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楽園増強編
始祖吸血鬼ベルモット・ハデス
しおりを挟む『よもや我輩の血から、貴様という出来損ないが誕生するとはな……この、恥さらしめが』
今でも、そう言って見下してくる父上の姿を思い出す。
僕はハイデス家の長男、ベルモット・ハイデスとして生を受けた。
父と母は、初代魔王テスラ・ラフレシアが最初に生み出した五大魔族のうちの一つである『始祖吸血鬼』の血を引く存在として、魔族たちに崇められる偉大なる存在とされていた。
そんな父、サーヴァント・ハイデスは第5代目魔王である。ハイデスの血脈でも、初代様と同等か、それ以上の実力を持つとされる偉大なる人物。幼き頃ですら、父の武勇について知っていたくらいに。
僕も、そんな自身の血統に誇りを抱いていた。
あのときが、訪れるまでは──
ある日のこと。僕が全く魔力を制御できないことに疑念を抱いた母が、僕の体を調べた。そうして発覚したのは、僕は体内にある魔素を魔力へ変換できないとのことだった。つまりは、魔法を扱えない。
魔族が魔法を扱えないなんてことは通常あり得ない事態だ。
それから、僕の日常が激変した。
まず、父は僕が自身の子であることを認めず、母が他所でつくってきた子供だと言い出した。母は最後まで否定していたが、結局は殺されてしまった。
次に、僕の存在を知る全ての者が殺された。僕の存在を公にするのを嫌がった父上は、僕に携わった者たち、並びにその血脈を末代に至るまで根絶やしにしたのだった。
そして、その事実を全て聞かされた上で──僕はハイデス家の地下牢に幽閉されてしまった。
僕を牢屋に押し込めた父は、去り際にもこう言った。
『貴様には、死を与えることすら嘆かわしい。この暗い地下牢にて、自身がいかに罪深い存在であるかを考え、そうして一人孤独に死んでいけ。いいか、貴様は今日からハイデスではない。お前は『イ』らない存在、ハデスだ」
ベルモット・ハデス──それが、俺に与えられた新しい名前だった。
悪くないと、そう思った。
サーヴァント・ハイデス。貴様と同じ名前を持つなど、こちらから願え下げだ。
今に見ていろ……貴様はいつか、僕がこの手で殺してやる。
絶対、復讐してやる。
◾️
それから、どのくらいの年月が過ぎたから分からない。世界がどのように移り変わっているのか、なにもかもが分からなかった。
僕の幽閉されている地下牢には、窓もなければ光もない。
闇だ。ずっと真っ暗で、ずっと寒い。
食料もなければ、誰もいない。
今自分がどのくらい成長していて、どんな顔をしているのも分からない。
父に対する憎しみだけが、僕がこの世界に存在する唯一の意味だった。
だがしかし、肝心の殺し方がなにも思い浮かばない。そもそも魔力を制御できない僕には、どうすることもできないのではないか?
時間と、苛立ちだけが悪戯に過ぎていく日々……もういっそ、このまま闇の中に溶けて消えてしまえたらいいのにと、全てがどうでも良くなってきていた。
光を見たのは、そんな頃だった──突然、目の前に火の玉が現れた。仄かな光を放つ火の灯りが、僕の顔を照らす。
松明を持った、誰かがそこにいた。
「……あなたが、ハデス?」
色が白く、線の細い女であった。また、召使いの女たちが身に纏う白と黒を基調としたメイド服姿であった。
断じて、これはお世辞などではない。僕はその女を、女神かなにかと勘違いしてしまった。
僕は喉から声を絞り出すように、
「……君、は……」
「話はあと! とりあえず、これ食べて!」
彼女は肩から下げた麻袋の中から、いろいろな物を取り出した。パンに、水に、果物など……その味すらも忘れてしまった、食料の山である。だが当時の俺に、味覚なんてものは既になかった。
空腹感も、ない。
「……いら、ない」
「どうして? お腹、空いてない?」
「魔族は、食べなくても生きていける……」
「でも、お腹はすくでしょ?」
「……そんな感覚は、とうの昔に忘れてしまった」
「そう。でも、一応置いてくね。食べたくなったら、食べて」
彼女は長い廊下の先を見ながら、声を潜めて言った。
「ごめん、今日はもう行かなくちゃ。ハイデスに、見つかる」
「……ハイ、デス? あんたは、あいつの部下なのか?」
「違うよ。あーでも、ハイデスの部下であるリリス様のメイドだから、そうなのかな?」
「……リリス?」
聞いたことの名前だった。
「知らない? 『アスラ・ソウ・リリス』。あの『紅蓮鬼』の末裔で、めちゃくちゃ強いんだよ」
