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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙
15話 真相
しおりを挟む誰だお前は、という台詞が喉まで出かけて、俺はそれをゴックンと呑み込んだ。
言うまでねぇ、そもそも目の前の少女は自分の口でハッキリと言っていたではないか…『これが…私の本当の正体です』、そんなことを。
「お前は…サルサ、なのか?」
「うん…あ、いや違うか。サルサだった者って表現が正しいかな?」
幼女は言う。
自身はサルサだった者であると。
意味が分からない。
分からないが、理解できる範囲に適当な手探りの言葉を少女に投げかけた。
「つまり、そもそもお前はサルサという歴史学者を演じていた何者か…ということなのか?」
「だからさっきからそう言ってるでしょ?馬鹿なの」
「なっ」
ば、馬鹿だと?この野郎…言わせておけば…
苛立つ感情を必死に抑えて、俺は改めてその幼女を観察した。
見た感じは普通の小さな女の子、特に何ら変わったところなどない。ただ人間離れしているようには作り込まれた少女の姿形は、まさに美少女という表現が正しく映る。
「ジロジロみないでよ…まさか発情してるわけ?」
「は、はぁ?んなわけねーし!」
「嘘。だってたけし君、動揺してるじゃない?」
図星であった。もちろん発情はしてないが。
ただ俺は目の前の少女に動揺し、驚愕を隠せないでいたのは事実だった。
そもそもだ、この少女は一体何者なんだ?
一体全体今まで何処にいた?
そんな俺を見て、少女は徐に腕真っ直ぐと俺へと向けた。
向けて、スッとは人差し指を伸ばして俺の方へと指差した。
『何かするつもりか!?』
俺は瞬時に剣を構え直し身構えた。
そうした俺に向かって、少女は「違う違う、後ろのそれ」と、呆れたような声を出して言った。
俺は振り返る。振り返って、少女の言ったそれーー倒れ伏したサルサ・ルーガスの肉体を見た。
「サルサ・ルーガスはね、私の作り出したオモチャに過ぎないの。歴史学者という肩書きの変人さん。どう、中々よく出来てたでしょ?」
少女は涼しそうな顔で、柔らかい笑顔を作りながらにはそう口にする。
俺は少女の口から発せられたオモチャという単語に脳みそが引っ張られてテンヤワンヤな状態である。
サルサ・ルーガスの肉体がオモチャで、んでもって目の前の少女がサルサ・ルーガスを演じていたとして、えっと、じゃあつまりーーー
「お前は…人間じゃない、のか?」
「その反応おっそい!」
続けて少女は「全く鈍感なんだから」と弱冠の怒りを露わにして、頬をプクッと膨らませては言った。
その様はやはりと言って人間のようである。ただ少女の言っている事から察するにーーー少女は人間じゃない何か。
そんな俺を横目に、少女は「はぁ」と気だるそうなため息を溢した。
溢して、
「使い魔って、知ってる?」
ビシッと、今度こそはしっかり俺へと向けられた人差し指。
「つ、使い魔?」
何だそれ?
もしやゲームに登場するようなアレか?
「使役される悪魔的な奴…でいいのか?」
「まぁ、悪魔…とはまた違うけど、大体は正解。人に仕えるって意味ではだけどね」
少女がそう言った次の瞬間にも、少女の足が地面離れ、浮いて、宙へ。
少女はそのままフワリと空中へ浮かび上がると、ゆったりとしたスピードのままには俺の頭上をグルグルとは旋回初めた。
「どう?すごいでしょ?」
悪戯っぽく言って、その様子は宛ら無邪気には遊ぶ少女のようである。
もしもこれが空中を飛び回るのではなくて地面をバタバタと走り回る程度のものだったら微笑ましいのになぁ…
俺はそんな事を思いつつも、少女に尋ねた。
「…つまり、アルバートの存在を覚えているのはお前が使い魔だからで、使い魔であるお前を俺は殺せない…ということなのか?」
「そゆこと。そもそもが使い魔である私は人間の理から外れた超越者の存在。だから人間による人間の干渉は受けない、というわけ」
「何だよそれ、反則だろ」
「反則?それは私よりもたけし君にこそ言えることじゃなくて?アルテマ・スコットスミスという人間に乗り替わって、平然とその地位に就いている貴方には言われたくないものだけど?」
「……」
成る程な…
やはり、その事も知ってるってわけね?
