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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙
14話 情け容赦なし
しおりを挟む俺の向けた剣先を前に、サルサはすんなりとは自身が内通者であることを白状した。それでいて、そのあまりに堂々としたサルサの姿がなんとも不気味であった。
「サルサ、お前が知っている事を全て吐け」
「…嫌だって、言ったら?」
サルサはそう言ってニヤリと笑った。それは挑発とも見てとれる不敵な笑みである。
刃を向けられた現状、優位な立場なのは俺の筈なのに、サルサには臆する様子を微塵も感じさせない。
まるで何を考えるか定かではなく、心の内が全く言って見えなかった。
それが尚の事恐ろしい。
殺人鬼であったアルバートの純粋なる敵意とはまた違う。今目の前にいるこのサルサ・ルーガスという人間とはそんな分かりやすいものではない。
敵意などないように見える。むしろ友好そうにも見える。
どっちだって見てとれる。
ただ、断定して言える事が1つ。
『こいつは、危ない』
俺はサルサの喉元に突き向けた剣を軽く前へと出した。
出して、サルサの首表面から一筋の血の雫がツーと流れ落ちていく。
「これは命令だ、サルサ。お前に拒否権はないんだよ…頭の良いお前なら分かるよな?」
そう、これは一方的な脅迫行為に過ぎない。
俺はサルサが逆らおうもんなら本気で即座に殺すつもりだった。
情報を吐かない場合であれば、有無も言わさずに殺す。
俺の命令に従うというのならば、理由価値のなくなったその刹那に殺す。
結局は殺すことに変わりはない。
「俺は情け容赦を掛けるほど甘くないぞ」
「…ふふふ、たけし君って、まさかそっちが本当の姿だったわけ?」
「…さぁな」
「何それ、はっきりしてくんない?そうじゃないと、対応が変わってしまうから」
「……はぁ?」
対応が変わる、だと?
「…それはどういう意味だ?」
「つまり、たけし君が私を楽しませてしまう存在なのか、または失望させてしまう存在なのか….それ次第によっては扱いが変わる、という意味よ」
こんな状況下でさえ、サルサは好奇心旺盛な目を輝かせていた。
自身の命が次の瞬間にも失われてしまうかもしれないという最悪の状況下に於いても、サルサ・ルーガスはどこまでもサルサ・ルーガスの在り方を貫く。
そんな変人、サルサの瞳が「私にとって命の喪失など大した問題ではない」と訴えかけてくるようで、ただ俺という存在がサルサにとっての『楽しませる存在』なのか、または『失望させる存在』なのか、サルサの興味一切はそこに集中しているみたいだった。
最早サルサに通常の交渉は成立はしない。
俺はそう感じて、剣をしっかりとは握り直した。
握り直して、殺意を固める。
「御託はたくさんだ。別に俺はお前にどう思われようが知ったことじゃねぇ。言っただろ、容赦はしないと」
「ふふふふ、出来るの?貴方に?」
「出来るさ」
俺は即答した。
何故ならそこに考える余地はなかったからだ。
確かにサルサは有力な情報を知る得る存在なのかもしれない。ただ逆を言ってしまえば、たったそれっぽっちの存在でしかない。
情報を吐かないというのであれば、サルサに生かしておく価値は全くと言って皆無。
むしろ敵である以上、いざという時に最悪の障害となる得る可能性だってあるだろう。
相手は非常な存在。だったら俺はもっと非常に撤するだけ。
「殺すなんて生温い。殺すよりも残酷な、この世に生きてきた証すら消してやるよ…」
そうさ、俺にはそれができる。
アルバート同様に[スキルブレイク]で存在そのもの破壊してしまえば、それで全てが片付く。
「…さぁ、お前の答えを聞かせろサルサ・ルーガス。俺に屈服して死ぬ道か、または逆らって死ぬ道か…お前に与えられた選択肢は、たったのそれだけだ」
時間にして数秒。
