え、わたしが魔王ですか?〜無能だからと追放された創造魔法士だけど、魔族のみんなと楽しく国を創っていたら最強の魔王に覚醒していた!

泥水すする

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楽園増強編

邪竜ゼペス・ハーゼット

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 俺の名前はゼペス・ハーゼット。
 魔族の中でも稀少の竜種の一種──邪竜として生を受けた。

 父と母、それに兄弟たちの顔は覚えていない。俺が成竜になる頃には、皆、戦果の中で命を落としていた。

 竜種とは、とにかく狙われやすい。竜種の討伐は、冒険者や勇者にとって名誉として扱われる。

 中でも俺たち邪竜は、初代魔王テスラ・ラフレシアが使役し、その背中に乗せた唯一の竜種とされている、言わば魔族を象徴する竜だった。

 そんな邪竜の首を持ち帰ったとすれば、名もなき剣士すらたちまち英雄として持て囃れる。

 気付いたら、俺は邪竜最後の生き残りとなっていた。

 冒険者たちが、俺の命をつけ狙う。

 勇者たちが、俺の首を刈り落とさんとする。

 俺は、必死で戦った。

 結果、俺は孤高の邪竜──【國落とし】として、広く恐れられるようになった。

 あの方と出会ったのは、そんな頃だった。

 第6代目魔王、アスラ・ソウ・リリス──

 リリス様は俺に、『俺の元へ来ないか?』と持ちかけてきた。だがその頃の俺とは、目に映る者全てが敵と思え、それは魔王であれ例外ではなかった。怒り、悲しみ、孤独に溺れ自我を失いつつあった俺に、彼の言葉はなにも届いてはいなかった。

 だが彼は、怒り暴走する俺を決して傷つけようとはしなかった。俺の怒りが鎮まるまでの間、彼はずっと耐え続けていた。そんな者と出会ったのは、生まれて初めてのこと。そのうち、怒りすらも失っていた。

 その後は成り行きのまま、俺は魔王軍に加わることとなった。

 リリス様の元には、ほかに数多くの魔物たちが集まっていた。彼らもまた、俺のように殺戮しか知らないような名もなき魔族たちばかり。従順に従うような者たちでないことは、一目瞭然。そんなにも血の気の多い俺たちであったのだが、次第にリリス様の人徳に触れ、いつしか彼を敬愛するようになっていた。

 ただ魔王軍の中には、魔族最強の力を持っておきながら争いを好まぬ魔王リリスを、『ひよりみ魔王』と揶揄する者も少なくなかった。そのうち、魔王軍の中にもいくつもの派閥があることを知った。

 無論、俺はリリス様を支持。彼に諭され魔王軍に加わった者たちも皆、リリス様を支持した。そうしてまた一人、一人と、仲間たちは増えていった。

 そんな、ある日のことだった。
 
 俺たちを集めたリリス様は、内に秘めていたという真の野望を、ついに俺たちへ語り明かしてくれた──それこそが争いのない平和な楽園づくり、『ディスガイア創造化計画』の始まりだった。

 リリス様は、その計画を魔王である自身の命よりも重たいと語った。はじめは理解に苦しむ俺たちであったが、リリス様の本気度に、俺たちは圧倒された。苦言を呈す者は、誰一人としていなかった。

