』

 自分で認めてしまうのか──久美は不覚にも、「ぷっ」と吹き出し笑っていた。沈んでいた気持ちが、少しだけ和らぐ。

 不思議な男だ。

「綾野さん、でしたっけ?」
『はい、そうです』
「では、もしもわたしがその、なんでも屋? に依頼した場合、どれくらいの確率で見つかるものなんですか?」

 無論、期待などしていない。依頼するつもりもない。ただの興味本位、戸惑うであろう綾野の反応を見たいだけだった。

 ただ、久美の予想はあっさりと裏切られてしまう。

『一〇〇%です』

 綾野は即答した。迷いのない、はきはきとした声。一瞬、別人かと勘違いしてしまう程である。

「……一〇〇%って、なにを根拠に」
『根拠はごさいませんが、ですがもしもご依頼されるとあれば、全力を尽くしますので。三日以内に必ず見つけ出すことを、お約束いたします』

 久美の心が、揺れ動く。
 綾野は、畳み掛けるように言った。

『もしも興味がありましたら、直接会ってお話だけでもどうですか? もちろん、お金はとりませんので』
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