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第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣
6話 生き抜く決意
しおりを挟む何とか此度の非常事態は乗りきった。
しかもだ、不安だったアルテマとしての記憶やら振る舞い方やらも何とか修得した。
これでひとまずの障害はクリアしたと見ていいだろう。
「何ニヤニヤしてるの…気持ち悪い」
「あ、いやいや…グインの美しさに酔いしれていただけさ。君も罪作りな女性だな、全く。少しはその美しさを控えめにしてくれるのと助かるのだが?」
「…?」
グインとのやり取りはこれで成立する。ただ普段のアルテマがこういったやり取りでグインと接していたわけじゃないようだった。
俺の記憶の中のアルテマ・スコットスミスとはえらく寡黙な人間であり、普段から無駄口とか冗談とかを口にしない超真面目君。
てか俺に負けず劣らずのコミュ障のようだった。
俺も生前ひどいコミュ障で悩まされてきたが、今は不思議とそんなに人が怖いとか喋れない、とかがない。
その理由としては多分、アルテマという皮を被った事による安堵感、というやつからだろう。結局コミュ障とは、他者と自身を比べた時に感じる劣等感からくるものだと俺は改めて気付かされた。
俺は生前、酷いイジメを受けてきたこともあり、自分は生きる価値のない人間だと勝手には思い込んでいた。普通、イジメを受けた場合に対して抱く感情とは怒りや悲しみや憎しみといったところだろうが、どうも俺は違った。
イジメに慣れすぎたせいかは分からないが、俺の場合は虚無に等しい感情で、イジメられる事に対しても「仕方がないこと」だと思い、イジメられる理由に対しても「何故か知らないが、俺は人をイラつかせる才能でもあるんだろうな」とか思っていたり、イジメに対してえらく達観していたようだった。
つまりだ、イジメを受けることに対して「悔しい」と思うことはなかったが、イジメられる俺って「マジ情けない」とは常には自身の存在を否定し続けてきたのだ。故に俺は他者と自分を見比べてかなりの劣等感を感じていて、そこからコミュ障にまで発展してしまった、というカラクリに繋がる。
ただでさえイジメを受けるような人間の俺がさらに「俺はイジメられるような情けない人間」だとか、「俺は人に不快感を与えるような人間」なんだと思ってしまえば、それこそ最強のコミュ障が完成する。
そうしてイジメは更に加速、泥沼のイジメライフに突っ込んで、そのまま引きこもりになって、人生終了。総じて俺の人生を一言で言うなら『 BAD END』と呼べる。
「はぁ~、思い返せど最悪の生き方だぜ、全く」
「…ど、どうしたいきなり?」
とグイン。
「いやいや、こっちの話。にしてもやっぱりお前は綺麗だよグイン、その美しさにはため息しかでない…だから、ため息吐いてもいいか?いいよな?」
「は、はい?……勝手にどうぞ?」
「じゃあお言葉に甘えて……」
はぁ~、俺は一体全体何であんな生前に納得してたんだか。今こうして美女を前にして、その美しさをデジタルな画像としてではなく間近で見ることが許されていて、これって超超超超スーパーハイパーギガンティック幸せなことじゃねーのかよ、おい、生前の俺。
なぁ、生前の俺よ、お前は暗い自室の部屋の中でパソコンに映し出されたエロ動画眺めながらシコッて寝て、起きたらまたシコッて寝て、そんな人生に対してどうも思わなかったわけ?
いやいや考えれば分かってだろ、てかただ気づかないフリしてたじゃねーか。それはな、絶対に不幸な生き方だ。間違いなく人が堕ちていい生活じゃねーよ。
だけどよ、今更どう言ったって仕方ねぇのも分かってるよ。何故なら俺はあの部屋で何故だか死んでしまって、幸福を掴むチャンスすら失われたわけだから。
それに関して言えば別に俺が悪いわけじゃない。
運が悪かっただけ、そうとしか言えねぇ。
だ、か、ら、今こうして異世界転生を果たして、見に余るほどのとてつもない力を手にした今、幸福を掴まない手はねぇだろ!?
しかもだ、今の俺はアルテマ・スコットスミスという超エリートな奴の力を奪う事に成功して、まぁ容姿は冴えない俺のままだけど剣技やらスキルやらたくさん修得したわけだ。
最早劣等感に怯える心配もねぇ、生まれ変わった俺が今更コミュ障に陥る理由もねぇ、もしもこの異世界に俺を馬鹿にしたり、イジメたりする奴がいるとするならば、そんな奴は消してしまえばいい。そんな奴には生きる価値なんてない。人を蔑むようなクズ野郎だ、だから同じくクズ野郎の俺に何されたって仕方ねぇよなぁ!?
築いてきた力の限りを奪って、その生きてきた証さえも破壊して、愛する家族や恋人がいようが知るかそんなもん。そんな幸せが有りながら、他者を陥れようとするのが悪い。
だから俺が粛清してやるんだ。クズ野郎はみんな粛清して、俺の糧として、強くなってやる。幸せを掴んでやるよ、この手で…
『デスゲームだって生き残ってやるからな…絶対』
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