『我の抱いた思いは、いつかきっと理解できるだろう。お前たちなら、きっとな』


 そう言って優しく笑っていたリリス様の心中は、理解できない。理解できぬが、俺たちは信じて突き進むことにした。

 そして、俺たちはビルマ様と出会う。

 リリス様が、『ディスガイア創造化計画』の総責任者として選び抜いた存在。きっと、リリス様のように人徳の溢れた、聡明なお方なのだろう。

 しかも、彼女はかの魔装神器ゴッズすらも容易く創造クリエイトしてみせた。きっと、とてつもない力を秘めた偉大なる人物に違いない。

 島へやって来た頃は、そんなことを思っていたのだが──

「うわぁぁあああ! ゼペス、蜂がっ! 蜂がこっちに来てるぅう!」

 彼女は、騒々しく、

「なにやってるのゼペス? ねぇねぇねぇ」

 彼女は、鬱陶しく、

「のぉぉぉぉ! どうして失敗しちゃうのよぉおお!」

 彼女は、涙もろく、

「ねぇ、ゼペスー! あなたもこっちに来なよー!」

 彼女は、本当にお節介だった。

 ビルマ・マルクレイド。
 彼女は実に、不思議な人間だ。
 感情のおもむくままに、喜び、怒り、泣き、そして楽しそうに笑う。

 訂正しよう。

 彼女は、聡明な方ではなかった。

 彼女は、力のある偉大な統率者ではなかった。

 彼女は、創造魔法クリエイトマジックなる摩訶不思議な力に恵まれただけの、平凡な人間の少女に過ぎなかった。

 だけど──何故か、無性に彼女のことを考えてしまう。



 島の整地がようやく完了した、ある日のことだった。

『ねぇゼペス、あなたは本当に竜なの?』

 と、ビルマ様が突然そんなことを尋ねてきた。また、「わたし、竜の背中に乗ってみたい!」とも。

 正直、かなり迷った。

 俺の真の姿竜形態を見た人間は、必ず怯え震えてしまう。

 普段の俺を知っているビルマ様でさえも、きっと例外ではないだろう。

 正直、怖かった。

 もしも、ビルマ様を怯えさせてしまった場合、俺はこれからどんな顔をして彼女と接していけばいいのだろうか……。

 人間にとって、俺は【國落とし】として恐れられる悪魔のような存在。

 たくさんの国を滅ぼし、数え切れない程の人間を殺してきた。

 そんな俺の過去など、冒険者だったビルマ様はよく知っているはず。

「ゼペス、どうかしたの?」
「え? ……いや、なんでもございません、ビルマ様」

 ──結局、俺はビルマ様を背に乗せることを許していた。

「ビルマ様は、俺のこの姿を見て、恐れを抱いたりしないのですか?」
「え? もちろん。むしろ、わたしずっと竜に憧れていたのよ。それこそ昔ね、死んだお婆ちゃんがよく竜の出てくる御伽話を読んでくれてたからさ」

 その瞬間、心臓がちくりと痛んだ。
 俺の命を狙いにくる冒険者たちと戦いに明け暮れていた当時の嫌な記憶が、走馬灯のように蘇る。

 俺の吐き出した炎をあびて死んだ、冒険者たちの焦げる肉の臭い。

 俺の牙に貫かれ血を撒き散らしながら死んだ、勇者たちの断末魔。

 中には、ビルマ様のような若い女冒険者もいた。無論、殺してやった。

 そんな彼らは皆、きっと御伽話に出てくる英雄に憧れて、俺を倒しにきたのだろう。

 夢や希望をその胸に抱いて、俺を悪の象徴であると決めつけて、彼らは皆死んだ。俺が皆殺しにしたのだ。

 御伽話などという、空想の冒険譚など信じるから、いけないのだ──

「竜って、カッコいいよね!」
「……は?」
「いやだから、竜ってカッコいいと思うの! おばあちゃんもね、竜は賢くて、昔は人間たちに知恵を貸していたんだって、そう言ってたよ。だから人間たちも、竜を神さまとして崇めてたんだって」
「……そう、なのですか?」
「えっと、多分? おばあちゃんの聴かせてくれた御伽話では、いつもそんな感じだったけど」

 そんな御伽話、聞いたこともなかった。

「お言葉ですが、竜は人類にとって化け物みたいな存在です。御伽話でも、竜は世界を闇で覆う存在として知られています」
「あー、うん。そういう御伽話も、あるみたいだね」
「御伽話、ではありませんよ」

 俺は、ついに打ち明けることにした。

「俺はこれまで、たくさんの人間を殺してきました。そうして、いくつもの国を滅ぼしきた。俺は【國落とし】と呼ばれ、世界から恨まれている。俺は、邪竜神ゼペス・ハーゼット……リリス様の命令がなければ、あなたも殺していたことでしょう」