紅蓮鬼──五大魔族の一つとして数えられるオーガ族の、その初代の血が混ざっているとされる偉大なる血脈。初代魔王テスラ様の右腕として名を馳せた紅蓮鬼『ゾルバ』の数々の伝説は、今もなお語り継がれている程だ。
「で、この度晴れて、リリス様は魔王ハイデス直属の側近に選ばれたの」
「そう、か……リリス……」
「うん、覚えておいてね。ハデス、あなたのことをお世話しろってわたしに命令したのも、リリス様なんだよ」
「……どうして……僕の存在は、ハイデスに消された、はず」
「さあ、どうしてでしょうね? その辺、わたしはあまり詳しく聞かされてないの。とにかく、そういうことだから。ごめん、もう行くね」
そう言って、彼女は足早に去っていく。光が、再び失われていく。その瞬間に感じたのは、度し難い恐怖だった。
「あっ、忘れてた」
足を止めて振り向いた彼女の笑顔に見たそれは、恐怖心を失わせるほどの希望である。
「わたしの名前はリューズ・ストレガ。また、会いにくるからね」
僕はこの時の出会いを、忘れたことは一度もない。
リューズ・ストレガ──彼女との出会いが、僕の世界を大きく揺るがしたのだから。
◾️
それからと言うもの、リューズは度々僕の元へ訪れるようになった。またその度に、リューズは様々な物を持ってきてくれた。その中には、マッチと蝋燭も含まれていた。
死ぬほど嬉しかった。これでもう、闇の生活を強いられずに済むのだから。
そんなにも感動する僕を見て、リューズは「食料よりもまずこっちが先だったね」と、なんだか申し訳なさそうにしていた。僕は「そんなことはない」と、すぐさま否定した。いらないと思っていた食料だったが、一度その味を覚えてしまえばやたらと腹が減る。やはり、生きている以上、食欲というものには抗えないようだ。
リューズが地下牢へ訪れるようになって何度目かの頃には、僕はすっかり食事中毒者だった。次はあれが食べたい、これが食べたいと、わがままな子供のように注文を繰り返した。
リューズの主人であるリリスが、どうして僕の存在を知っていて、どうして僕に手を施してくれるのかは分からない。もしかしたら、なにか良からぬ企みに利用しようと考えているのかもしれないが──そのうち、どうでもよくなっていた。
どの道、僕はこの地下牢でいつ訪れるかも分からない死の瞬間を待つだけでしかなかったのだから。利用されるだけマシ。むしろ、有難いとさえ思わされたのだ。
そうして、衰弱しきっていた僕が調子を取り戻した頃だ。リューズは、僕に地上世界のについてを語ってくれた。
魔王サーヴァント・ハイデスによって滅びかけた、世界の話を……。
「やはり、ハイデスに敵う人類はいなかったか……」
「ええ、そうなの。人間たちがいくら束になったところでハイデスの前では無理に等しい。人類が降伏するのも、時間の問題ね」
「ならば、第5代目の代でついに魔族が支配する世界が訪れるわけか……魔族たちは、さぞハイデスの存在を有り難く思っているのだろうな」
「そのことなんだけど……実は、そうでもないのよ」
「……なに?」
「ハイデスはね、力こそが全てである主張しているの。それは、魔族たちにも対して一緒。ハイデスの期待に応えられなくて、たくさんの魔族が処刑されたわ」
それから、リューズはハイデスがこれまで行ってきた非道の数々を明かし始める。聞いていて、胸糞悪い話ばかりである。ただ僕はなにも驚くことも、ましてや悲観することもなくて、そもそも僕はハイデスの非道さなどとっくに知っていた。でなければ、僕はこんな地下に閉じ込められていない。
きっと、地上は地獄絵図と化しているのだろう。一体、どれだけの人間と魔族が犠牲となってしまったのだろうか? 考えるだけで、ぞっとした。
また、ふつふつと怒りが湧いてくる。
やはり、ハイデスは誰かが殺さなければならない。生きていては、いけないのだ。
「リューズ。君は、大丈夫だったのか?」
「うん。わたしには、リリス様がいるから。いくら魔王でも、リリス様の部下には手を出せないの。リリス様はね、普段は温厚だけど、怒らせるととんでもなく怖いんだよ」
「そうか……それは、良かった」
彼女、リューズ・ストレガが無事だと聞いて、ほっとする自分がいる。何故だろうか。彼女には、どうか生きていて欲しいと思わされる。
「すごいやつのだな。その、リリスという男は」
「そうなの! リリス様はね、凛々しくて、強くて、それにとんでもなく優しいのよ! 中には悪鬼だなんて言って怖がっている人もいるけど、でも違う。リリス様は、優しい鬼なんだ」
リリスのことを話すリューズは、とても幸せそうだった。だったら、幸せなのだろう。
「リリス様の部下はね、みんなリリス様に救われて、それで仲間になったの。中にはね、元々は敵対していた子もいるのよ!」
