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楽園破壊編
いきなり告白されました
しおりを挟むロクティスは粟立つ感情を制しつつ、ゆっくりと腰を低く落とした刹那。彼の急かす心臓の鼓動、荒ぶる息が、彼の意思に従い出した──
俺は、強い。
「アスラ流、真髄拳──壱型『隼』」
そして、ロクティスが動く── 『アスラ流真髄拳壱型『隼』──残像を残す程の高速移動から放たれるは、オーガ族の歴史が築いていきた力の真髄拳。つまりは、血筋の暴力であった。
純粋な力比べであるならば、オーガ族に優る魔族はいない。ましてやこの男──アスラ・ザラ・ロクティスとは、【魔族最強の剛拳】と世界にその名を轟かせる実力者だ。
称賛に見合うだけの力を、ロクティスは有している。
畏敬されるだけの研鑽を、ロクティスは培ってきた。
故に、ロクティスは動じない。
故に、ロクティスは揺るがない。
(俺は、強いッ──!)
そして、急激な加速から発せられる怒涛の拳がビルマの顔面へと放たれる。無論、手加減なし。そんな余裕が、今のロクティスにはない。
そんは予想通り、拳に感じるは鈍い手応えであった。
「──へぇ、少しはやるようじゃない、あなた」
余裕じみた態度のビルマ。その手にいつの間にか握られていた漆黒の盾が、ロクティスの拳を真正面から受け止めていた。
一体どこから──いや、これは愚問か。
「それが、噂に聞く創造魔法か。なるほど、これは珍妙な」
「あら、見るのは初めかしら?」
「いや、二度目だ……ただ、これ程の高度な精製物は、初にあたる」
あり得ない。この俺の拳を真正面から受け止めて尚、傷一つない盾だと?
しかもこの盾、やけに小さい。また拳から伝わる感触は、やけに軽く感じられた。さながら、それは空気を殴っているかのような虚無感。
面白い──
「ならば、これならどうだ。アスラ流真髄拳──尼型『孔雀』ッ!」
続けてロクティスから放たれる、それは拳により連撃。常人ならば、静止してすら見えるだろう拳の無慈悲なる嵐、その暴力。加えて、その拳に纏われるは炎の魔力。総じて、ロクティスの拳は炎の嵐と化す。
「──らぁぁぁアアアアッ」
さすがにこれでは、その小さき盾如きでは受け止め切れまい──と、ロクティスはその事実を疑わなかった。
疑うべきは、そこではなかった。
「──あら、どうしたのいきなり踊り出したりなんかして。なにかの余興かしら?」
「っ⁉︎」
その声は、背後から聞こえる。拳を瞬時に止めると、そこに彼女の不気味な笑みはない。振り返ると、そこにより一層の不気味な笑み。
(馬鹿な、あり得ない……まさかこの俺が、奴の動きに取り残されている? 奴の脅威は、なにも創造能力だけではないということか──)
と、ロクティスの心に動揺が生じた。その瞬間だった。
「なら、あなたの踊りに答えて、わたしも一緒に踊ろうかしら?」
ロクティスの視界から、再びビルマが消えた。次に見た時、魔王は彼の眼前へ。まるでこれから唇を交わす情人のような距離感で、ふっと優雅に笑った。
「あなた、なかなかに綺麗な顔をしているのね」
蠱惑的な瞳と声が、ねっとりとロクティスへと投げかける──動きが、取れない。
「ふふ、怖がらなくていいのよ? わたし、綺麗な男は嫌いじゃないの」
べっとりと、ゆっくりと、這うように伸びたビルマの美麗な指先が、ロクティスの頬を撫ぜた。
心臓が、跳ねるように高鳴る──
なんだ、これは──
恐怖か。畏怖か。畏敬か。武者振るいか──もしくは、そのいずれにも該当しない、別のなにか。
「証明、しなければなるまい……」
ロクティスはビルマの手を振り払うと、床を飛び蹴り後退。すぅーと、深く息を吸い込み、呼吸を落ち着かせる──
「余興は終わりだ、魔王。これより先は、修羅の極地なり」
そう言った直後だった。ロクティスの持つ膨大な魔力のオーラが、赤黒い炎のように右拳へと集約されていく。
「アスラ流、真髄拳──参型『鳳凰』……この一撃は、今までのものとはわけが違う。降参するなら、今のうちだ」
「へぇ。どう違うのかしらね。少し、興味があるわ」
臆することはなく、むしろ優雅な笑いを浮かべて受け答えるビルマ。ゆっくりとその手を前へ翳し、唱える──
「創世魔法──終焉に咲く黒薔薇」
先ほどビルマの展開した盾を軸として装飾される八枚の黒い羽根──もとい、それは黒薔薇の花びら。
(まさか、最初のあれは未完成だったと……ククク、ならば手加減は無用か)
全身全霊をその一撃に込めて、ロクティスが動いた。制御を失った魔力を背中から迸らせ特攻するその様は、さながら大地を駆ける紅蓮の宝鳥──鳳凰である。
そして、鳳凰の嘴が黒薔薇を啄む。
「──ッ!」
拳と盾ば重なり合ったその瞬間、建物全体がぐらりと揺れた。また、彼らを中心として床や壁に無数の亀裂が走り、窓ガラス全てが弾け割れた。
勝敗は──
「……驚いたわ、今のはわたしの負けよ」
盾の全体に走った亀裂を見て、ビルマはあっさりと敗北を認めた。
一方のロクティスは、愕然としていた。
(俺の全身全霊の拳を、完全に防ぎきった……だと……?)
その時点で、ロクティスの証明は終了した。
挑んだことが愚かしく思えるくらいの圧倒的な力量差を目の当たりにして、ロクティスの肩がガタガタと震え出す。
これまで、ロクティスが一度も感じたことのない新たなる感情。その芽生えだった。
彼女の瞳を見ていると、その中へ飛び込みたくなる──
彼女の声を聞いていると、そのまま眠りにつきたくなる──
彼女の肌に触れていると、その体を思うがままにしたくなる──
彼女の存在が、一種族としての俺の本能を強く駆り立てる──
この感情は──
「恋……」
ロクティスは、ビルマの瞳を真っ直ぐと見つめながら、言った。
「俺さ、あんたに惚れてしまった……かもしれない……」
俺は一体、どうしていきなりこんなことを──と、ロクティスは自身の聞きたくてならなかった。そのくらい、彼の心と体、そして思考が激しく倒錯する。
でも、仕方がない。
それに、師も言っていた──『修行は石の上にも三年。恋は、唐突である』と。
そして恋の始まりには、心臓のドキドキが鳴り止まらない、と──。
「ふふ。いきなりそんなことを言われたのは、初めて。そんな勇ましい顔して、なかなかに可愛いのね、あなた。気に入ったわよ」
「な、ならば……」
「でも、ダメよ。わたし、そんなに安い女じゃないの。それに、ねぇ」
その瞬間、ビルマの表情が豹変した──聖母のような微笑みから一転、そこにあったのは閻魔すらも恐れ慄くだろう邪悪なる笑み。
「罰は、きっちりと受けてもらうわよ」
そして、地獄の舞踏会とは幕を開けるのだった。
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