 そのときの俺は、彼女ビルマに嫌われていいと思っていた。

 そもそも、彼女とこうして共にいること自体、間違っていたのだ。

 人間と魔族は、相容れぬ存在。例外などなく、俺たちは敵同士。

 いつかきっと、ビルマ様すらも、俺は殺してしまう──

「ゼペスは、絶対そんなことしないよ」
「……え?」
「だから、ゼペスは絶対、わたしを殺したりなんかしない。わたしもゼペスのことが大好きだから、傷つけたりしない。わたしたちは、そういう関係!」

 意味が分からなかった。

「本当の俺を知らないから、そんなことが言えるのです……」
「本当のゼペスってなによ。ゼペスはゼペスじゃない。あなたは、ゼペス・ハーゼット。無口で、シャイで、一人でいることが多いけど、でも本当は誰よりも仲間思いで、いつも皆の手を汚さないよう汚れ役を買ってでる、そんなにも優しい子」
「違います、俺は……」
「いいや、違わない! おばあちゃんも、言ってたよ。過去があって、今がある。竜の出てくる御伽話も、昔誰かが、竜に助けられたことを感謝してて、その気持ちをどうにかして残したくて、だから御伽話にしたんだって。ほら、繋がってる。わたしもゼペスにいっぱい助けられたから、だから今のあなたを、心の底から信用できるの」
「ビルマ様……」
「ゼペス。わたしは、あなたが大好きよ。それに、わたしにはあなたが必要なの。その気持ちは、これからもきっと変わらない。だから、そんな悲しいこと言わないで。お願いよ」

 そのときの俺は、なんと答えていいのか分からず、結局はなにも言えないままだった。

 ただどうしてか、妙に心が暖かった。

 忌むべき邪竜として、戦火を転々と渡り歩いてきた。俺の近づく者は、邪竜である俺を倒そうとする者か、邪竜としての俺の力を利用しようと考える者しかいなかった。それこそリリス様が現れるまでは、俺はずっと一人だった。

 それなのにビルマ様は、こんな俺なんかを『必要』だと言ってくれた。

 こんなにも平和な土地では、なにもできないのに。そんな邪竜の俺から戦いを奪ってしまえば、価値なんてないのに。

 俺は果たして、本当にこの場所ディスガイアにいてもいいのだろうか──


「ねぇゼペス、あなたはなにか、創りたいものとかないの?」

 またとある日、ビルマ様がそんなことを聞いてきた。島がほどほどに発展した。島の中央には、この大陸全土を見渡せる立派な城がそびえたっている。

 島を豊かにするため、これからどうしていこうか模索している段階だった。

「俺の、創りたいもの、ですか?」
「そうよ。みんなにも聞いて回ってるから、ゼペスにも聞いてみたの」
「……ございません」
「えー、うそ。なにか一つくらいあるでしょ? 別に遠慮してなくてもいいのよ」

 遠慮などではなく、本当になにもなかった。
 欲しいものも、手に入れたいものも、なにもない。むしろ俺は、誰かの大切なものを奪ってきた。

 そういう生き方しか、俺は知らない──

「んーと、じゃあ分かった。思い出よ」
「思い出?」
「そう。ゼペスの思い出の中から、なにか創りましょう!」
「そうは言われても、俺に思い出など……」
「なにか一個くらいはあるでしょう? ほら、いいから思い出してみて!」

 ビルマ様が目を見開き、俺に詰め寄ってくる。その鬼気迫る勢いには、つい、たじろいでしまう。今回ばかりは、黙ってやり過ごせそうにないようだ。

 でも、俺に思い出なんて──あっ。

「悪魔の、果実……」
「え? なにそれ?」
「昔、あれは俺がまだ幼竜で、初めて空を飛んだ時のことでした。多分……うる覚えですけれど、俺の姉にあたる人物が、悪魔の果実が実る場所へ、連れて行ってくれたのです」

 本当に姉だったのかは、分からない。顔も、名前も、なにも覚えていない。ただ彼女のことを、俺は「お姉ちゃん」と呼んでいた。そんな彼女に、空の飛び方を教えてもらったこともなんとなく覚えている。

『上手に飛べるようになったわね、ゼペス。特別に、を教えてあげるわ。そこにはね、真っ青おでブツブツな実がたくさんついている、悪魔の果実がたくさんなっているのよ。さあ、行くわよゼペス』