「それはすごい。さぞ、人徳溢れたお方なのだろう。僕も一度、会ってみたいな」
「そうしたらいい! ハデスのことも、きっとリリス様が救ってくれる。今はハイデスの命令で遠くにいるけど、帰ってきたら、きっと。だから今は、我慢だよ」
「我慢、か……」
「あっ、ごめん……早く、こんなところ出たいよね、そうだよね……」
リューズは、申し訳なさそうに顔をしかめた。この通り、リューズは表情をコロコロと変える。見ていて飽きない、面白い女だった。
「……別に、そうではない。我慢は慣れっこだ」
それに、リューズがこうして僕のところに来てくれるのであれば、それはそれで楽しい日々だ。
「じゃあハデス、またね」
そうして、またリューズは帰っていく。
次に会うのは明日か、明後日か、そのまた明々後日か──
リューズにはやく会いたいな。
いつしか僕は、そんなことを思うようになっていた。
ただどうしても、懸念されるのはハイデスの存在だ。奴が生きている限り、僕のこの細やかな幸せさえも奪われかねない。
いつリューズに会えなくなるか分からない。
だったらやはり、殺すしかない。
急がなくては……。
「なあリューズ。頼みがあるんだ」
その日もまた、リューズはたくさんのお土産を持って現れた。いつものならば、それで満足なのだが、
「ん? なに、あらたまって」
「魔法書が欲しいんだ。魔法を、使えるようになりたい」
「魔法を? またどうして?」
リューズは、首を傾げて聞いてくる。ハイデスを殺すため、なんて言えるわけもなかった。
「僕も、魔族なんだ。魔法くらい、使えるようになりたい。ただそれだけさ」
僕は、言葉を慎重に選びながら話した。
リューズは顎に指を当てて、「うーん」と唸る。さすがに、魔法を覚えたいというのは、欲が過ぎたか。
「そうね。魔法書……でも、さすがに書物だけじゃ習得は難しいからなぁ。わたしで、大丈夫かなぁ」
「どういう意味だ?」
「だから、わたし誰かに魔法を教えたことないのよ」
「……まさか、リューズ。君が、僕に魔法を教えてくれるのか?」
尋ねると、リューズは「出来るか分からないけどね」とおどけた笑みを浮かべた。ただ、直ぐにも「あっ」と声を上げて、
「もしかしたら、わたしじゃ嫌?」
「! い、いや、そんなことは、ない。むしろ、助かる」
「そう! なら、決まりね。次に来るときは、魔法書を幾つか持ってくるから。リリス様にも、ちゃんと伝えておくね」
こうして、案外あっさりと僕の願いは叶ってしまった。リューズに嘘をついている背徳感は少なからずあったが、それよりもリューズに魔法を教えてもらえることの喜びが何倍にも優っていて、僕は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
それから、魔法習得の特訓は始まった。
魔法とは、魔素を媒介に発動するものである。魔素と自然物質の融合によって、6属性の魔力へと変換されたもの。
そして魔族とは、そもそもが魔素の塊のような存在だから、魔力の扱いに困ることはない。
だからこそ、僕は異端だったのだ──
「おかしいね。なんで、ハデスは魔素を制御できないんだろう……」
それは、修練を始めて幾日かが過ぎようとしていた頃合い。
リューズは、魔法書を片手に怪訝そうな顔を浮かべて言った。
「だって、おかしいよ。ハデスの体内に溢れる魔素はすごいものだよ。それなのに魔法が使えないなんて、やっぱりおかしい」
「出来損ないなんだ、僕は」
僕の体内に満たされた魔素は、魔族の中でも随一。先祖代々受け継がれてきた始祖吸血鬼の血脈が、僕には引き継がれているのだ。それなのに、その恩恵を全く受けれていない。
「自身でも、おかしいと思っている。そもそも僕は、魔素を感知できないんだ」
「え? でも、魔素を宿す者なら、感覚で分かるはずだけど」
「だから、それがない。自分の魔素も、他人の魔素も、僕にはさっぱり感知できない。ただ……」
僕は、リューズの大きな瞳を覗きながら言った。
「リューズ。君の中には、なにかを感じる……それが魔素なのか、なんなのかは分からないが、温もりのようなものを、感じる」
その瞬間、リューズの目が大きく見開かれた。驚いたと、その瞳で訴えかけてくるみたく。
「……もしかして、ハデス。あなたも……そうだっていうの?」
「? どういう、ことだ?」
「それは……そうね、言葉で説明するよりも、実際に見せた方が早いかも」
と、リューズは両手を前に出して、手のひらを重ね合わせた。目を瞑り、スゥと小さく息を吸った──途端だった。