いや薄々は感じていたことだし別に今更驚いたりはしないがな、何か嫌な気分だよ、全く。
でもこれである程度謎が解けてきた。
つまりらアルバートの存在が消えたことにやはりと言って間違いはない。
ないが、人間でない使い魔であるこの少女には鼻っから人間のルールを無視した存在であるからに、人間の齎した変化になどには何ら影響を受けない。
それは[スキルブレイク]による改変を受けないという事実。また[スキルブレイク]でそうなのだとしたら、もちろん[スキルドレイン]も然り…こいつは、初めっから俺の正体に気づいていた。気づいていて、知らないフリをしていた。
そうしてサルサ・ルーガスという歴史学者をいつからか演じていて、それがいつからは知らないが、少なくともこのラクスマリア王国にやってきた数年前ぐらいには既にそんなようであった、ということか。
「使い魔ってことは、やっぱり誰かに仕えてるってことだよな?」
「普通ならね。でも、私は違う。私はただ、面白そうだったからってだけで誰とも契約は結んでいるわけではない。そうじゃなかったらノブナガなんて堅物になんか従うわけないじゃん。だってあいつ、弄り甲斐ないんだもん」
「ノブナガ…」
今回に於ける一連の騒動を巻き起こした謎の人物、ノブナガ。
俺はノブナガについてをまだ何一つさえ知らない。
知らないが、『ノブナガ』という妙に聞き馴染みのある名前に弱冠違和感を抱きつつあった。
それは生前の知識で、学校の授業ではよく習うとある戦国武将と同じ名前であったからだ。
その戦国武将は動乱に満ちた世の中を一つに纏め上げたという、いわゆる天下統一というやつである。
そんな生前の戦国武将の名をまさか異世界
で聞くとは思いもしなかった。
この異世界に来てまだそんなに経っているとは言えないが、俺を除いて他に和製的なネームなど聞いたことはない。
ないから、変な胸騒ぎがしてならなかったのだ。
もしかして、そいつはーー。
「…なぁ、そのノブナガについて、知ってることがあったらーー」
と、俺が言いかけたその時だった。
まさに一瞬では宙から降りて来た少女、少女は俺と鼻のつきそうなギリギリの位置を保ちながら浮遊する。
浮遊して、悪そうな顔を作っては笑みを浮かべた。
「あら、さっきまでの威勢はどこにいったのかな?ん?」
「……っく」
糞、何を言い返せねぇ…
啖呵を切った手前、俺には少女に物を尋ねる資格なんてありゃしない。また無理矢理聞き出すにも少女に俺の[スキル]が通用しないんじゃ勝負にもならない。
ちくしょう、こうなってしまえば…
気持ちを固めて、俺はゆっくりと膝を曲げた。
曲げて、両手に地面へと着く。
そのまま頭を下げ、額を地面へともっていった。
その動作は生前、恥も外聞も捨てた最上位にして最低の、頼み事をする時に用いられたものである。
「…何ですかそれ?」
「土下座だ」
「どげざ?」
少女は首を傾げ疑問そうには呟いた。
呟いた直後、俺は頭にズッシリとした圧力を感じた。
「こうやって足をのっければいいわけ?」
何やってんだこいつ。
「んなわけねーだろ馬鹿」
「あら…今、私のこと馬鹿って言いました?」
あ、やべ。
「……い、いえ」
「はぁあ!?なんて!?声が小さ過ぎて全然聞こえないですけどぉおおおお?」
「スミマセン、馬鹿なんて言ってませんゴメンナサイはい…」
「……ふふ、よろしい」
少女のそんな声を聞いた、次の瞬間。
グイッと、勢いよく髪を引っ張らて、それは少女が俺の髪を掴んでは顔を引っ張り上げた行為に他ならず、俺は冷ややかな少女の瞳と得体の知れない笑みをマジマジと見ていた。
そんな少女の口が、ゆっくりとは開かれて、少女は言った。
「私は吸血鬼のバホメット。何だかたけし君面白そうだから、協力してあげてもいいよ?」
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