 そう言って、黒い翼を広げた彼女の背中を、俺は必死で追いかけた。

 おっきくて立派な、竜の翼。
 俺もいつか、あんな風に飛べたらいいのになと、そんなことを思いながら。

「それはきっと、『ブドウ』ね」
「ぶ、ブドウ?」
「うん、紫色の皮の実でね、一房に実が何個もついてるの。でも困ったなぁ、わたし、ブドウなんて見たことも食べたこともないのよね……あっ、そうだ!」

 ビルマ様は、「ひらめきました!」と、そうも言った。

「ないなら、これからわたしたちで創ればいいのよ、一から! を!」
「び、ビルマ様?」
「そうね、思えば果樹園がなかったわ……なんで今まで気付かなかったんだろう! お手柄よ、ゼペス!」

 そう言って、ビルマ様が俺の手を引っ張る。ニコニコと笑いながら、楽しそうに。

「さあ、行きましょうゼペス! 一緒に、悪魔の果実を創るのよ!」

 それから、俺はビルマ様の『悪魔の果樹園づくり』は始まった。

 とは言え、俺もビルマ様もなんの知識もない。それこそはじめは、失敗の連続だった。

 それでも、ビルマ様は決して諦めようとはしなかった。だから俺も、諦めようなんて思ったことは一度もなかった。

「今日も頑張りましょ。ゼペス」

 晴れの日も、雨の日も、嵐の日も、俺はビルマ様を背に乗せて悪魔の果樹園づくりへと向かう。

 泥まみれとなったビルマ様の背中を、ずっと追いかけ続けた。

 いつかの、空飛ぶ「お姉ちゃん」の黒い翼をがむしゃらで追いかけていた、あの頃のように……。

 そして──

「ほらゼペス、見なさい! これ全て、わたしたちが創造クリエイトしたのよ!」

 俺の背中で、彼女が嬉しそうに笑う。遥か地上の、広大な果樹園を眺めながら。

 俺たちは、ついに「悪魔の果樹園づくり」を成功させた。

「ふっ、長い戦いであった……なあ、邪竜ダークネスドラゴンよ」

 その頃、俺も少しは社交的になっていた。ただやっぱり恥ずかしいから、邪竜というもう一人の交えてだが。

「……ねぇゼペス、あなた、もっと普通に喋れないの?」
「普通、ですか。それは無理と言うものですよ、ビルマ様。俺は、そもそもが普通では、ないっ──ああっ、右眼がッ!」
「ゼペス⁉︎」
「はぁ、はぁ、はぁ……ビルマ様、邪竜ダークネスドラゴンが、暴れ出そうとしています。こいつの封印を抑え込むには、今すぐ悪魔の果実をっ、うぅッ!」
「も、もう! だったらほら、早く降りて!」
「申し訳、ありません……ふふふ」
「え、なんで嬉しそうなの?」
「⁉︎ あ、あああ、右眼がぁああッ!」

 そうして、俺たちは並んで、甘くて酸っぱい悪魔の果実を頬張る。

 ビルマ様の言っていたブドウという果実と、同じ味かなんてことは分からない。

 だけど、俺からすればこれこそがブドウであり、悪魔の果実であった。

 今まで食べたどんな食べ物よりも、ずっと美味しかった。

 美味しかった、のだ──

◾️

 ──そんな当時の記憶を、ふと、思い出した。

 翼に強い衝撃を受け、墜落していく最中のことであった。

 なにが起こったのかは、分からなかった。

 ただ、目の端に映るはずの俺の右翼が見当たらない。そのときにも、悟った。俺は、翼をもがれてしまったのだと。

「邪竜を撃ち落としたぞッ! 今のうちに、首を切り落とせぇ!!」

 朦朧とする意識の中で、そんな怒声を耳にする。ボヤけた視界の先に、武器の握り迫る無数の人影が見える。

 ああ、そうか……俺は、冒険者たちに撃ち落とされてしまったのか。

 体が動かない。どうしてか、全身から力が抜けていく。見えざる巨大な足に、全身を押し潰されているような感覚だった。

 マドルフは、ちゃんと逃げ切れただろうか……。

 無事だったらよいのだが……あいつのことだ、きっと大丈夫だろう。今だけは、そう願うしかない。

 そのうち、草木に潜んでいた冒険者がわらわらと姿を現し始めた。その先頭に、真っ赤な鎧を纏う男が一人──豪華な装飾の施された黄金の剣を掲げ、意気揚々と叫ぶ。

「これは、世紀の一戦なり! 邪竜ゼペス・ハーゼットを討ち取った我々の偉業は、伝説となり、後世にも語り継がれていくだろう。だから、恐れるな戦士たちよ! お前たちの御霊は、この俺、勇者アーノルドと共にあり!」