僕の視界が、眩い虹色の輝きに包まれた。実際には、その光はリューズの手のひらから溢れ出したものだった。
夢、幻、奇跡……表現はいずれにせよ、その時の僕は、言葉では言い表せない感覚をその身で感じていた。
そうして、輝きが止む頃、リューズの手に一つの真っ赤なリンゴが握られていた。
「驚いたよね? これが、わたしの魔法なの」
「リューズ。これは、一体……」
驚愕する僕に、リューズは微笑み返してくる。
「創造魔法よ」
聞いたことのない魔法だった。
「これはね、6属性に含まれない7属性目に該当する『魔』との結合によって発動するの。つまりね、魔素と魔素との融合物質」
「魔素と魔素が、融合? 聞いたことがない……」
「だよね? わたしも、リリス様に教えてもらうまでは知らなかった。なんでもね、魔素には2重類あるらしいの。一つは、ハデスも知っている通常の魔素。そしてもう一つが、目には見えない不可視の『古代魔素』なんだって」
リューズはその声で、僕の常識を、いや世界の常識を覆していく。
「古代魔素は、創世記から存在する魔素で、実はこの世界に満ち溢れているんだって。でも誰も感知できないから、認識することもできない。でも、その古代魔素に気付いた存在がいた。それが、初代魔王テスラ・ラフレシア様。テスラ様は、なぜかその古代魔素を感知できたんだって。そして、わたしもそうなの。わたしは、子供の頃から魔力を制御できなかった。だけどね、リリス様にそのことを教えてもらって、今ではテスラ様と同じ創造魔法を扱えるようになったの」
リューズは、そのリンゴを僕に手渡してくる。
「通常の魔法は使えないけど、こんな風にリンゴを創造できるんだよ。ごく稀に、いるんだってさ。古代魔素を感知できる、神の贈り物を持つ者が」
「そ、そんなことって……」
「変だって、そう言いたいんでしょ? 当然だよね。わたしも、初めはそうだったから。だって、なにもないところから物を生み出すって、おかしな話。でも、こう考えてみたら納得したの。そもそも、この世界そのものが、神の魔法によって生み出されたもの。土も、緑も、水も、この世に存在する全ての物質の始まりは、その古代魔素なんじゃないのかな」
僕は、渡されたリンゴを恐る恐る確認してみる。360度どこから見ても、これはれっきとしたリンゴだ。手触りも、質感も、それに……がりっ。
「……甘くて、酸っぱい。これは、リンゴだ……」
「ふふ、なに当たり前のこと言ってるの? そうだよ、リンゴ。それでハデス、ここからが本題。もしかしたらあなたも、その神からの贈り物があるんじゃないのかな?」
リューズが、僕の手を握ってくる。
暖かい。人肌の温もりが、冷えた僕の肌を優しく包み込んでくる。またそれとは別に、肌を通して波立ち脈動する、暖かいなにか。
「古代魔素の制御は単純よ。ただ、願えばいいの」
「願い……」
「そう、願うの。ただひたすらに、ハデスの頭の浮かんだ物を、想像してみて。リンゴは甘くて、酸っぱい。丸くて、硬い。ハデスが知っているリンゴのことだけを考えて。そうしたら、きっと神の贈り物があなたにこたえてくれる」
言われた通り、僕は願った。
甘くて、酸っぱくて、丸くて、硬くて、そんなリンゴ。僕の中にあるリンゴの想像を。
そして──
「おお! ハデス! すごい!」
僕の全身から、七色の輝きが迸る。その時その瞬間にも、僕は実感する。
そうか。これこそが、魔素だったんだ。
この身は、魔素でできている。
僕は魔素で、魔素は僕。
そんなにもあり触れたものだから、だから願えば応えてくる。
世界が、七色の輝きに包まれる。
「やったぞ……僕はついに、魔法を使えるように、なったんだ……」
目頭から流れ出すそれは、僕が誕生して、初めて感知する涙。そのとき、感情が昂ぶると涙が溢れ出すと、はじめて知った。
リューズ・ストレガ──彼女が、僕にたくさんのはじめてをたくさん教えてくれた。
それからというもの、僕はたくさんのものを創造した。無機質な地下牢を彩るように、リューズの大好きな花々をたくさん飾ることにした──そのうち、地下はすっかり植物園と化していた。
「これで、ハデスも立派な創造魔法士だね」
そう言って笑うリューズが、僕は好きだった。いつまでも眺めていたいと、そう思った。だが、そういうわけにはいかないことも僕はちゃんと自覚していて──
僕は、密かにとある呪印の開発をしていた。
「ねぇハデス、それ、なにも作ってるの?」
その日もまた、リューズはなんの前触れもなく地下へと訪れた。
僕はあまりに熱中するあまり、彼女が来たことも気づかなかった。だからついに、見られてしまったのだ。
なんと言って言い逃れようか?
