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第1章 『俺この異世界ベルハイムで、第二の人生を送る!』-始まりの異世界とジョーカー
8話 青年との距離
しおりを挟む青年との距離は既に行動の実行範囲にまで埋まっていた。
青年のいるくぼ地のすぐ側にある木影に身を潜めては、俺はその時を待つ。
後は青年の見せる一瞬の隙をついて、それで終わり。
事は一瞬、青年の体のどこかに触れるだけ。後はスキルドレインを発動さえすればそれだけで終わる。
青年から何かしらの能力を奪えればそれだけでいい。
多くは望まねーからさ、ただちょっとだけ、ちょっとだけでいいから力を分けてくれさえすれば俺はそれだけで良いんだ。
だってそうだろ?全部奪うっていったらそれこそ俺は本当に屑野郎じゃねーか。
青年のこれまでの努力が今なのだとしたら、俺はそんな青年の重ねてきた努力を何のリスクもなしに奪い取るわけだからさ…うん、もしも俺が青年の立場だったら嫌だよそんなの。
最低だよ俺は。そんな事は重々承知だ。でも、それを認めた上で俺はここに来たんだ…今更引き下がるわけにもいかないんだよ。
『すまない、悪く思わないでくれよな…こっちだって生きる為に必死なんだ』
今か今かと機会伺う俺の足がピクピクと震え始めたーーーそんな刹那、唐突にその時はやってきた。
青年の剣がピタリと止まったのだ。
見開いた目をそのままに、青年の一挙手一投足に目線を集中させる。
動かない。青年は剣を握り締めたまま、まるで青年の時間だけが止まってしまったかのようには、ただただ無動にて立ち尽くす。
『一体全体どうしたってんだ!?』
意味が分からないーーーと、俺の思考が停止していたーーーでも、これはチャンスだーーーと、無意識には俺の体が反応してしまったーーーそんな時、
「誰かいるんだろ?分かってるよ」
それは初めて聞いた青年の声。
声代わりした男性特有の低いトーン、ただそれでいて未だ幼さの残るような、そんな声だった。
そうして青年は俺の隠れている木陰へと顔を向けた。
真っ直ぐとした青年の視線が、木陰に身を隠す俺に突き刺さる。
以上を踏まえて、どうやら俺のストーカー行為はバレてしまったみたいだ。
「誰かは知らないけど、昨日も見てたよね?」
青年は涼しい顔では続けてそう言った。
成る程ね、全てお見通しってわけ。
そうだよ、昨日も木影からこっそりと覗いてたのは俺だよ。相も変わらず今日もまたのこのこやってきたんだよ。
でもそうか、やっぱり分かるもんなんだな…
「どうしてバレた」、なんて野暮な事は言わない。何せ今にして思えば、先程、剣を振るう青年の動きが唐突に止まった辺りから既に何かがおかしかったのだから。
あの行為の真意とは、自身の行動を静止させることによって、その行為に対しておかしな反応を見せる何者かの気配を探っていたよう思える。そうさ、青年は鼻っから俺のストーカー行為に対して気づいていたに違いない。だからこそあの動き。
そして、その何者かとはまんまと青年の策に引っかかった。その何者かとはもちろんのこと俺。
俺が無意識の内には発してしまっていたのだろう不自然な気配を青年は見逃さなかった。だからこそ青年は木影に潜む俺の姿を暴き出したと言える。
『頭隠して尻隠さず』ということわざが言い得て的をつく。俺は動きに気を配るばかりで、気配は殺せてなかった、というわけだ。
ま、昨日は結構遠くの方から見てたわけだから、青年の勘が単に鋭いだけってわけでもないだろう。
それこそ何かしらのスキルを俺の知らぬ間に発動してたってことか?
確証はないけど、そういったことに特化した感知スキルのようなものがあったって不思議じゃない。
そう考えたら、俺が思っている以上にスキルというものは奥が深いかもしれない。
『やはり、早い段階でスキルを習得することはかなり重要というだろう。だからだよ、今回のことはこの異世界に於いてスキルというものがそもそもどういったものかを知るまたとない機会だ…』
バレてるのなら今更隠れ続けたところで仕方ないーーー俺は決意を新たに青年の前へと歩み出た。
青年は微動だにすることもなく、ジッと俺を見る。
青年は警戒している様子もなければ臆している様子もなく、むしろビビっているのは俺の方だった。
それはコミュ障であることもそうだが、何より青年の毅然とした態度に得体の知れない恐怖を感じていたからだ。
ヤバい、汗が止まらねぇ。手汗が半端なく出てきた。
何だよ俺、土壇場にきてビビってんじゃねーよ馬鹿…
そうして俺はゆっくりと口を開けた。
「今日は、いい天気だね」
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