ただただ長く感じた数秒後である。
サルサの口がゆっくりと開かれるのを見た。
「…いいでしょう、たけし君。貴方の言う通りにしましょう…」
観念したかのような口振りで呟くサルサ。
呟いて、目線を喉元に突きつけられた剣へと流した。
「その前に、この物騒なものを退けてはくれないかな?」
「…断る。俺はまだお前を信用したわけじゃない」
そう、まだ剣を退けた瞬間にも襲いかかってくる可能性がないわけじゃない。
優位性を保つならこのままの状態がベストなはず。
「…いや別に私はどっちでもいいですけど、そんな状態だとたけし君が疲れるんじゃないのかなぁーと思ったんだけど」
「…まさか俺を油断させるつもりじゃないだろうな?」
そう聞いた俺に対し、サルサは「まさか、とんでもない!」とはオーバなリアクションを交えてそれを否定した。
続けて、
「これは単なる私の優しさってやつですよ。だって、私こんなのじゃ死にませんから」
と、指先で剣を指しては断言する。
「こんなものだと?」
「ええ、こんなものです。傷つくとしてもそれは肉体に限っての話ですから」
何言ってんだか、肉体が傷つけば普通に死に繋がるに決まってんだろ。
でも何だ、冗談を言ってる風にも全然見えない。
むしろ余裕そうな態度、「試してみろ」とは言いたげで…
「ハッタリなら今のうちにやめておけ。別に俺は試してみてもいいんだぞ?」
「ええ、どうぞ。因みにたけし君がさっき言った、『生きた証すら消す』ってやつでも構いませんけど?」
サルサはそう述べた言葉の最後にも、「私はアルバート・ジックレイのようにはいきませんが」と付け加えて言うのだった。
その言葉を耳にしたその時その瞬間、全身を物凄い衝撃が走り巡った。
またジンワリと冷や汗が毛穴という毛穴から噴き出して、何とも表現し難い感情が胸をきつく締めつける。動悸を異常な程に加速しているのが分かった。
まさかアルバートという名を他人から聞くとは思ってもいなかった。
耳にしてはならない筈の名をサルサが口するなんて信じられなかった。
「…ふふ、酷く動揺してるみたいですね?アルバートの存在を知られていることはそんなに良くないことなんですか?」
「…当然だ」
「何故?」
「……だって、アルバート・ジックレイなんて人間はそもそもこの世に存在しないことになってる…いや、俺がそうしたんだから…知ってるはずなんだ、誰も」
「でも現にいるじゃないですか、ここに」
確信めいた口調でサルサは答えた。
最早疑う余地もない。
『サルサは俺がこの世から消した筈のアルバートを覚えている』
「…何もんだ、お前」
「サルサ・ルーガス。ラクスマリア王国の出入りを許されたしがない歴史学者、の筈ですが?」
筈?
「…おいおい、本当は違うとでも言いたけだな」
「…まぁ、そういうことになりますかね」
「成り済まし…ってことか?」
「成り済まし…ですか。ふふ、そうかもしれません。でもそれってのはお互い様でしょ?」
そう言って、サルサがくつくつと卑屈そうに笑ったーーーその時だった。
サルサの体が唐突にはドサリと地面へと崩れ落ちた。
崩れ落ちて、うんともすんとも言わない状態では倒れたままであった。
理解不能、あまり突然の事態に理解が追いつかない。
「…こっちですよ、たけし君」
それは背後から聞こえた声。
俺は瞬時に振り返ると、直ぐ様剣を構え直した。
構えた先、剣の切っ先が届きそうな範囲に、そいつは佇んでいた。
「これが…私の本当の正体です」
ニッコリと笑っては肩を竦めるそいつ、見た目は小さな少女のよう。歳にしたら6歳ぐらいだろうか、真っ白なワンピースに日焼けしたようには黒い褐色の肌、背中下まで伸び切った長く透き通った白髪に朱色の瞳、薄いピンクの唇から八重歯を覗かせて、悪戯っぽくは頬を緩ませる。
総合して、幼く可憐な少女の姿形をしていた。
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