一瞬、僕はそう考えた。ただその頃には既に、僕は彼女になら全てを打ち明けていいかもしれないと、そんなことを思いはじめていた。僕がこんな地下で一人長らえてきた理由、その目的を。
僕は──羊紙に刻印したその呪印を、リューズへと見せた。
「これは、『魔族殺しの紋章』さ」
言葉を失っている様子のリューズに、僕は頷き言った。
「考えてみたのさ。魔素から物質を生み出すことが可能なのであれば、その逆、魔素で物質を破壊できるんじゃないかってさ。結論としては、できなかった。でもね、体内を満たす魔素の流れを暴走させることは、出来るのさ」
僕は『魔族殺しの紋章』の刻印された羊紙に手のひらを重ねた。すると、途端に手のひらに熱が広がって、ジュッと音が鳴った。焦げ臭いが漂ってくる。
「この通りさ。この『魔族殺しの紋章』は、魔族の体内で精製される魔素のみを穿つ呪印だ」
と、僕は焼き焦げた自身の手のひらをリューズへと見せた。
「この魔族殺しの紋章を使えば、最強の魔王ハイデスすらも殺せる」
「……でも、相手はあの歴代でも最強と恐れられる魔王サーヴァント・ハイデスだよ。例え殺せたとしても、周りの奴らが黙ってないわ。あなたは一生追われる身となる」
「構うものか。僕は、もう充分に生きた。それに、ハイデスを殺すことこそが、僕の生きてきた理由。命の答えなんだよ」
僕は、固まるリューズへ手のひらを差し伸べた。かつて彼女が伸ばしてくれた手へ、今度は僕が手を差し伸べる番だ。
「約束するよ。僕が、ハイデスを倒す。そして君たちが、争いのない平和な世界を創造するんだ。リューズ、神の贈り物に選ばれた君なら、それが出来るはずだ」
それこそが最良の選択と、僕はそう信じて疑わなかった。
ハイデスが滅んだあかつきには、きっとリリスが魔王になるのだろう。そんなリリスの元には、リューズたち心優しい家臣たちがたくさんいる。彼らに任せれば、今よりもずっと幸福な世界が待っているはずだ。
世界の歪みであるハイデスは、その歪みから誕生した僕が葬り去る。それでいい。これ以上は、きっとない。
世界は、これから、 正しい道へと歩み出すのだ──
「どうして、ハデス。なんで、そんな悲しいこと言うの……」
「え?」
リューズは、悲しそうな瞳を僕へと向けてくる。
「ハデスが死んだら……悲しいじゃない」
目に溢れんばかりの涙を溜めて、リューズは言った。
「それに、魔族殺し紋章なんてもの……それはいつかきっと、争いの火種になる。今よりもっと、酷い世界が訪れるよ」
「僕が、そうさせない。この力は、僕だけのもの……奪おうとしてくる奴はみんな、殺してしまえば、」
「ダメ!」
リューズが、泣き孕んだ瞳を向けてくる。
「ハデス、あなたがそんなことしちゃダメ。それは、ハイデスのやっていることと、なにも変わらないわ!」
「そんなことは分かっている。それでも、誰かがやらなくてはならないんだ」
「それでも、嫌。わたしは、そんなの嫌だよ」
その瞬間、心臓にズキンと痛みが走った。
なぜだ。なぜ、リューズは僕の思いを分かってくれない?
僕だって、できることならばリューズと共に生きたい。こんな暗い地下ではなくて、彼女とともに地上の明るい世界へと行きたい。
そこで、平和な生活を送りたい。それ以上に望むものなんて、なにもない。ただリューズさえいれば、僕はそれだけで満足なんだ。でも、それも叶わぬ願い。
リューズの隣にいていいのは、僕ではないのだから──
「ならば、君は大好きなリリスにその役目を担えと、そういう言うのだな?」
「違う! わたしが言いたいのは、そういうそとじゃ、なくて……」
「でもいずれは、そうなるはずさ。君は、些かハイデスを甘く見すぎている。奴が何故、リリスを配下に迎えたと思う? それは彼を監視する為だろう。または、リリスを勢力を拡大し、いつの日か下克上することを恐れてのことだ。そのうち、きっと殺される。ハイデスは、そういう奴なんだ」
「……」
「リューズ、この世界は綺麗事で生き残れるほど、甘くない。残酷なんだよ、この世界は。それを僕の命如きで精算できるのなら、安いものさ。なんたって僕は、『イ』らない存在、ハデスなんだから──」
と、そのときだった。
リューズが、僕の震える体をそっと、抱きしめてくれていた。
「ごめんね……そうだよね……ハデスは、いっぱいいっぱい、つらかったんだよね。それなのに、分かったようなこと言って……ごめんなさい。でもね、これだけは言わせて欲しいの。ハデスは、『イ』らない存在なんかじゃない」
リューズの優しい声が、殺伐とした地下に響く。また暖かい温もりが、僕の全身を包み込んでいた。
そして、僕はもういいかと、ようやく思わされる。
「ハデス、あなたは……生きるために、生まれてきたんだよ」
僕をこんなところに閉じ込めたハイデスへ復讐すること。それが僕の全てだった。
でも、今は違う。
リューズと過ごす日常が、今の僕を突き動かす全てである。
やっと、気付いた──僕の願った幸せは、もうすぐそこにあったのだ。
それから、僕はリューズの胸の中でわんわんと子供のように泣いた。それこそ、積もり積もった悲しみを吐き出すように。
リューズは、なにを言わずに、ずっと優しく僕の体を抱きしめてくれていた。幸せだった。ずっとこうしていたいって、僕はそう願った。
「ハデス。約束する。あなたを、ここから絶対に連れ出してあげるから。これから、リリス様にお願いしてくるから……だから、待ってて。次にわたしが来るときは、みんなも一緒だから。あなたも、わたしたちの家族だよ」
リューズは、そう言い残し去っていった。どうやら、僕をここから連れ出してくれるらしい。僕はリューズさえいればそれでよかったのだが、でも彼女の仲間たちと過ごす日常は、きっと毎日が幸せに満ち溢れたものに違いない。
そして、数日が経った。数週間が過ぎた……リューズはあれから、一度も姿を見せなくなった。
もしかして、リューズの身になにかあったのか? それとも、考えたくはないが……裏切られたのか?