 そう言った奴の手の甲には、青白く光り輝く紋章が見える。マドルフの手の甲に刻まれていたものと同じ『魔族殺しの紋章ディスペリア』だ。なる程、半信半疑ではあったが、リリス様が俺たちを裏切ったというのは、本当らしい。

 俺は、気力のみで鉄のように重たい体を起こした。

 冒険者たちの悲鳴が上がる。だが、勇者を名乗るアーノルドという男だけは恐れ慄くこともなく、剣を構え俺の前へと出てきた。

「諦めろ、邪竜ゼペス・ハーゼット。貴様の悪行も、ここで終わりだ。貴様に殺された戦士たちに代わり、俺が正義の鉄槌を下す」
「悪行、か……お前タチも俺ノ仲間ヲ、たくさん殺シタ……」
「当たり前だ。貴様ら魔族は、殺されて当然のことをしてきたのだからな」

 ……殺サレテ、当然?

「……ククク、ああ、ソウ、だったな……」
「なにが、おかしい」
「いや、ナ……タダ、改めて理解シタ……俺は、邪竜ゼペス・ハーゼット……お前たちを殺す、敵だ」

 俺と彼ら人間たちは、決して理解し合えない。そんなことは、もうずっと昔から気付いていた。それでも、俺は心のどこかで願っていたのだろう──戦わずして理解し合える、そんなにも非現実なことを。

 よもや、【國落とし】として恐れられてきたこの俺が……可笑しくて、堪らなかった。
 
 その瞬間、黒い感情が全身を支配していく感覚を受けた。かつての、殺戮だけを全てだった自分を、取り戻していく感覚。

 冒険者たちが、怯えた表情で俺を見ている。勇者アーノルドの額にも、粒の汗が浮かんできている。

 そして、ようやく思い出した。

 俺の本来、あるべきだった姿を。

 こんな俺の姿を見たら、ビルマ様はどう思ううのだろうか。彼らのように、恐れ慄くだろうか……まあ、もういい。

 俺は充分、幸せだった。幸せ過ぎたのだ。

 これ以上は、もうない。

 ビルマ様、申し訳ありません。
 どうやら俺は、ここまでのようです。

 ゼペス・ハーゼットは、あなたと過ごしたこの3年間、本当に幸せでした。

 俺の背中に初めて乗ってくれたのが、あなたで本当に良かった。

 あなたの創造するディスガイアの行く末を、最後まで見たかった。

 皆ともう少し、共に過ごしたかった。

 だがそれも、叶わぬ願い。

 だからせめて、祈らせてください。

 ビルマ様と、皆が、これから創造するディスガイアに恒久なる平和が訪れんことを、ここに祈る──








「口程にもなかったな」

 そう言ったアーノルドの剣が、俺の心臓に突き立てられる。その瞬間、冒険者の歓声が上がった。

 意識が、次第に遠のいていく。
 視界の隅で、切り落とされた俺の角を、一人の若い冒険者が嬉々弾んで運んでいる光景だった。

「へへっ! ついに、これで俺も……英雄だっ!」

 最後に、そんな言葉を聞く。
 彼が英雄になろうがどうだろうが、もう俺には関係ない。

 俺はもう、戦わなくていいのだ──

『ゼペス』

 朧げな意識下で、なぜかビルマ様の声を聞いた。

『お疲れ様、ゆっくり休みなさい』

 そんなビルマ様の、優しい声。
 また、空からが落ちてくるのを見た。それは、いつか見た『お姉ちゃん』の翼のように見えた。どうやら、お迎えがやってきたらしい。

 俺は、ゆっくりと目を閉じた。

 
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