いいや、リューズは絶対そんなことはしない。今は彼女を信じて待とう。なに、我慢は慣れっこだ。それに、今の僕にはリューズが与えてくれた神の贈り物がある。
創造する力が、僕にはあるのだ。
そして、ついにひと月が過ぎようとした頃だった。地下に、足音が鳴った。コツコツと、ゆっくり近づいてくる──そして、足音が止んだ。
牢屋の前で、そいつはニヤリと嗤った。
「久しいな、ハデス」
目を疑った。だけど、そいつは紛れもなく魔王ハイデスで、以前となんら変わった様子はない。その面、気配、仕草さえもが、僕の知るサーヴァント・ハイデスそのものであった。
ハイデスは、僕の顔を覗き見た。次に、たくさんの花で彩られた牢屋の中へと目線を向けた。
「ほぅ、これは驚いた。随分と、華やかにしたものだな」
「うるさい、黙れ……」
「ククク、そう邪険にしてくれるな。そんな態度を取られては、つい殺したくなってしまうではないか。せっかく、ここから出してやろうというのに」
「そんなハッタリ、誰が信じるものか」
「ハッタリなどではないぞ? ハデスよ、お前が素直で、正直に話すと約束するのであれば、ここから出してやってもよい」
「……正直に、話す?」
「最近、ここへ出入りしていた者がいただろう?」
と、ハイデスは鉄格子に巻き付いた花房の一つをもぎ取ると、乱暴に握り潰した。
「魔族に花を送るなどという、不届き者がな。言え、ハデス。そいつは誰だ?」
全身から冷や汗が溢れ出してくる。僕は、激しく動揺していた。
「素直になれ。なに、お前が正直者であるうちは、悪いようにはせん」
「……そんな奴は、いない……」
リューズの存在を明かせば、彼女は絶対に殺される。だとすれば、語るわけにはいかない。例えそれと引き換えに、僕がここで殺されようとも──
「ほう、そうか。ならば、聞き方を変えよう……リューズ・ストレガだな?」
「⁉︎」
「大体の調べはついておる。リリスの小娘が、ネズミのように這い回っていたことぐらいな。そしてお前の反応を見て、確信したぞ。リューズは、ここへ出入りし、お前と接触していたのだな。言え、奴らは、なにを企んでいる?」
「……」
「頑固な奴だ。リューズがどうなっても、知らないぞ」
その瞬間、頭をトンカチで殴られたような衝撃、目眩が襲ってきた。
「リューズは既に捕まえ、徹底的な拷問の施した。全身をくまなく、ありとあらゆる手法を用いてな。それでも口を割らぬから、こうしてお前に会いにきたのだ。聞け、ハデスよ。リューズはまだ、生かしてある。お前が正直に話すのであれば、解放してやってもよいぞ?」
そう言って汚い笑みを浮かべるハイデスに覚えるは、これ以上とない殺意だ。
リューズ、ごめん──僕は、心の中で彼女に謝った。
僕のせいだ。僕の存在が、彼女を傷つけた。だからせめて、罪滅ぼしをさせてくれ。
君との約束を、僕は破る。
「……申し訳ありませんでした、魔王サーヴァント・ハイデス様。僕が、間違っていました。はい、確かに、僕はあの娘と接触しておりました。リリスは、反逆を企てようとしております」
「ほう、やはりそうであったか。よいぞ、ハデス。そのまま話せ」
「はい。リューズは、この牢屋内にリリスの反逆に関する資料を隠しております。そこに、全てが記されております」
「なら、それをこちらへ寄越せ」
「……はっ、仰せのままに」
僕は丁寧に頭を垂れて、牢屋の石床の一つをめくり、隠しておいた羊紙を取り出した。それを持って、ゆっくり鉄格子へと近づく。
「こちらが、その資料となります」
「でかしたぞ、ハデス」
ハイデスもまた、鉄格子へと近寄ってくる。そうして、羊紙を受け取ろうと鉄格子へ体を密着させる──この瞬間を、待っていた。
「くたばれ、クソ親父」
どすっ──僕は懐に忍ばせていたナイフで、ハデスの心臓部を羊紙ごと貫いた。
ハイデスは、顔色一つに言った。
「やはりそういう腹であったか……アホウめ。こんなもので、我輩が殺せるとでも?」
「終わった」
「ああ、終わったぞ、愚かな息子よ。お前の無意味な命に、ようやく終焉の時がきた。だがそうだな、リリスの策略を明かしてくれた褒美をくれてやろう」
ハイデスの腕が、僕の首へと伸びた。そのまま僕の首を持ち上げて、膂力のみで締め上げてくる。
「我輩の手の中で死ねることを、誇りに思え」
「……だ……」
「ん、なんだ?」
「……だか、ら……終わり、だ……」
「⁉︎」
途端、ハイデスの手が緩む。苦悶な表情を見せ、後退りをする──逃すか。僕はすぐ様ハイデスの腕を引っ張ると、ハイデスの胸に刺さったナイフを押し込み、抉り込んだ。
ナイフ越しに突き抜かれた羊紙──魔族殺しの紋章が赤い閃光を迸り、ハイデスの胸を焼き焦がす。
「ぐふぅっ……ハデス、お前ェ……一体、なにをしたッ……」
「魔族殺しの紋章、貴様を殺すために創り出した呪印だ」
「ぐぅぅ、こんなものをぉぉ……」
「無駄だ。この呪印は、直ちに体内の魔素を暴走させる。それだけじゃないぞ、ハイデスッ!」
僕はハイデスの体を引き寄せ、その首筋へと噛み付いた。そハイデスの体内から、血を吸い出す。それが本来の僕らのあり方──僕は、吸血鬼だ。
そして、僕はただの吸血鬼ではない。始祖の力を受け継ぐ存在──
「始祖の力の継承は、血縁者のみに許された吸血、親殺しだ。そうやって、今の貴様があるのだろう」
「お前ェェエッ!」
「侮ったな、ハイデス。僕も始祖の血を受け継ぐ者。王としての資質は、僕にもある」
ハイデスの血を我が身に取り込んだからこそ、分かる。全身から溢れ出す、莫大なる魔素の波動を。確かに、これはとんでもない力だ。最強と言っても、過言ではないだろう。
今の僕には、ハイデスを殺すだけの絶対的な力がある。
「頼、む……ハデス……許してくれ……悪かった……」
「貴様はこれまで、そうやって命乞いをした者たちを何人殺してきた? 彼らの嘆きに、一度でも耳を傾けようと思ったことはあるか⁉︎」
「違う……我輩は、ただ……魔族に、より良い世界を、つくろう、と……」
そこまで聞いて、これ以上はもう話しても無駄だと悟る。
僕は、ハイデスの首を手刀で刎ね飛ばした。
僕は牢屋の鉄格子を破壊し、念願の地上を目指した。
迫り来るハイデスの部下たちは、一人残らず殺してやった。
もう、誰にも奪わせない。
なあリューズ。僕はまだ、君に伝えてないことがあるんだ。
僕は、君が好きだ。
世界がどうなろうが、本当はどうだっていい。
僕はただ、君さえ生きててくれれば、それだけでいいのさ。
もしもそれを邪魔する奴がいるのなら、僕は修羅の鬼と化して構わない。幾らだって、この手を血に染める。
「リューズッ!」
そして、僕はようやく辿り着いた。
リューズの匂いがする、その場所──血と花の匂いが混じる、その薄暗い部屋へ。
たくさんの拷問器具が、所狭しと並んでいた。その中央にある十字架に、全身ボロボロとなったリューズが磔られていた。僕は半狂乱となり、リューズに近寄ろうとした、その時だった。
「無駄だ。リューズは、もう死んでいる」
室内に、低い男の声が木霊する。扉側の壁にもたれかかり腕組みするそいつが、声の主なのだろう。真っ赤な髪の、見知らぬ男だった。だが、その出で立ち、その身から放たれるオーラだけで、彼が誰であるかなんて分かってしまう。
「君が、リリスか……」
「いかにも」
リリスはゆっくりと顔を持ち上げて、血に染まるリューズへと目配せた。
「我も今しがた、ここへ来たばかり。そのときは既に、もうその状態であった」
「分かっているのなら、早く回復魔法を施せ。君ならば、そのくらいできるだろう」
「肉体の回復はできても、壊れた魂までは蘇生できない」
「……壊れた、魂?」
「そうだ。ハイデスの仕業であろう。あやつは、リューズの肉体のみならず、その精神や魂までをも破壊してしまった。こうなってしまえば、もうどうしようもならぬ」
「……だったら、なんだって言うんだ……」
淡々とそう語るリリスには、怒りがこみ上げてくる。
「ないのなら、探せばいいだけの話だろ! なにかしら、リューズを復活させる方法があるはずだ、なにかッ──そうだ!」
あるじゃないか、僕には。リューズから授けてもらった、創造する力が。
「創造魔法だ! この力を使って、リューズの魂を創造すればいい! そうすれば、彼女は──」
「一度壊れた魂は、もう二度と元には戻らない。不可能だ」
「そんなこと、試してみないと分からない…それにハイデスの力を取り込んだ僕なら、なんだって、」
「だから、無理だと言っている」
「なっ、なんでお前は、そんなにも冷静でいられるんだッ⁉︎」
その時の僕は、感情を抑えることはできなかった。気付いたときには、僕はリリスの胸ぐらに掴みかかっていた。
「リューズが、死んだんだぞ⁉︎ お前のことが好きで、いつもお前のことを幸せそうに語っていた、リューズが……」
「すまない。我では、どうすることもできなかった。ハイデスの企みに、もう少し早く気付いていれば」
「……クソ。クソクソクソ、くそぉぉ……」
自分がどれだけ理不尽なことを言っているかは分かっている。このリリスという男は、僕のためにリューズを寄越してくれた。そうして僕は、こうして晴れて地下を出ることができた。悲願であったハイデスへの復讐も、ついに果たすことができた。だとすれば、真に責めるべきはリリスではない。
──僕だ。
「僕の、せいだ……僕なんか、やはり生まれてこなければ……」
「それは、違う」
リリスは、足元から崩れ落ちた僕の肩に手を置いて、それは悲しそうな声で言った。
「リューズは、君をここから連れ出そうと、共に歩む未来のために頑張っていた。君の世話焼きを買って出たのも、彼女が言い出したことだった。」
「……」
「君が地下に幽閉されていることを我が知ったことにしろ、君の母親がハイデスに殺される間際、いつか君のことを助け出して欲しいと家臣の一人に言い残したからだ。その家臣が、我にその事実を打ち明けてくれたのだ。ハイデスに知られたら、自分の命まで危ないというのに」
今更そんなことを言われたところで、もう僕の心にはなにも響きはしなかった。
「ハデス。君は、沢山の者に生きることを願われ、今ここにいるのだ……そのことだけは、どうか分かってほしい」
いくら生きることを望まれたところで、その者たちは、もうどこにもいないのだから。
僕は、一人ぼっちだ。
その後、リリスは第6代目魔王に就任。ハイデスを倒し王位を継承したと、そんな風に事実は改竄された。僕の存在をおおやけに明かさなかったの、僕を守るためだろう。そもそも僕は、この世にいない存在。僕がハイデスの息子で、その父ハイデスを殺したとあらば、きっと僕はタダでは済まない。だったら、無名の吸血鬼ハデスのまま生きていた方が、余計な争いが起きずに済む。
自由に生きていいと、リリスにはそう言われたのだが……結局、僕はリリスの城にある地下に引き籠るようになっていた。皮肉な話なのだが、やはり地下の方が落ち着く。持ち余した自由など、僕には毒でしかないのだから。
それから、またしばらく時が過ぎていった。時間の感覚など忘れてしまうくらい、自堕落な日々を過ごした。ただ、その途方もない自由な時間の中で、僕は様々な魔法を開発し、リリスたちに協力。自分の責務くらいは、果たせていたと思う。これからもずっと、そのような時間が過ぎていくのだろうと、そう思っていたのだが……。
その終わりは、忽然とやってきた。
その日、リリスが突然僕の元へ訪れ、どうしても見せたいものがあると言ってきた。行くつもりもなかったが、あまりのしつこさに、僕はこの魔王城の地下に引きこもって以来はじめて地下を出た。
そして、ビルマ・マルクレイドという人間の少女と出会う。
驚いたことに、彼女もまた僕やリューズと同じ、創造魔法を扱えるという。それだけじゃない。彼女は、この僕ですら不可能だった、魔装神器の創造を成功させたのだった。
リリスがなぜ僕に彼女を見せたかったのか、自ずと理解した。
ビルマ・マルクレイド──彼女の雰囲気はどことなく、リューズと似ている。
そして案の定、リリスは僕にビルマと共にディスガイアへ行くよう話を持ちかけてきた。ビルマのサポートをして欲しいと、そういうことだった。
ふざけるな。なぜ僕がそんな面倒なことをしなければならない。大体、僕は地下で一生過ごすと決めた。この暗い地下こそが、僕の楽園なんだ──と、はじめはそんなことを思っていたのだがな……。
「よろしくね、ハデス!」
結局、僕はそう言って笑うビルマの手を掴んでしまった。
あれから3年、このディスガイアでいろんなことがあった。あり過ぎて、そのことを語り出すとキリがない。とにかく、あっという間だった。こんなにも時間の流れが早いと感じたのは、生まれて初めてのことだった。
僕は今もまだ、ディスガイアにいる。
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